内容紹介

吹き抜け空間には、何とも言えない魅力があります。パッと広がる明るさと開放感、遠くにも目が届く見通しの良さ……。個人住宅の建て主のなかに「ぜひ吹き抜けを設けてほしい」と設計者に要望する人が多いのも頷けます。個人住宅だけではありません。集合住宅や庁舎、オフィス、図書館などさまざまな用途の建築物に、吹き抜けは広く導入されています。

一方で吹き抜けには、難しい問題がつきまといます。快適な温熱環境を維持するのが難しいという問題です。特に切実なのが、居住者が一日の大半を過ごす住宅の室内。吹き抜けは、1フロアの空間より暖気が上昇するスピードが速いため、冬は足元が寒くなり、夏は上方に熱がたまりやすくなります。多くの建て主は、実際に生活を始めてからその事実に気づくため、後になってトラブルに発展するケースも珍しくありません。

オフィスや店舗に吹き抜けを導入する場合も注意が必要です。特に問題になるのが夏の暑さ。オフィスは、パソコンや照明など熱発生源が多いため、夏季の空調負荷は以前よりも格段に大きくなっています。さらに、吹き抜けを導入すれば、上方に熱溜まりができ、一段と空調負荷が高まることになりかねません。当然、それを緩和する対策が求めらます。

本書は、建築実務者や建築主の方々を対象に、吹き抜け空間が持つ豊かなデザイン性を存分に生かしながら、同時に快適な温熱環境を維持していくためのヒントやアイデアをまとめたものです。紹介している事例は、規模や用途もさまざまで、気候や風土もまちまちです。しかし、多くの設計者が吹き抜けの意匠性と温熱環境向上を両立するために、必死に工夫を凝らしています。そのなかには、ほかにも応用できる有益なアイデアが少なくありません。

これからは省エネ性能が厳しく問われる時代。見栄えがよいだけの吹き抜けでは、建築主を説得できません。意匠性と温熱環境向上を両立させることは、もはや必須条件と言えるでしょう。幸いなことに、最近はそれを実現しやすい設計環境が整いつつあります。安価な予測ツールを使って、吹き抜けの温熱環境をパソコンで手軽に予測できるようになりました。こうしたシミュレーションも、設計者の助けになるでしょう。

本書が、吹き抜けに関心をもっておられる建築実務者や建築主の方々に、少しでもお役に立てれば幸いです。