内容紹介

テレビ放送が大きく変わろうとしています。少なくとも質的にはアナログ放送から地上デジタルへの移行以上に大きな変化になりそうです。不特定多数の人が同じ映像を見るテレビ放送から、通信技術を放送に組み込むことで、視聴者一人一人が、同じチャンネル内でも好みの精細度の映像や好みの音声品質、好みのカメラ映像を選べるようになる、という変化です。この変化は2014年に始まります。単なる映像の高精細化にとどまらず、インターネットとの融合が大きく進んでいきます。

2016年に衛星放送などで始まる4K/8K放送では、映像と音声などをパッケージにして送る多重化方式がそれまでのMPEG-2 TSから、MPEG Media Transport(MMT)という規格に変わります。MMTでは、映像や音声などを、IP(internet protocol)パケットに格納して送ります。放送と通信の伝送路の区別が完全になくなり、例えば、スポーツやコンサートの中継で、メインカメラで撮影した万人向けの映像を放送波を用いて送る一方、複数のサブカメラの映像を通信回線で送ることができるようになります。

テレビ受像機自体も変わります。テレビ受像機は、放送を受ける機器という役割とは別に、家庭や職場での映像や情報のハブとしての役割が比重を増すのです。現在、4K映像への対応が加速していますが、同時にHTML5という最新のHTML仕様の実装も進んでいます。テレビ受像機がHTML5に対応することで、ようやく本物のスマートテレビとなり、モバイル機器とのコンテンツのやり取りがシームレスになります。

放送とテレビ受像機の変化は、車の両輪のように密接に関連して、テレビ放送を全く新しいサービスへと変えていくでしょう。これは世界に先駆けた変革であり挑戦です。変革を進めている技術者さえ、手探りで進めている点が少なからずあります。

本書ではそうした放送とテレビ受像機の最近の変化、そして近未来の変化を詳しく紹介しています。本書が、新しい放送サービスの方向性と、それに伴う技術上の変化、そしてビジネス上の変化を見通すきっかけになれば幸いです。