ウォール・ストリートで人気のウェブサイト「ファーナム・ストリート」を主宰する起業家、シェーン・パリッシュ氏は成果を出す人の資質を一つ選ぶとしたらという質問に、意外な答えを寄せた。米国のベストセラー『 CLEAR THINKING(クリア・シンキング) 』から一部抜粋して紹介する。
私はあるとき大規模な上場企業のCEOと散歩をしながら、会社の主要ポストへの人材採用について議論した。
「採用後に成果を出せるかどうかを予測できる資質を一つだけ選ぶとしたら、なんだろう?」と私は尋ねた。
「簡単さ。自分が知っていると思っていたことについて、いさぎよく意見を変えられるかだ」とCEOは答えた。
最も価値がある人材とは、最初からすばらしい考えを持っている人ではなく、考えを変えられる人だ。自尊心ではなく結果に意識が向いている。それに対してうまくいかない可能性が最も高いのは、自分の見解を支持する細々とした事実にこだわる人だ。
「正しい意見を持つことより、自分が正しいことを証明することに意識が向きすぎるんだ」これが私の言う「誤った正解」だ。本来賢いはずの人が、最善の結果と自分個人にとって最善の結果を取り違えたときに陥る事態だ。
正しい判断をするためには、自分の意見を進んで変えられなければならない。進んで考えを変えることができなければ、しょっちゅう判断を誤ることになる。頻繁に誤った正解を導き出すのは、ズームインしたりズームアウトしたりと物事をさまざまな角度で見ることのできない人だ。たった一つの視点、つまり自分の視点だけにとらわれてしまう。さまざまな角度から問題を見ることができないと、死角が生まれる。トラブルはたいてい死角から生じる。
自分が間違っているのを認めることは弱さの表れではない。強さの表れだ。誰かの説明のほうが自分のより理にかなっていると認めるのは、適応力の表れだ。現実に直面するのには勇気が要る。自らの考えを改めたり、自分がわかっていると思っていたことを再考したりするのは勇気が要る。何かがうまくいっていないと認めるのは勇気が要る。セルフイメージを傷つけるようなフィードバックを受け入れるのは勇気が要る。
現実に直面する難しさは、詰まるところ自分自身と向きあう難しさだ。私たちは自分のコントロールできないことを認め、できる部分をコントロールすることに労力を集中しなければならない。現実と向き合うには、自らの過ちや失敗を認め、そこから学び、先へ進むことが必要だ。
ライバルの意見のほうが優れていたらどうするか
あるときニューヨークで効果的な意思決定について講演を終えると、聴衆の女性が近づいてきて質問をした。すでにイベント終了の予定時刻を過ぎており、私は急いで空港に向かわなければならなかったので、女性にそう伝えて辞去しようとした。すると女性は運転手に空港まで送らせるので、道中話をさせてほしいと提案してきた。
車に乗り込むと、女性は今抱えている非常に難しい問題について語りはじめた。彼女は勤務先の次期CEO候補二人のうちの一人で、問題を解決できるかどうかでCEOになれるかが決まると思っていた。そして問題と自分が提案している解決策を詳しく説明してくれた。
確かに彼女の案で問題は解決できそうだったが、複雑で、実行にはリスクが伴いそうだった。ただもう一つ代替策があるという。もっとシンプルでコストも低く、しかも実行リスクも低かった。客観的に見れば後者のほうが解決策として優れていた。唯一の問題は、それが彼女のライバル候補が提案しているものだったことだ。
彼女は自らの考えを詳しく話してくれたが、自分の解決策のほうが優れていることを証明し、自分の立場を守ることに相当な時間と労力を割いていた。結局、彼女自身も自分の解決策が最善だと思っていないことが明らかになっただけだった。彼女の考えは間違っていた。ただそれを認めたくなかっただけだ。
彼女のような考えを抱く人は多い。自分の意見が正しくなければ、自分は価値のない人間になってしまうと思っている。私も同じように思っていた。彼女が私と同じ失敗を繰り返すことのないように、この誤ったマインドセットや誤った正解を信じたせいで私が支払った代償や教訓を話すことにした。
私もずっと最高のアイデアを出せなければ、自分の存在意義はないと思っていたんだ、と私は言った。私を貴重な人材だとか、洞察力があり、事業に貢献していると誰も思わなくなる。自分は正しいと思うことがアイデンティティーになっていた。
経営者になって初めて、それがどれほど誤った考えだったかを悟った。自分が全責任を負ったうえで判断を誤るコストが高くなると、「誰が正しいか」より「何が正しいか」に意識が集中するようになる。自分が正しいことに固執しなくなると、以前より良い成果が出るようになった。自分が評価されることなどどうでもよくなった。大事なのは良い結果を出すことだけだ。

あなたが会社の全株式を保有していたらどうするか
「あなたがこの会社の全株式を保有していて、これから100年売却できないとしましょう。その場合、どちらの解決策を選びますか?」と私は尋ねた。
長い沈黙の末に、彼女は答えた。「自分のやるべきことはわかっています。ありがとうございました」
数カ月後、電話が鳴った。この女性だった。「驚かれると思うのですが、あなたのアドバイスのおかげでCEOになれました。苦渋の選択でしたが、ライバルの解決策を支持したのです。結局それがCEOに選ばれる決め手になりました。私が自尊心を抑えて会社にとって最善の選択をできる人間であること、そのためCEOの座を争うライバルを支持することさえ厭(いと)わない様を見た取締役会が、私がCEOに適任であると判断したのです」
自信とは、誰が正しいかではなく何が正しいかに集中する強さ、現実に直面する強さ、過ちを認める強さ、自分の考えを変える強さだ。誤った正解にたどりつかないため、そして自尊心より結果を優先するために必要なのが自信だ。
(土方奈美=訳)
(次回に続く)
シェーン・パリッシュ著/土方奈美訳/日経BP/2200円(税込み)
