若者を「教え導く」のではなく、若者から「学ぶ」
「最近の若者は、何を考えているか分からない」「言われたことしかやらない」「ちょっと注意しただけで、すぐに辞めてしまう」――管理職の方や、親御さんから、そんな嘆きを聞くことが増えました。私自身、北九州市で「Z世代課」のディレクターとして彼らと向き合い、多くの若者と対話をしてきましたが、最初の頃は皆さんと同じように驚くこともありました。
しかし、彼らと深く付き合ううちに、ある決定的な事実に気づかされました。彼らは「やる気がない」のでも「能力が低い」のでもない。むしろ、私たち大人よりもよほど真剣に未来を考え、学びたがっている。ただ、私たちの「OS(基本ソフト)」が古過ぎて、彼らの新しいOSとかみ合っていないだけなのだ、と。
シリーズ最終回となる今回は、私たちのOSをアップデートし、次世代と信頼関係を結ぶための「大人の礼儀」についてお話しします。キーワードは、「若者を育てよう」という上から目線を捨て、「若者から学ぼう」と腹をくくることです。
「意味(Why)」を問う彼らは、反抗しているわけではない
Z世代やその下のα世代と接していて、多くの大人がカチンとくる瞬間があります。課題を与えたときに、間髪をいれずに「これ、何のためにやるんですか?」と尋ねてくるという場面です。
つい「いいからつべこべ言わずにやれ」「昔からそういう決まりなんだ」と、頭ごなしに返したくなってしまう。でも、これこそが、彼・彼女らが最も嫌うコミュニケーションであり、信頼を一瞬で失う「地雷」です。
なぜ、Z世代は「意味(Why)」を問うのか。 それは彼らが反抗的だからではありません。若い世代が受けてきた「教育」が、私たちとは違うからです。
学習指導要領が変わり、今の若者たちは学校で「探究学習」や「PBL(課題解決型学習)」に取り組んできました。「なぜ、それをするのか?」「あなたはどう考えるのか?」と、常に目的や意味を問われ続けてきた世代なのです。
だから彼・彼女らにとって、行動する前に「意味」を確認するのは、呼吸をするように当たり前のこと。それに対して、大人が「決まりだから」「部長が言っているから」としか答えられないとしたら、どうでしょう? それは「私は何も考えずに仕事をしています」と、思考停止を自白しているようなものです。若者たちは敏感にそれを見抜き、「この人からは学ぶことがない」と静かに心を閉ざしてしまいます。
だから、「意味」を問われたら、動揺せずにポジティブな言葉を返してください。「いい質問だね。実はこの作業は、君のこのスキルにつながっているんだ」「会社としてはこうだけど、私個人としてはこういう意義があると思っているよ」。そうやって、自分なりの言葉で語れるかどうか。
「正解」ではなく「あなた」の言葉を求めている
私はよく「自分語化(じぶんごか)」という造語を使います。一般的にいわれる「言語化」ではなく、「自分ごと化した言葉」という意味です。
今の若者は、ネットで検索すれば出てくるような「正解」や「一般論」には興味がありません。彼らが聞きたいのは、「で、あなたはどう思うんですか?」という「I message(アイ・メッセージ)」です。
「会社の方針はこうだ」ではなく、「私はこう思う」。「普通はこうする」ではなく、「私はここで迷った」。若者たちは、建前上の正解よりも、目の前の大人が1人の人間としてどう考え、どう葛藤しているかという「生の手触り」を求めています。
それなのに、大人が安全地帯から一般論でお説教をしてしまうと、彼らは「自分と向き合ってくれていない」と感じます。
先日、ある若手社員がこう言っていました。「飲み会が嫌いなわけじゃないんです。ただ、大勢の職場の飲み会で、上司の武勇伝や説教を聞かされるのが苦痛なだけで。信頼できる先輩となら、少人数で飲みに行きたいし、むしろ誘ってほしいです」。
Z世代やα世代の若者たちは決してドライなのではありません。むしろ、不安定な時代だからこそ、信頼できるメンター(助言者)や、本音で話せる繋がりを、飢えるほど求めていることも、対話や交流を重ねながら実感しているところです。
Z世代の「背景」を知るための3冊
では、どうすれば若い世代のOSを理解し、対話の糸口を見つけられるのか。「理解しよう」とする姿勢を示すためにも、まずは彼らを取り巻く環境や思考回路を知ることが第一歩です。ここでは、若者たちのサポーターである大人の皆さんに、ぜひ読んでいただきたい3冊を紹介します
まず、Z世代という「集団」の特性をつかむための基礎として、原田曜平さんの 『世代論の教科書』(共著、東洋経済新報社) をお薦めします。
「なぜ彼らは電話を嫌うのか」「なぜ『タイパ(タイムパフォーマンス)』を重視するのか」。そうした行動の裏にある背景をフラットに知ることで、「理解できない宇宙人」ではなく、「異なる文化を持つ隣人」として見る基本姿勢が整います。
次に、若者たちの心の奥底にある「不安」に寄り添うために読んでおきたいのが、山田昌弘さんの 『「今どきの若者」のリアル』(PHP新書) です。
Z世代以降の若者たちは、生まれた頃から日本経済が停滞し、「いい会社に入れば安泰」という神話が崩壊した後の世界を生きています。私たちが想像する以上に、彼らの将来に対する視界は厳しく、シビアです。
「なぜ、そこまで失敗を恐れるのか」「なぜ、安定を求めるのか」。その切実なリアリティーを知れば、彼・彼女らにかける言葉も「思い切り冒険しろ」といった無責任なものではなく、もっと寄り添ったものになるはずです。
そしてもう1冊、若者たちの「思考の深さ」を知るヒントとして、三宅香帆さんの 『考察する若者たち』(PHP新書) を紹介します。
SNSやコンテンツ消費において、彼・彼女らがいかに深く「考察」し、意味を読み解こうとしているか。一見、スマホばかり見ているように見えても、その頭の中では高度な知的探究が行われていることがあります。
若者たちの「推し活」や「考察ブーム」の背景にある知的好奇心を理解すれば、「意味(Why)」を問う彼らの姿勢が、実はビジネスや社会変革における強力な武器になることに気づけるかもしれません。
「教える」から「共に学ぶ」へ
これからの時代、年上が年下に一方的に教えるという関係性は終わります。経験豊富な私たちが「経験知」を教える代わりに、新しい感性を持つ若者たちから「未来の感覚」を教わる。そんな「互いに学び合う(共育)」関係こそが、健全な組織や家庭のあり方です。
一方で、彼・彼女らは、間違った時にはちゃんと指摘してほしいとも思っています。「人生の先輩」から学びたいという真摯な気持ちはとても強いのです。ただし、その形は「上からの叱責」ではなく、「並走者からのフィードバック」であることを忘れずに。
「君のその考え方は面白いね。勉強になったよ」「ちなみに、私の経験からすると、ここにはこういうリスクがあると思うけど、どう思う?」。そうやって、相手をリスペクトし、自分も学び手として接する大人と、若者たちはつながりたいと願っているのです。「若者から学ぼう」とするその謙虚な姿勢こそが、最も魅力的な「大人の礼儀」として映るはずです。
ここまで全3回にわたり、「サポーターとしての器」についてお話ししてきました。
親も上司も、不完全でいい。正解を持たなくていい。ただ、問いかけ、面白がり、共に悩み、学び続けること。そんな大人の背中を見て、次世代は育っていくのだと信じています。
まずは今日、目の前の若者に「これについて、君はどう思う?」と、教えを請うことから始めてみませんか?
取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/洞澤佐智子





