NISAやiDeCoなど、投資に関する単語を耳にすることや老後の資産形成やライフイベントの備えのために投資を促されることも多くなりました。でも、世間で話題になっているから、漠然とした将来不安があるからという理由で投資をしていても長続きはしません。重要なのは、「何に」「どのように」投資をするかであり、自分だけの軸を持つことです。『私たちはどう投資をするか?』(八田潤一郎著/日経BP)から、これからを生きる人の投資との向き合い方を紹介します。第1回は自分のための2つの資産について。

お金を得ることが投資目的の人は少ない

 将来に得られると期待できることから投資を考えてみましょう。

 それはやはり「お金」でしょう! と即答する方が想像できます(笑)。たしかに、先の人生を考えても、お金はいくらあっても困りませんし、“資本”主義というくらいですから、豊かさの念頭には資本=お金があるはずです。

 ただ、お金を得ること自体を投資目的にしている人は少数派なはずです。

 多くの人は、したいことや欲しいものにお金を使いたい、という目的があるからこそ、お金を多く得たいと思うはずだからです。その目的が達成できたときには、支払ったお金と同等、あるいはそれ以上の価値を見いだせるもの――満足感や幸福感の享受、知識やスキルの獲得、経験値の向上などの効果があります。それらはいわば、「自分という資産(以下、自分資産)」の向上とも言えるのです。

投資と労働では、増える資産は異なる

 私が運営に携わる金融系学生団体には、時々「学生のうちから投資するなんてロクな人間にならない」「真面目に働く社会人を目指せ」といったアンチコメントが届くことがあります。「労働こそ美徳」という価値観が日本に根強いことを痛感します。

 言うまでもなく、労働は大事です。ただ、労働も大事なら、投資も大事です。それぞれのメリットは分けて考えるべきで、労働はスキルやコミュニケーション能力などの自分という人的資産の向上のためにすること、投資は金融資産の向上のためにすること、というような位置づけはどうでしょう。

(写真:Богдан Маліцький/stock.adobe.com)
(写真:Богдан Маліцький/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 自分の可能性を広げるには、興味があることはまずやってみる、という姿勢が必要です。若者の特権は、投資も含め新しいチャレンジのための時間がたくさんあることです。

 年を重ねるごとに、体力も気力も衰えて老化していきます。自分という人的資産を向上させようにも、限界を感じるときが必ず訪れるわけです。それと反比例して、年々増やすことができるものの一つが金融資産です。若いうちは、自分が高齢者になるのは想像しにくいものですが、ちゃんと考えられる人は、未来の自分の助けとして長期投資を始めるのかもしれません。

図:一般的な自分資産・金融資産の推移
(『私たちはどう投資をするか?』32ページより)
(『私たちはどう投資をするか?』32ページより)
画像のクリックで拡大表示

 先がまだ長い若者だからこそ、「自分資産」の最大化を目的にする意味は大きいと思います。人生をより豊かにするうえで、欠かせないものとも言えるでしょう。

 また人口が減少して労働力の価値が上がっている今、自分への投資に力を入れることは、自分という資産をより大きくすること、さらに労働市場における人材としての価値も高められることを意味します。これからAI技術の進化によって自動化される仕事が増えても、優位性の高い人材でいられるでしょう。とても理にかなっていますよね。

「投資といえば、金融投資」はのめり込んでしまっている証拠?

 なぜお金以外の資産の向上にもふれるのか、疑問にお思いですよね。その理由は、一つの投資に極端にのめり込んでほしくないからです。

 金融投資をしてお金が増えると、もっと増やしたい、という欲が出るのが人間で、お金を得ること自体を目的化してしまう人が少なくないです。なかには、自己投資や自分磨きのための資金を使ってしまう人や金融投資の楽しさにドハマりして、四六時中株価や為替の動きをチェックし、勉強や仕事、人間関係などがおろそかになってしまう人もいます。

 そういう方々を見るたび、金融投資の楽しさをわかってもらえてうれしい半面、さすがに行きすぎでは? と思います。始めたばかりなど、“一時的な症状”で済むなら大きな問題はありませんが、慢性的な症状として定着しないように、注意が必要です。

 そういった点でも人生にはいろんな投資があって、金融投資はその一つにすぎない――この位置づけが、過度なのめり込み回避につながると思います。

 人生経験として、勉強や仕事をはじめ、趣味に興じることも特技を磨くことも、運動や旅行をすることなども自分資産を向上させるうえでは重要です。

 私たちの生活は、様々なことから成り立っていて、金融投資の優先度がとりわけ高いわけではありません。くれぐれも、この「全体感」を持って俯瞰(ふかん)することを忘れずに投資と向き合うようにしていただきたいです。

(写真:makieni/stock.adobe.com)
(写真:makieni/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

自分が持つ資産と投資にどう向き合うか

 さて私たち若者には他の世代より投資できる時間がたくさんあるとはいえ、時間は有限です。元手となるお金も有限です。限られた時間とお金をどう組み合わせて、「自分という資産(経験、スキル、人間関係)」と「お金の資産(金融資産)」に配分していくかを考えることが、人生と向き合う第一歩です。

 特に若者の場合、金融投資よりも、資格取得や語学の勉強などの自己投資を優先したいと考える人も多いと思います。だから、今は金融投資をしないというのも一つの選択です。

 もっとも、現段階でそれぞれの配分を完全に決める必要はありません。これくらいのお金と時間を割いて金融投資するけど、資格勉強、ジム通い、旅行にもこれくらいのお金と時間を割こうかなと、ふんわりとイメージすればOKです。

いまを諦めることなく、楽しみながら投資を続けられないのか? 若手投資家の著者が、等身大の視点で考え続けた問いをまとめた本書は、①投資時間の長さと、②投資を楽しむ視点を軸にしています。「若者代表」としての政府への提言が話題になった大学生投資家、初の著書!

八田潤一郎/日経BP/1760円(税込み)