森岡毅氏率いる刀(大阪市)が強みとするのが、特徴を生かした事業開発だ。2025年夏に沖縄北部に開業する「ジャングリア」でもその考えに沿い、「やんばるの森」や元の地形を生かす。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。(本文敬称略)
「ここには隆起もあれば天然の谷もある。この地形を使えば、平たんな土地ではできない面白いことができるのではないかと、いろいろなアイデアが湧いてきた」
沖縄北部に25年夏に開業する大自然のテーマパーク「ジャングリア」。森岡は建設地を決めた理由をそう説明する。
東京・お台場に24年春開業した「イマーシブ・フォート東京」で商業施設「ヴィーナスフォート」の内装を存分に生かしたつくりにしたように、ジャングリアの事業でも、地元の特徴やその土地の形状を生かす考えがベースにある。
元はオリオンビールが運営するゴルフ場だった。起伏のある地形はそのまま生かした設計にするのだ。
辺り一帯は亜熱帯の木々で生い茂るエリアでもある。沖縄と言われて多くの人が想起するのは海だろう。しかし、海ではなく緑に注目した点も、刀ならでは。
ジャングリアの出資者に名を連ねる沖縄の不動産会社、ゆがふホールディングス社長の前田貴子は言う。
「本来、沖縄といえば海のイメージ。でも、森岡さんの目には山や森の大自然も魅力に映った。地元にとって当たり前の存在だった亜熱帯の森にフォーカスをしてくれたのはありがたい」

刀が特に着目したのが、沖縄のやんばるの森だ。刀が筆頭株主となるジャングリアの運営会社、ジャパンエンターテイメントCMO(最高マーケティング責任者)の森崎菜穂美はその魅力を語る。
「沖縄の木々は整然とまっすぐに伸びていない。その独特の形が生命力を感じさせ、見る者に大きなパワーを与えてくれる」
本土ではあまり目にしない、うねるように勢いよく天に向かって伸びる木々──。
森崎は普段から、せわしない日々を送っている都市部で暮らす人にこそ、そうしたやんばるの森が醸し出す独特の雰囲気が大きな価値をもたらすと見る。
「やんばるの森は世界自然遺産にも認定されている。その価値をもっと広く認知させ、関心を高めていきたい。沖縄、そして日本の素晴らしい資産」(森崎)
刀が見いだした海と並ぶ沖縄の新たな魅力をジャングリアの魅力に重ねて訴求していく。
沖縄県は地理的条件でも優れていると刀は見る。世界的な南国リゾート都市といえば、日本人も大好きな米ハワイがある。観光都市としての発展程度を見ると、現時点で沖縄は大きく水をあけられている。それでも、沖縄の地理的条件の良さはハワイ以上というのが彼らの見方だ。
「沖縄は片道4時間圏内に20億人もの人口を抱えるが、ハワイは同じ距離圏内にイルカしかいない」
森岡は沖縄のポテンシャルを語る際にジョークを交えて話すが、込めたメッセージは真剣そのものだ。
いずれも青い海、緑豊かな自然を擁するリゾート。だが、太平洋のど真ん中に位置するハワイに比べると、たしかに沖縄のアクセスの良さは抜群だ。沖縄を中心に片道4時間圏内のエリアで円を描くと、東京以外に香港や上海、台北、ソウルといったアジアの主要都市が数多く入る。
地元の人さえ意識していなかった強みに着目し、その良さを最大限引き出す事業計画を打ち出す。刀がそうした考えを重視するのは、その考えに沿ってこそ、成功確率の高い需要と投資のバランスが実現できるからだ。

事業を始めるとき、多くの経営者は白いキャンバスに自分の絵を自由に描きたいと考えるだろう。テーマパークは都心の一等地の更地につくろうとするのが一般的だ。経営トップが交代したときはどうだろう。新社長は先代とは全く異なる事業に取り組みたくなるかもしれない。
しかし、森岡はこう言う。
「全く新しいことをやっても意味がない」
歴史やこれまでの取り組みがあるなら、それを振り返った上で、生かせるものは生かす。その方がゴールは近くなると森岡や刀は考えるためだ。
「その物件、その人、その文脈、すべての事象には特徴があって、その特徴をプラスに捉えるのも、マイナスに見るのも、戦略家の能力次第」(森岡)
地域、不動産、人材に至るまで、あるものを見たとき、特徴や強みを探し出した上で、それにどこまで可能性を感じ取り、さらにその先の未来の姿を描けるか。
ヴィーナスフォートの居抜き活用や未開発の沖縄北部でのジャングリア開業……。刀から独自の発想が出てくるのは、強みや特徴はどこにあるかの視点を強く持っているからだ。エンタメ事業にかかわらず、あらゆる事業、ひいては人材活用のあり方にも応用できる考え方だろう。
[日経ビジネス電子版 2025年2月21日付の記事を転載]
中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)

