関係性を築く「質問の作法」
テスト期間中の子どもが学校から帰ってきた時、スポーツの大事な試合を終えた後、あるいは部下が営業先や大事なプレゼンから戻ってきた時。あなたは、どんな声をかけていますか?
「今日のテスト、どうだった?」「なんであんなミスをしたの?」「あの商談うまくいったのか?」
私たちはつい、気になって仕方がない「核心」を、そのまますぐに聞いてしまいます。沈黙が怖いし、早く状況を把握したい。そしてあわよくば、何か良いアドバイスをしてあげたい。そんな親心や上司心からの言葉なのですが、相手の反応はどうでしょう。「別に」「まあまあ」と素っ気ない返事が返ってきたり、時には「うるさいな」と部屋に閉じこもられたりしてしまう。
なぜ、うまくいかないのか。それは、質問の「順番」を間違えているからです。
コミュニケーションには、エチケットがあります。よその家に上がる時に「おじゃまします」と言って靴を脱ぐように、相手の心に入る時にも手順が必要です。
いきなり「核心」を聞くのは、土足でドカドカと部屋に上がり込み、寝ている相手を叩き起こして「調子はどうだ!」と聞くようなもの。これでは、相手が心を閉ざしてしまうのも無理はありません。
今回は、サポーターとして信頼関係を築くための「質問の作法」について、お話ししたいと思います。
質問は「コース料理」のように
私はよく、企業研修などで「質問はコース料理だと思ってください」と伝えています。
フレンチのコース料理を想像してみてください。席に着いてすぐ、いきなりメインディッシュの分厚いステーキがドーンと出てきたら、どう思いますか? まだお腹もすいていないし、心の準備もできていない。「うわ、重たいな」と引いてしまいますよね。
対話も同じです。「あなたにとっての『夢』とは何か?」「なぜ、それをやるのか?」「これからどうするつもりか?」――これらはすべて、対話における「メインディッシュ」です。人生の核心に触れる、脂の乗った重厚なテーマです。これを、関係性が温まっていない段階で、しかも前菜もなしにいきなり突き付ける。それでは相手は答えられません。
では、どうすればいいか。フレンチのコース料理に置き換えると、答えはシンプルです。まずは「前菜」や「食前酒」から始めることです。
具体的には、クローズド・クエスチョン(Closed Question)を活用します。「Yes / No」や「A or B」で簡単に答えられる質問から始めるのです。
「今日は暑かったね」「お腹すいてる?」「その本、面白いの?」
これなら、深く考えなくても答えられますよね。「うん」「まあね」といった短い答えを受けてキャッチボールを繰り返すことで、少しずつ会話のリズムが生まれ、場の空気が温まってきます。これが「前菜」や「食前酒」の効果です。
徐々に質問を核心へ近づけていくときにも、急がず、相手の答えやすさを重視して。まずは「未来」ではなく、「過去」を問う質問からほぐしていきましょう。
「将来どうしたいの?」といった未来への問いは、まだ見ぬことなので答えるのが難しいし、「言った以上はやり遂げないといけないのかな」と不安も伴います。一方で、「過去」のことはすでに起きた事実なので答えやすい。「部活を始めたきっかけはいつだったっけ?」「一番楽しかった試合はどれ?」といった具合です。
こうして、答えやすい事実を積み重ねていく。相手が自分の言葉で話し始め、表情がほぐれてくる。そのタイミングを見計らって、初めてメインディッシュを出すのです。「で、今、一番やってみたいことって何?」。この流れで聞かれれば、相手も準備ができていますから、ポツリポツリと本音を語り出してくれるはずです。
多くの親や上司は、「前菜」や「食前酒」の時間を省き過ぎています。そして、自分の聞きたいこと(メイン)を焦って提供しようとし過ぎる。まずは、相手が「答えやすい順番」をデザインする。それが、質問力を磨く第一歩です。
ここで、私がギリシャで参加したあるカンファレンス(会議)での話をさせてください。世界中のコーチが集まるその場で、ある興味深い研究発表がありました。オリンピックのボート競技におけるメダリストたちへのインタビュー調査です。
「あなたが過酷な競技生活を続けられた理由(モチベーション)は何ですか?」。この問いに対し、メダリストたちは何と答えたと思いますか? 「金メダルを取りたかったから」でしょうか? 「国の名誉のため」でしょうか? あるいは「自己実現」?
ギリシャで知った「シナモンドーナツ」の真実
答えは、ほぼ全員一致で「People(人)」だったそうです。
つらくてやめたいと思ったときに踏みとどまったのは、そこに仲間がいたから。ライバルがいたから。支えてくれる家族がいたから。結局、人を最後に支えるのは、崇高な目標や勝利への渇望ではなく、身近な「人とのつながり」だったのです。
さらに興味深いことに、その発表をした元メダリストの女性コーチが、こんなエピソードを話してくれました。彼女がコーチになりたての頃、ある選手に「なぜあなたはこの過酷な練習に来ているの?」と聞いたそうです。彼女自身は超体育会系で、「勝つため」にすべてを捧げてきたタイプ。当然、選手もそう答えると思っていました。
ところが、その選手はこう言ったのです。「練習の後にみんなでカフェに行って、シナモンドーナツを食べるのが楽しみだからだよ」。
当時の彼女は衝撃を受け、「そんな甘い考えで勝てるわけがない」と軽蔑すらしたそうです。しかし、その選手はめきめきと頭角を現し、結果として強くなっていきました。数年後、彼女は気づきます。「シナモンドーナツこそが真実だったんだ」と。
過酷な早朝練習を乗り越える原動力は、「金メダル」という遠い未来の栄光ではなく、「練習後に仲間とドーナツを食べて笑い合う」という、具体的でささやかな「今の幸せ」だったのです。
素晴らしい問いと答えがあふれる“サポーターの教科書”
この「シナモンドーナツ」の話は、私たちサポーターにとっても大きな示唆を与えてくれます。私たちはつい、子どもや部下に「高い目標」や「正しい動機」を持たせようとします。「そんな不純な動機でやるな」と叱咤してしまうこともあるでしょう。
でも、本当に人が踏ん張れるのは、隣に誰かがいてくれる安心感や、ささいな楽しみを共有できる関係性があるからです。そう考えると、サポーターができる最高のアシストとは、高尚なアドバイスをすることではなく、「一緒にドーナツを食べる」ような時間を共有することなのかもしれません。
そんな「理想的なサポーターのあり方」を深く教えてくれる、素晴らしい本があります。 『ぼく モグラ キツネ 馬』(チャーリー・マッケジー著/川村元気訳、飛鳥新社) です。
少年と動物たちの旅を描いたこの本は、「問いの力」や「寄り添いの力」、そして「支えるとは何か」という本質がたくさん詰まった対話の書です。
私が特にお薦めしたいポイントは、この本に出てくる質問が、すべて「相手をひらくための問い」だという点です。正しさを問いただすのではなく、相手の内側にポッと光を灯すような問いかけなんですね。
例えば、「君が一番勇気がいると思うことは?」という問いに、「助けを求めることだ」と答えるシーンがあります。相手の尊厳を守りながら、その人の本音や本質を優しく引き出していく。そして、そこにある答えやメッセージは、決して上から目線の説教ではなく、「私はこう思うよ」と隣から差し出されるものです。
サポーターやリーダーは、「教える人」である必要はありません。「隣を歩く人」であればいいのです。この本のキャラクターたちは、互いに欠点がありながら、その弱さごと受け入れ合っています。できないことを責めず、弱さを見せても離れていかず、必要な時にだけそっと言葉を置く。これこそ、チームや家族が目指すべき、成熟した支援のかたちでしょう。
そして何より、この本を読むと「自己受容」の意識が育ちます。「自分はこのままでいいのかもしれない」という温かさが、読む側の心に生まれてくる。実はこれ、他者を支援する上で一番大事なことなんです。なぜなら、自分を責めている人は、他者の弱さも許せなくなってしまうから。
まずは自分自身に優しくなること。それが、目の前の相手を「評価」せず、急かさず、ただ「そばにいる」ことができるサポーターへの第一歩なのです。
「分かったつもり」にならない強さ
最後に、もう一つだけ「お作法」について触れておきます。それは、安易に「分かるよ」と言わないことです。
相手が悩んでいるとき、私たちはつい共感したくて「その気持ち、分かるよ」と言いがちです。でも、人間心理というのは複雑なもので、分かってほしいけれど、同時に「自分だけの固有の苦しみを、簡単に分かられてたまるか」という反発心も持っています。これを「心理学的な二項対立」と言ったりしますが、要するに「分かってほしいけど、分かってほしくない」のです。だから、「分かるよ」と言った瞬間に、「あなたに何が分かるの?」と心のシャッターを下ろされてしまうことがある。
本当に信頼されるサポーターは、ここで踏みとどまります。「分かりたいけれど、完全には分からない」。このグレーな領域に立ち続けることができる人です。
「君のつらさを全部分かることはできないかもしれない。でも、分かりたいと思っているし、話してくれたことはうれしい」、そんな伝え方で、分からないまま、解決しないまま、ただ関心を持ち続ける努力をしたいものです。
良いサポーターであるためには、質問のテクニックや順番も大事ですが、最後はやはり一貫した「姿勢(スタンス)」です。
解決を急がず、正解を押し付けず、順を踏んでゆっくりと時間をかけて、不可解な人間そのものを味わうこと。そのプロセスを楽しめるくらいの気持ちになれた時には、たとえ気の利いたアドバイスなんて一つもできなくても、あなたはすでに「かけがえのないサポーター」になっているはずです。
取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/洞澤佐智子 本写真/スタジオキャスパー



