X(旧Twitter)フォロワー63万人、YouTubeチャンネル登録者数26万人、noteの有料会員2.5万人と人気の後藤達也氏が、投資に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。そして、すっかり魅了された理由とは? 新刊『 転換の時代を生き抜く投資の教科書 』から抜粋して紹介します。

(前回から読む)

私が株を始めた理由

 前回は、投資の意義と、始める環境が整ってきたことなどについてお伝えしましたが、かくいう私自身が投資を始めた時は壮大な意義を意識していたわけではありません。

 大学一年生の時に、マネックス証券の創業者である松本大さんの講演をたまたま聞いたのがきっかけです。松本さんはかつて米銀ゴールドマン・サックス(GS)に勤め、異例の早さで出世していました。しかし、1990年代後半のインターネットの隆盛を見て、GSを辞め、ネット証券を立ち上げました。

 松本さんはあと半年ほどGSに残っていれば、IPO(新規上場株式)の関係で数十億円もの収入を得られていたとされています。しかし、それを待っていてはネット急拡大の波に乗り遅れると判断し、数十億円を諦め、起業しました。

 大学生の私は「すごいなあ」と感じました。ちょうどマネックス証券自体のIPOが数カ月後に迫っており、当時あった30万円ほどの貯金を、松本さんの挑戦に投じようと思いました。証券口座を開き、マネックス株を購入。人生初めての株式投資でした。

 初めのうちは株式の基本的な用語の理解もままならず、「株価はどうやって決まるのか」「どうやって売買するのか」すら分からないまま、投資の世界に入りました。ちょっと無謀なように感じるかもしれません。株の入門書も読まず、インターネットでも十分に調べずに、門をたたいたわけです。

 それでも、まずは少し触ってみるというのもいいと思います。スポーツだってそうですよね。野球でもテニスでもまったくボールに触ることなく、いきなり本や動画で勉強してもほとんど身に付かないと思います。投資も気負って、分厚い教科書を使った勉強から始めても非効率ですし、そもそもやる気が続かないはずです。

 それで、私の初めての投資はどうなったのか。実はビギナーズラックだったのか、ものすごくもうかりました。4万5000円で公開されたマネックス株を6株持っていたのですが、上場直後に株価は2倍以上になり、数日のうちに数十万円もの利益が出たのです。

 大学生にとって数十万円の利益とは途方もない金額です。「なんだこの世界は」と一気に引き込まれました。ただ、「おカネもうけしてやろう」という欲が暴走したというわけではありません。「何でこんなに値上がりしたのだろうか」「まだ上がり続けるんだろうか」「こんな急上昇はよくあることなのか、たまたま運がよかっただけなのか」。そんな素朴な疑問が続々と湧き、一つひとつ自分なりにその答えを探るようになりました。

 身銭を切っていることもあり、学ぶ意欲が桁違いに高まりました。そうこうしているうちに、さまざまな情報が蓄積されていきます。当時キーワードだったITや不良債権についても理解が進み、バラバラだった知識がどんどんつながっていきました。

 当時、私は経済学部の学生でした。大学の授業で学ぶ理論や歴史ももちろん大切ですが、私はむしろ株式市場で繰り広げられるドラマのほうに魅了されていきました。

 市場は、企業も景気も政治も国際情勢も、あらゆるものが絡むなかで世界中の英知とマネーが綱引きする舞台です。「事実は小説よりも奇なり」の集合体のような場所は多くの人の知的好奇心をも刺激しています。

 というわけで、私の投資への入り口は「資産形成するぞ!」「ビジネス教養を身に付けるぞ!」と意気込んだものではなく、「松本さん、すごいなあ」という衝動的なものでした。それでも一度投資の世界に入ると、面白さと奥深さに魅了されました。

投資先に思いを巡らせることは経営の疑似体験

 大学生の頃は、主に日本の個別株の取引を重ねていました。トヨタのような輸出企業、ソフトバンクのようなIT関連、当時は「不要論」まで飛び出していた総合商社、不良債権問題に苦しむ銀行、小売り……数えきれないほどの銘柄を売買しました。

 株価を左右する要素は実に多くありますが、「将来どれくらい利益を稼ぎ出すか」が最も重要です。

 もちろん、企業がどれくらい稼ぎ出すかなんて、その会社の社長であっても正確に分かりません。予期せぬショックだって起こり得ます。そのなかでも、その企業のブランド、開発力、顧客の動き、ライバル社の動向などにアンテナを伸ばし、「この企業におカネを託そう」と決め、株を買います。

 一例を挙げましょう。例えばコンビニの売上高や利益は近所にある競合店との競争だけで決まるわけではありません。

 新型コロナウイルス感染症の影響で外食の利用が急減すれば、スーパーで食材を買って、自宅で料理する人が増えます。ロシアのウクライナ侵攻で穀物の値段が上がると、パンやカップ麺の仕入れ価格が急騰します。人手不足が深まれば、バイトやパートの時給も上げなくてはなりません。景気全体が冷え込めば、企業の努力だけではいかんともしがたい面もあるでしょう。実にさまざまな要因が経営を左右します。

『転換の時代を生き抜く投資の教科書』39ページより抜粋
『転換の時代を生き抜く投資の教科書』39ページより抜粋
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 株価は、環境の変化にすぐ反応します。もちろん、新型コロナウイルス感染症が拡大した瞬間やロシアがウクライナに侵攻した瞬間に、コンビニの今後の売上高がどうなるかを精緻に予測することはできません。しかし、株価は「こんなことが起こったら、だいたいこれくらいの影響が出そうだ」という予想のもとに変わっていきます。株価を見れば、「世の中の予想」がどうなのかを知ることができるわけです。

 株価の動きを見ていれば、なにか事件が起こった時の、経済的な広がりをつかむことができます。そうした事例を数多く見ていけば、経済の仕組みがリアルタイムのドラマとして見えてきます。投資先を選ぶ際に、ここはどうなるのかと思いを巡らすこと自体、社会の動きを考察することになるわけです。

 思いを巡らす先は、単にその企業の商品だけではありません。先述のように新型コロナウイルス感染症や戦争も大きな影響を及ぼします。政局、気候変動、若者の価値観の変化など、あらゆる事象が関連してきます。

 見立て通りにいき、株価が上がれば素直にうれしいでしょうし、仮に見立てが外れ、株価が下がった時にも学ぶことがたくさんあります。自然災害など予期せぬ環境変化の影響かもしれません。思いのほか、顧客の心をつなげなかったのかもしれません。ライバル社が画期的なサービスを生み出したのかもしれません。

 誰かがつくった単純な経営ゲームではなく、変化が激しい実社会での経営を疑似体験できるわけです。こう聞くと途方もない世界に感じてしまうかもしれませんが、実際に投資を始め、さまざまな話題がつながってくると世の中を見る目が変わり、知的好奇心も広がっていきます。そして、自分のおカネが社会の資本として回り、企業は経済活動を進めます。銀行預金とは違い、自らの考えで投資先を選び、世界の経済活動や社会貢献に参画していることにもなります。

(写真:Gasspoll/stock.adobe.com)
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(次回に続く)

新NISA、株高、円安、インフレ、人生100年時代……今、お金をとりまく環境は、大きな転換点にきています。今まで投資をしていなかった人も、投資をすべき時代になりました。投資を通じて得られるのはお金だけではありません。株価は景気や企業だけでなく、世界情勢や金融政策、テクノロジー、あるいは社会の変化などさまざまな要素を映し出す鏡です。本書では、X(旧Twitter)フォロワー63万人を誇る元日経新聞記者の後藤達也さんが、現代のビジネスパーソンが備えておくべき株式市場や経済の仕組みの最新知識をベースに、「投資の世界」を分かりやすく解説します。

後藤達也著、日経BP、1760円(税込み)