ウォール・ストリートで人気のウェブサイト「ファーナム・ストリート」を主宰する起業家シェーン・パリッシュ氏は、やる気のない同僚や部下の仕事の「基準」を引き上げる方法があると言う。米国のベストセラー『 CLEAR THINKING(クリア・シンキング) 』から一部抜粋して紹介する。
(前回「成果を出す人の一番大事な資質、ウォール街で人気起業家が語る」から読む)
リーダーが凡庸な結果しか残せないか傑出した結果を出せるかは、優秀だが本来怠け者の部下たちに、一貫して高い成果を出させられるかどうかで決まることが多い。私もかつてそんな部下を持ったことがある。リーダーに昇進したばかりだった私に、この部下は企画案を送り、「ご指導とフィードバックをお願いします」と言ってきた。
企画案はひどい内容で、明らかな欠陥もたくさんあった。全力でつくった資料ではないのは明らかだった。私にはそれがわかったし、彼にもわかっていた。
大きな組織で働いている人には、同じような経験があるはずだ。誰かが適当に考えた生半可な文書を周囲に送り、みんなに直してもらおうとする。他人の間違いを指摘したいという、誰もが持つ欲求を利用した戦術だ。他人が失敗すると、私たちは「こうすればいいんだ」と口を出したくなる。こうして周囲が仕事をし、本来仕事をすべきだった人間はごくわずかな時間しかかけずに手柄を手にする。賢い。でも手抜きだ。
私はこの部下の代わりに一晩かけて(あるいはこれからずっと)企画案を修正してやるつもりはなかった。なんとか彼の行動を変えなければならない。でも、どうすればいい?

キッシンジャー流、仕事の基準を引き上げる問い
そこでヘンリー・キッシンジャーにまつわるエピソードを思い出した。ある部下が文書を作成し、キッシンジャーに読んでもらおうと机に置いておいた。しばらくするとキッシンジャーがやってきて、これが君のベストか、と尋ねた。スタッフは「違います」と答え、文書を全面的に書き直した。翌日スタッフは再びキッシンジャーと顔を合わせたので、文書の出来はどうかと尋ねた。
するとキッシンジャーは再び、これは君のベストか、と尋ねた。スタッフはまたしても文書を全面的に書き直した。翌日、まったく同じやりとりが繰り返され、今度は哀れなスタッフは「はい、これが私のベストです」と答えた。するとキッシンジャーは言った。「よし、今度は読むとしよう」
私はキッシンジャーのやり方を拝借することにした。部下の送ってきたメールに「これが君のベスト?」とだけ返信したのだ。
部下は「違います」と返信してきた。そして考えを整理したいので数日猶予をもらえませんか、と聞いてきた。数日後、「劇的に改善したと思います」と、文書を再び送ってきた。私はファイルを開けもせず、同じ一文を返信した。
「はい、これが私にできるベストです」と部下は答えた。
目を通すと、すばらしい出来栄えだった。こうして部下にどれほどの実力があるかがわかり、部下にも私が彼の実力を知っていることがわかったので、「今後は常にこの出来栄えを期待しているよ」と伝えた。基準ははっきりした。以後、彼に失望させられることは二度となかった。
ハイアールは過激な方法で仕事の基準を上げた
私たちが基準に満たない仕事でも妥協してしまうのは、たいてい「どうでもいいや」と思っているからだ。「それなりにできている」「時間的制約を考えれば上出来」と自分に言い聞かせる。だが実際には、少なくともその仕事についてはエクセレンス(卓越した成果)にコミットしていないのだ。
他者が提出してくる基準に満たない仕事を受け入れるのも、同じ理由からだ。全身全霊で仕事に取り組んでいない。エクセレンスにコミットしていれば、チームメンバーにも生半可な仕事は許さない。自ら高いハードルを設定し、一緒に働く人全員に自分と同じように真剣に働いて、期待以上のレベルに到達することを望む。わずかでも期待に届かないものは断固拒否する。
張瑞敏(チヤン・ルエミン)がハイアールの前身である山東省青島市の冷蔵庫工場のCEOに就任したとき、工場は閉鎖の瀬戸際にあった。新たに部下となった従業員に明確なシグナルを送るため、張は全員を工場の外に集合させ、基準に満たない76台の冷蔵庫を大ハンマーで打ち砕く様子を見せた。
この大ハンマーは自分が会社に期待する高い基準の象徴として、任期中ずっと取締役会議室のガラスケースに展示していた。
(土方奈美=訳)
(次回に続く)
シェーン・パリッシュ著/土方奈美訳/日経BP/2200円(税込み)
