30年ぶりのインフレ到来、新NISA(少額投資非課税制度)始動……。環境が激変するなか、投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者で1兆円を運用する藤野英人さんがこれからの投資の勝ち筋を指南する。今後さらに本格普及が予想される生成AI(人工知能)で資産運用の世界はどう変わるのか? 藤野さんの著書『「日経平均10万円」時代が来る!』から抜粋・再構成してお届けする。
チャットGPTの登場は大きな潮目の変化
私自身がアクティブファンドのファンドマネージャーとして世の中の大きな動きを俯瞰(ふかん)して見たとき、チャットGPTに代表される生成AIの登場は、「30年ぶりのインフレ」と同時に目を向けなければならない大きな潮目の変化だと思っています。
2022年11月にアメリカのOpenAIが公開したチャットGPTは、人間と話しているかのように会話でき、与えた質問や課題に答えてくれる人工知能です。およそ地球上にあるさまざまな問題について、すでに議論されているものであれば答えをすぐに出してくれます。
チャットGPTが公開されると、たちまちのうちに世界を席巻し、マイクロソフトがOpenAIへの100億ドルもの巨額投資を決定したことも大きなニュースになりました。
皆さんは、チャットGPTを使ってみたことがあるでしょうか。「すでに仕事で大いに活用している」という人も多いのではないかと思います。
私がチャットGPT登場初期にさまざまな質問をしてみて感じたのは、その答えの内容が「各界の『中の上』以上の専門家レベル」だということです。そして、本書執筆時点ではチャットGPTの登場からまだ1年もたっていないのですが、その能力は急速に進化を遂げています。
今後、生成AIがさまざまな場面で利用されていけば、世の中の多くの業務はどんどん短縮化・省力化していくでしょう。
将棋の世界で目の当たりにしたAIの進化
私はAIの急速な進化をまったく疑っていません。それは、将棋の世界でAIの進化を間近に見たことが1つの理由です。
私は将棋が好きでアマチュア最高位の六段の認定を持っているほか、過去には投資家として、将棋アプリ「将棋ウォーズ」の運営や将棋AIアプリケーション「ponanza(ポナンザ)」の開発を手掛けるHEROZ(ヒーローズ)への投資もしていました。
そのような経験から、ほんの10年ほど前、AIがアマチュア高段者にも勝てなかった時代のこともよく覚えています。その後、AIは急速に強くなってプロ棋士が勝てなくなり、2017年にはポナンザが佐藤天彦叡王(当時)に勝利して大きな話題になりました。
そして現在では皆さんご存じのとおり、プロ棋士がAIで研究したり、AIによる棋戦の局面分析を見ながらファンが観戦を楽しんだりするのが当たり前になっています。私は、AIがすさまじい勢いで進化を加速させることを目の当たりにしているのです。
おそらく生成AIは、これから数カ月単位で変化していくでしょう。今のチャットGPTだけを見ているとそこまでの力は感じられないかもしれませんが、注目すべきは「成長の変化率」なのです。
これまで投資の勝敗を分けていたもの
このような生成AIの進化は、資産運用にどのような影響を与えるでしょうか?
現在の株式投資において「プロが何を見ているのか」をひと言で言い切るとすれば、それは「企業の実際の業績が、コンセンサス予想(企業分析のプロであるアナリストたちの予想の平均)を上回るか下回るか」です。
PER(株価収益率)という指標をご存じの方も多いでしょう。
これは、「EPS(1株あたりの利益)に対して、株価が何倍になっているか」を示すもので、「PER=株価÷EPS」で計算することができるわけです。この式を変形すると、「株価=EPS×PER」。つまり、株価は「1株あたりの利益」と「PER」で表すことができます。
1株あたりの利益を左右するのは主に企業の工夫や頑張り、情熱などであり、企業自身の稼ぐ力をそのまま示します。一方、PERは企業の人気のほか、金利や為替の動向、市況によって上下します。
一般に、企業の株価は短期的にはPER次第でブレが生じますが、長期的にはEPSに連動することが知られています。株式市場というのは、企業が持つ実力を、時間をかけて株価に反映させていくものなのです。
これまでアナリストの重要な仕事は、企業のデータや情報を集めて分析し、「1株あたりの利益が半年から1年後にいくらになるか」を予測することでした。その予測がコンセンサス予想を上回るか下回るかが、売買の判断に直結するからです。
短期投資の個人投資家が駆逐される?
データや情報を集めて分析し、いかに的確な予測をするか――これは生成AIがもっとも得意とするところでしょう。
チャットGPTの登場後、機能を拡張するためのさまざまなプラグインが各社から続々と発表されていることは皆さんもご存じだと思います。
身近なところでいうと、チャットGPTに「食べログ」のプラグインを入れれば食べログに蓄積されたデータを活用することが可能になります。
「○月○日の○時から、8人で食事会を開きたい。新宿で、イタリアンかフレンチの飲み放題のプランがあるお店で、1人あたりの予算は4000円。今から予約できるお店をリストアップしてほしい」
こんなふうに頼むと、チャットGPTがずらっと希望日時に空席のあるお店を並べてくれるのです。
ほかにもSNS(交流サイト)から情報収集してトレンドを分析したり、テキストの内容を図解したり、高度な計算やデータ分析をしたり、動画の内容を要約したりといったように、プラグインを入れることによってチャットGPT活用の可能性はどんどん広がっています。
例えばチャットGPTにブルームバーグのプラグインが入れば、その情報を活用した企業業績の予測もおそらく軽々とこなすでしょう。予測の精度も短期間のうちにみるみる上がっていくはずです。
私は、いずれ生成AIがありとあらゆるデータを瞬時に収集して分析し、特定の会社の業績が上がるか下がるかを高精度に予測するようになるだろうと考えています。
少なくとも1年程度の短期的な予測で勝負する株式投資についていえば、今後は徐々に生成AIが人間に取って代わる場面が増えてくるでしょう。個人投資家がインターネット上の情報に基づく短期的な株式投資で勝つのは、かなり難しくなるのではないでしょうか。
勝負が「AIの開発にいかに資金をかけられるか」にかかってくると考えれば、短期投資を行う個人投資家はほぼ駆逐されてしまうことになるかもしれません。
藤野英人著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)


