自社の商品の顧客はどうやって作ればいいのでしょうか。多くの商売において売り上げの約半分、あるいは将来の成長の大部分が「無関心層」の獲得によってもたらされています。しかし関心の薄い顧客を獲得するのは簡単ではありません。無関心な未顧客とどう向き合い、どう獲得していけばよいのか――。そのためには、消費者の行動を理解する必要があります。前回は顧客の購買行動を左右する「習慣」ができるまでのメカニズムを解説しました。今回は消費者が商品を繰り返して購入する際にカギとなる「ロイヤルティ」と「習慣」の違いについて解説します。またブランドの大きさを踏まえた未顧客獲得の戦略を取り上げます。本特集は書籍『“未”顧客戦略』(日経BP)から抜粋し、消費者の「習慣」がどのように作られ、どのように自社の顧客として無関心な消費者を獲得していくのかを解説しています。

 本特集の締めくくりとして「習慣とロイヤルティの違い」を押さえておきましょう。両方とも同じ結果(例:リピート)が期待される概念なので混同されがちですが、これらは似て非なるプロセスです。

 次の図は、特定のブランドを繰り返し購入するという行動が、2つの異なる心理プロセス(習慣とブランドロイヤルティ)によって引き起こされることを示しています(Tam et al.,2009)。最も大きな違いは「評価や意図に駆動されるか否か」にあります。

「習慣」と「ロイヤルティ」の違い
「習慣」と「ロイヤルティ」の違い
(出所:Tam,L.,Wood,W.,&Ji,M.F.(2009).Brand loyalty is not habitual.In D.J.MacInnis,C.W.Park,&J.R.Priester(Eds.),Handbook of brand relationships(pp. 43‒62).M.E.Sharpe.を基にコレクシアが作成)
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 ロイヤルティは、差別化ポイントの理解やブランドに対する愛着といった「態度」を軸としたブランド評価のメカニズムです。いくつかの選択肢が存在する場面でも、態度的な価値判断により意識的に1つのブランドを習慣とロイヤルティは選び続ける、平たく言えば「このブランドが好きだから買う」「このブランドの価値観に共感するから選ぶ」といった理由に支えられた購買行動がロイヤルティ※1です。

※1 ここでのロイヤルティとはいわゆる「態度的なロイヤルティ」を指します。態度的ロイヤルティを伴わない行動面のみのロイヤルティはむしろ習慣に近い概念です

 それに対して習慣は、消費者本人の意向や評価などとは切り離されたところで機能する文脈起点のメカニズムであり、行動が起こる状況や環境がトリガーとなって、過去の選択や消費行動を繰り返す傾向を指します(Tam et al., 2009)。要は「自転車の乗り方」あるいは「箸の使い方」のようなスキル・手続きに関する記憶に近く、そこには特段何の感情も愛着もありません。

ロイヤルティ:「このブランドが好きだから」「このブランドは他とは違うから」といった態度的・意図的な価値判断に基づく

習慣:特定の文脈を手がかりに生起し、意識的な評価や本人の意図とは独立して機能する

 この違いを理解することは極めて重要です。なぜならロイヤルティ視点の施策※2では、習慣によって駆動されている行動を変えることは極めて難しいからです。従来のマーケティングでは、同じブランドを使い続けることで「もっと好きになるから」リピートが起こると考えられていました(例:Dubé et al.,2010)。

※2 ロイヤルティ視点の施策とは「差別化ポイントの優位性を説得して買ってもらう」「ブランドイメージを高めて選んでもらう」のように、消費者の意向やブランドの評価を変えることで購買行動を変えようとする、あるいは購買ファネルを進めようとする態度変容的なアプローチのことです

 しかしウェッブなど(2024)は、ニューラルオートパイロットというモデルを用いて、消費者が「単に思考停止して同じブランドを選んでいる状態」のおよそ半分を、「使い続けることでもっと好きになってくれた」と勘違いしていた可能性があることをデータで示しています。

購入意向が購買行動に結びつくかは「習慣次第」

 この最たる例が購入意向です。マーケティングリサーチなどで測定する「購入意向」は、長らく、将来の「購買行動」を予測する先行指標として扱われてきました。この考え方の背景には、個人の態度が意図を形成し、その意図が行動を引き起こすという理論(Fishbein & Ajzen, 1975; Ajzen,1991)が存在します。

 しかし実務では、「市場調査で高い購入意向が確認されたにもかかわらず、実際の売り上げには結びつかなかった」という事象は頻繁に観測されます。

 なぜこういうことが起こるのでしょうか?「消費者は気まぐれな存在だから」「インサイトの解像度が低かったから」「広告で良さを伝えきれなかったから」……まあ、そういうこともあるでしょう。

 しかし習慣の観点から考えると、答えはもっとシンプルです。すなわち「意向の変化が行動の変化につながるのは、習慣が成立していない時に限るから」です。習慣が確立されていくにつれ、意向や意図の行動に対する影響力は低下していきます(Neal et al.,2006)。

 一般的なマーケティングリサーチをはじめとして、意向と行動に関する分析の多くは相関研究であり因果関係を論じることはできません。その中でウェッブとシーラン(Webb& Shearan,2006)によるメタアナリシスは、意向の変化が行動の変化に与える影響を厳密に検証した研究として注目に値します。結論から言うと、意向の変化が行動の変化につながるかどうかは、その行動が習慣的な統制下にあるかないかで分かれます。

 研究者らは47報の先行研究をメタ分析して、毎回文脈が異なる、あるいは稀にしか起こらないような非日常的な行動については意向の変化が行動の変化につながりやすいものの、同じような状況で頻繁に繰り返される日常的な行動においては、意向を変えても行動は変わりにくいという強力なエビデンス※3を報告しています。同様の傾向はファストフード、テレビ番組の視聴、交通機関の利用などでも報告されています(Ji&Wood, 2007)。

※3 被験者を実験群と対照群にランダムに割り当て、意図への介入を行い、その後に行動の違いを追跡比較するという実験デザインになっている研究のみを対象としたメタ研究。意図と行動の因果関係について信頼性が高く、被引用数も極めて多い有名な研究です

習慣として確立している日常的な行動:意向を変化させても行動は変化しにくい

習慣として確立していない非日常的な行動:意向の変化が行動の変化につながりやすい

 つまり「毎日の買い物」「日々の家事」「通勤通学」「昔からの趣味」といった日常的に使われるカテゴリーでは、態度変容アプローチは効きにくいということです。なぜそうなるかというと、「いつもの場所」「いつもの時間」といった特定の生活文脈や購入状況と強く結びついた習慣は、個人の意図や意向を上書きして行動を自動的に駆動するからです。

 実際、脳科学の研究でも、ある行動が習慣化すると、論理的な判断や価値の評価・比較を司る脳の領域(前頭前野)の活動が減ることが分かっています。

 消費財やサービス財の多くは、そうした「意向の変化が行動に転換されにくい土俵」で戦っているわけです。分かりやすい例で言えば、「健康のためにファストフードを控えよう」という広告を見ても、結局はいつものお気に入りの店に行ってしまう人は少なくないでしょう。あるいは「環境に優しいのにしつこい汚れがすぐ落ちる液体洗剤」と言われても、そう簡単には信じられないのではないでしょうか。

 もちろん最初から習慣的な自動性が存在するわけではありません。習慣も最初は目的志向の行動(ジョブやゴール)から始まります。それが安定した文脈で十分な繰り返しを経た後、目的志向のシステムから習慣的なシステムへ行動制御が徐々に移り、あるいは両システムが並行して働くことで、文脈的な手がかりが自動的に行動を喚起するようになるのです(Balleine & O’Doherty, 2010; Tricomi et al., 2009)。

「購入意向」が「実際の行動」に与える影響
「購入意向」が「実際の行動」に与える影響
(出所:Tam,L.,Wood,W.,&Ji,M.F.(2009).Brand loyalty is not habitual.In D.J. MacInnis,C.W.Park,&J.R.Priester(Eds.),Handbook of brand relationships(pp.43‒62).M.E.Sharpe.を基にコレクシアが作成)
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大きなブランドと小さなブランドでは着眼点が異なる

 ここまでの内容をまとめます。マーケターは「購入意向が購買行動につながる」ことがあたかもデフォルトの購買プロセスかのように信じ込んでいますが、そうとは限りません。むしろエビデンス的には、「意向が行動につながる場合“も”ある」「意図で行動を予測できること“ も” ある」というニュアンスのほうが現実に近いと思われます。

習慣化していない行動(非日常的な行動)/高関与・高価格カテゴリー/既存客→意向を高めることで行動を変えやすい

習慣化している行動(日常的な行動)や低関与カテゴリー/未顧客/→意向を変えても行動は変わりにくい

 さて、習慣とブランドロイヤルティが異なる機序に基づいている以上、マーケターはこれらを異なる方法で管理する必要があります。このことは、特に予算やリソースを無駄にできない新商品やスタートアップ、小規模ブランド、チャレンジャーブランドなどにとっては重要な着眼点になります。

事業の成長段階によるアプローチの違い
事業の成長段階によるアプローチの違い
(出所:コレクシア)
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 先に述べたように、態度変容系の施策は既存客のプレファレンスを維持し、マージンを強化することにおいては大きな効果を発揮します。つまりそうした施策が効くのは、すでに高い浸透率と広い顧客基盤を抱えている大きなブランドだということです。

 ここで注意すべきは、大きなブランドが「ロイヤルティ施策をやっている」からといって、それらのブランドが「ロイヤルティ施策で大きくなった」とは限らないということです。むしろ大きなブランドと小さなブランドでは、戦略指針や施策の優先順位、着眼点などが大きく異なります。

 小さなブランドが、製品評価やブランドイメージを変えることで行動変容を起こそうと思っても大した成果は期待できません。チャレンジャーブランドがトップブランドの牙城を崩そうとする際に重要なのは、「いかに既存の習慣をかく乱して顧客の思考停止を解除するか」という観点からメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを考えることです。

(写真:splitov27/stock.adobe.com)
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(書籍『“未”顧客戦略』を基に再構成)

日経クロステック 2026年1月26日付の記事を転載]

消費者のほとんどは自社のブランドに無関心な顧客です。「そうした無関心な未顧客とどう向き合い、どう獲得していけばよいのか」を提案するのが本書です。ノンユーザーやライトユーザーを継続的に獲得し、事業成長へ結びつけていくための持続可能な戦略=「“未”顧客戦略」を解説します。

村山幹朗、芹澤連(著)/日経BP/2640円(税込み)