書籍『オランダ人のシンプルですごい子育て』では、子どもの幸福度(ユニセフ調べ)が世界トップクラスとされるオランダにおける、自由で穏やかな子育てスタイルが紹介されている。競争よりも自立を、制限よりも信頼を重んじるその姿勢から、私たちが学べることとは——? 今回は、実際に、オランダで育ち、現在は沖縄・石垣島で暮らすエリック・ファンラインさんに本書を読んだ感想とともに、文化や価値観の違い、そして自身の子ども時代について語ってもらった。
オランダ人の信頼の土台は「正直さ」
『オランダ人のシンプルですごい子育て』を読んでいただいたエリックさんに、今日はいろいろなお話を伺えたらと思います。エリックさんが考える「オランダ人の国民性」とは、どのような特徴があると思われますか?
オランダ人の国民性でいちばん強く感じるのは、「正直さ」です。仕事でも日常でも、遠回しではなく率直に伝えるのが基本。たとえば誰かの意見に納得できなければ、「それは違うと思う」とはっきり言います。「正直に話すことが信頼につながる」という感覚が、文化として根づいているんです。
たとえば「この服どう思う?」と聞かれたら、「うーん、正直あまり好きじゃないかな」と普通に言ってしまう(笑)。日本だと少し強く受け取られてしまうかもしれませんが、オランダでは「あ、そう」で終わります。落ち込んだりもしません。「あなたはあなた、わたしはわたし」という考え方があるからです。
日本では相手に配慮してやわらかく伝えるのが思いやりとされるので、コミュニケーションの捉え方はだいぶ違いますね。
日本の「配慮ある伝え方」は、本当に素晴らしい文化だと思います。ただ、オランダ人の僕としては、「もう少しはっきり言ったほうがいいのでは?」と感じることもあります。たとえば会社の会議で、1時間話し合ったのに何も決まっていないことがあって、「あれ?結局どうなったの?」と戸惑うこともしばしば。でも周りは「よく話し合えたね」と満足している。もう少し率直に意見を伝え合えたら、もっとスムーズに進むのではと思うこともあります。
オランダでは建前という考え方があまりなく、思っていないことを口にすることはほとんどありません。だからこそ、会話に裏表がなく誤解も少ない。人間関係もフラットでいられます。こうした姿勢は職場に限らず、家庭でも同じ。親子の関係でも、「一人の人間として向き合う」ことが自然に根づいています。
具体的にオランダの家庭では、子どもにどのように対等に接しているのでしょう?
小さな子どもでも家族の会話に参加する。それがオランダではごく自然な光景です。大人だけで話すのではなく、子どもにも発言の場が与えられ、年齢に関係なく一つの「意見」として尊重されます。「あなたはどう思う?」と問いかける姿勢が当たり前にあって、子どもが自分の考えを言葉にする力を育てることが、教育の土台になっている。だからこそ、率直に伝えることや、自分の意見を持って話すことが、自然と「当たり前」になっていくのだと思います。
ルールを守ることが「自由の前提」と教える
子どもとの対等な関係を大切にする一方で、オランダでは「ルールを守る」ことも重視されていますよね。ご両親から、そうした価値観について何か言われたことはありますか?
15〜16歳の頃、友人と隣町に遊びに行き、23時に帰ると親に伝えていたのに、15分ほど遅れて帰宅したことがありました。たった15分と思うかもしれませんが、そのときは本当に厳しく叱られました。親が一番問題視したのは、「約束を破ったこと」。23時に帰ると決めたなら、それは守るべきだという感覚が、オランダではごく当たり前なんです。
自由が重んじられるオランダの子育てですが、その根底には「信頼」と「ルール」があります。特にしつけの初期段階は厳格で、「約束を守ることが自由の前提である」という価値観が、親から子へとしっかりと伝えられます。
子どもがルールを守れなかったときは、「なぜいけなかったのか」を親が丁寧に説明し、子ども自身が納得できるようにします。たとえば「自転車がパンクした」という理由が本当なら納得されますが、嘘だったら信頼を失う。そうした感覚は子どもの頃から自然に共有され、大人になっても時間を守る、連絡を入れる、約束を果たすといった基本として根づいています。僕が親からよく言われていたのは、「後でバレるようなことは絶対にするな」ということでした。
ルールを守れるようになれば、そのぶん自由も与えられる。自由には責任が伴う——この考え方は、子どもにも早い段階から教えられます。オランダの「自立を促す教育」は放任ではなく、信頼を前提とした自由なんです。
点数よりも「考えを伝える力」を育む教育
オランダの学校教育では、成績よりも社会性やコミュニケーション力が重視されると本にありましたが、エリックさんご自身もそうした教育を受けた実感はありますか?
小さい頃から、自分でテーマを決めて調べ、クラスで発表する機会が自然にありました。たとえばスペースシャトルの仕組みや動物の生態など、興味のあることを図書館で調べてまとめ、みんなの前で話す。そうした経験はいまでも印象に残っています。
先ほど家庭での接し方についてお話ししましたが、オランダの学校教育でも一貫して、「自分の考えを持ち、それを言葉にして伝える力」が重視されていたと感じます。テストの点数だけでは測れない力を育てようという姿勢が、教育の土台にある。
この本を読んで思い出したのが、「シト・トゥーツ(Cito-Toets)」という、小学校最終学年で受ける全国的な学力テストです。当然僕も受けましたが、「テストのために勉強する」という感覚はほとんどなくて、「今の自分の力を知るためのもの」として受けていました。周囲でも、プレッシャーを感じている子はあまりいなかった。「点を取るための勉強はあまり意味がない」という価値観が、教師にも子どもにも自然と共有されていたように思います。
取材・文/金澤英恵 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集)、幸田華子(第一編集部) 写真/小野さやか
リナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン著/吉見・ホフストラ・真紀子訳/日本経済新聞出版/990円(税込み)



