日本では「籌木(ちゅうぎ)」と呼ばれる平らな棒で、16世紀フランスでは絹や麻で、古代ローマでは棒の先に海綿を付けて……。トイレットペーパーにまつわる知られざる歴史を『身近すぎて気づかない、偉大な発明図鑑』(クライブ・ギフォード 著、定木大介+岩田佳代子 訳)から紹介します。

トウモロコシの穂軸で拭く

 古来、用を足した後始末には、大きな葉やヤシの葉、古い布切れ、古代ギリシャでは陶器の破片(痛そうだ!)など、とりあえず手に入るもので間に合わせる傾向があった。日本では「籌木(ちゅうぎ)」と呼ばれる平らな棒で、汚れた部分を拭っていた。16世紀フランスの裕福な貴族や女性は、レースや絹、麻の切れ端を使っていたと言われている。古代ローマのトイレはほとんどが誰でも使える公衆トイレで、個室はおろか間仕切りさえなく、拭き取りには棒の先に海綿を取り付けたものをみんなで使い回していた(使用後は塩をたっぷり入れたバケツに浸しておく)。

 アメリカの初期入植者と農民はトウモロコシの穂軸で拭くことに抵抗がなかったが、印刷・出版が大きく拡大し、それに伴って新聞や通信販売カタログが普及すると、トイレのドアの内側にフックや釘を取り付けて、そこに新聞紙や古いカタログのページを吊るしておくのが一般的になった。

葉っぱ、陶器の破片、トウモロコシの穂軸……これらはみな、用を足した後始末に使われていた。
葉っぱ、陶器の破片、トウモロコシの穂軸……これらはみな、用を足した後始末に使われていた。
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 トイレットペーパーを最初に製造したのが中国だということは、彼らが今から1800年以上も前に紙を発明したことを考えれば驚くに当たらない。それが正確にいつだったのかは歴史家の間でもはっきりしないが、古くは6世紀、宮廷の役人であり芸術家でもあった顔之推(がんしすい)が、「五経の引用や注釈、賢人の名前などが書かれた紙は、便所の用には使わない」と記している。

 1391年の中国の宮廷記録には、皇族の生活必需品をそろえる役所が、南京の支配者とその家族のために72万枚の便所紙を生産していたことが記されている。この便所紙はおよそ3フィート×2フィート(約90センチメートル×約60センチメートル)という大判のものだった。

20世紀になると、ためらいは薄れて…

 近代的なトイレットペーパーの発明者を見つけるには、それから450年以上時代を下った米国ニューヨークを訪れなければならない。マサチューセッツ州生まれのジョセフ・C・ゲイエティーは、自分の名前の透かしが入った香り付きの「薬用」紙を、痔に悩む人々のための医療補助材として提供することを思いつく。1箱500枚入りのこの商品は1857年に発売され、1920年までほかの会社からライセンス販売された。

 その間、1879年に英国のウォルター・アルコックと米国のスコット兄弟(クラレンス・スコットとE・アービン・スコット)によって、ロール状のトイレットペーパーが初めて市販された。スコット兄弟はスコット・ペーパー社のオーナーとして「Waldorf(ウォルドーフ)」のブランドでトイレットロールを販売し始めたが、パッケージには自分たちの名前を入れないか、または極力小さく表示した。19世紀の米国では、トイレットペーパーという話題には依然として気恥ずかしさがつきまとったからだ。

 20世紀になるとそのようなためらいは薄れ、ミシン目の入った正方形のロール紙や2枚重ねの紙(1942年にセント・アンドリューズ製紙工場が最初に導入)が一般的になった。1928年にはホーガン・ペーパー社が美しい女性たちをフィーチャーした「Charmin(チャーミン)」ブランドの広告を展開し、その4年後には記念すべき4ロールパックを発売、のちには熊や犬などの動物を起用した広告キャンペーンで人々の心をつかんだ。

 1970年代を迎える頃には、米国人は柔らかいトイレットロールにすっかり惚れ込んでいた。1973年12月に「ザ・トゥナイト・ショー」の司会者ジョニー・カーソンがトイレットペーパー不足に関する冗談を口にしたところ、実際に品不足が起きてしまったという珍事さえある。カーソンのジョークを真に受けた人々が大慌てでトイレットペーパーを買いに走ったため、スーパーマーケットの棚が空になってしまったのだ。

(写真左)ロール状のトイレットペーパー。1枚のサイズは従来4.5インチ(約11.4センチメートル)四方だったが、より小さいサイズも生産されている。(写真右)製造ラインを流れてゆくトイレットロール。1日に200万ロール生産する工場もある。
(写真左)ロール状のトイレットペーパー。1枚のサイズは従来4.5インチ(約11.4センチメートル)四方だったが、より小さいサイズも生産されている。(写真右)製造ラインを流れてゆくトイレットロール。1日に200万ロール生産する工場もある。
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絆創膏、安全ピン、トイレットペーパー、鉛筆、缶切り、クレジットカード、シートベルト……今や“身近すぎる”存在となっている79種類の道具たちは、どんなきっかけで、どんなアイデアを基に開発され、普及したのか。意外と知られていないエピソードの数々を、多様な写真とともに紹介する。

クライブ・ギフォード(著)、定木大介、岩田佳代子(訳)/日経ナショナル ジオグラフィック/3300円(税込み)