30年ぶりのインフレ到来、新NISA(少額投資非課税制度)始動……。環境が激変するなか、投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者で1兆円を運用する藤野英人さんがこれからの投資の勝ち筋を指南する。「10年後をつくる」4つの企業群とは? ファンドマネージャーとして注目する意外な企業とは? 藤野さんの著書『「日経平均10万円」時代が来る!』から抜粋・再構成してお届けする。

4つのグループに分けて成長銘柄を読む

 ファンドマネージャーとして「10年後」を見据えて運用していく上では、今後、銘柄を次の4つのグループに分けて調査していこうと考えています。

●ザ・プライム:東証プライム市場の中でも「まさにプライム」と呼ぶべき企業を、時価総額1兆円以上の企業群から30銘柄程度選別して投資
●ネクストジャパン:時価総額1000億円から1兆円程度の企業で、日本の中核的企業として将来的に「ザ・プライム」になるような企業を選別して投資
●10(テン)バーガーズ:「10年間で10倍になるかもしれない企業群」に投資。時価総額1000億円以下の「ポストIPO企業」を対象
●グローバルスターズ:米国・中国・アジアなどを中心に、日本企業にはない「びっくり!」のある企業群に投資

 ここでは「ザ・プライム」について私の考えをご説明しましょう。

 日本企業の本質的な変化を受け、今後、「ザ・プライム」は運用の中核に据える銘柄群になると思いますし、「これからの未来を創造する」という観点でも非常に重要なグループです。社長をはじめとする経営陣との対話を重視して、未来志向に立って将来の模範となるべき会社に投資をしていくことになるでしょう。

 私が注目するのは、「今、相対的によい会社かどうか」ではなく「10年間の変化率」です。今がよくても、現状に満足していて変化の気概がなければ、未来に向けて社会を変え、成長していく会社にはなり得ないからです。その意味では、現状ではベストとは言えなくても、10年後に成長する潜在力のある会社にも投資をしたいところです。

投資対象としての日本取引所グループ

 「ザ・プライム」の投資先企業には住友商事や第一生命ホールディングス、味の素などが挙げられますが、10年後の日本をつくる企業としてここでは、東京証券取引所や大阪取引所、東京商品取引所等を運営する日本取引所グループを取り上げたいと思います。

 普段、読者の皆さんが証券取引所を投資先企業として見ることはあまりないかもしれませんが、実はここ1年ほど、日本取引所グループの株価は右肩上がりに上昇しているのです。

 資本政策の面で見てもポジティブな動きが多く、例えば配当性向の目標は60%程度としています。利益の6割を株主に還元しようというのは「本気で投資家に報いたい」という強い意志の現れといっていいでしょう。

 私が注目しているのは、2023年に東証の社長に就任した岩永守幸さんです。
 岩永さんとは、実は長いつき合いがありますが、東証の中でも「キャラ立ち」した存在です。

東証のトップ交代で起きた大きな変化

 東証入社の際の面接では、「適正な市場運営をしたい」「市場の番人でありたい」といった志望動機を話す人が多いなか、岩永さんは「稼ぎたい」と言ったそうです。お役所のような雰囲気だった当時の東証でそのような発言をしたことが、かえって面白がられ採用されたのではないかと話していました。

 「東証が稼ぐ」というのはピンと来にくいかもしれませんが、話は非常にシンプルです。
 東証はさまざまなビジネスを展開していますが、収益に占める割合がもっとも高いのは株式等の取引に伴う証券会社からの収入です。売買代金に対してごく薄くフィーを得るというビジネスですから、東証が稼ぐためには売買株数が増えるか株価が上昇するかすればよいということになります。

 つまり東証は、日本の上場企業の企業価値を上げ、株価を上げて取引を活発にすることを目指すことになるわけです。

「今、相対的によい会社かどうか」ではなく「10年間の変化率」に着目する(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)
「今、相対的によい会社かどうか」ではなく「10年間の変化率」に着目する(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)
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 私は社長就任後の岩永さんと話をしに東証を訪問したのですが、彼は「東証上場企業の企業価値を継続的に上昇させることが自分のミッションだ」と語っていました。PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業にプレッシャーをかけて改善を促しているのも、もちろん上場企業の株価を上げ、ひいては東証がもうけるためです。

 これは、非常にすばらしいことです。上場企業の企業価値が上がるということは、日本全体の資産が増えることを意味するからです。もちろん、株式で運用されている年金の積立金なども増えることになります。

 「日本取引所グループが稼ぐことは、日本全体をよくすること。そこに迷いはない。だから今後、日本の上場企業の企業価値を上げ、株価を上げていくことにコミットする」。岩永さんは、力強くそう言っていました。

「お迷い企業」サポートで市場を底上げ

 「企業価値上昇」のために、東証ができることは何でしょうか。
 岩永さんは、日本の上場企業には3つの会社群があると考えているそうです。

 1つ目のグループは、業績を向上させ株価上昇にまい進している企業。このような「模範企業」には、東証から特に働きかける必要はありません。

 2つ目のグループは「未上場以上・上場未満」のような雰囲気で、IR(投資家向け広報)をせず、株価を上げる努力もしないという企業。業績がそこそこよくても株価はぱっとせず、投資家や東証が何を言ってもその態度は変わりません。

 そして3つ目のグループが、岩永さんが言うところの「お迷い企業」です。株価を上げたいと考えており、PBR1倍割れに対する問題意識も持っているものの、どうすればいいかわからず迷っている企業というのは、実は少なくありません。

 私のイメージでは、約3900社ある上場企業のうち、「模範企業」は500社ほどで、「未上場以上・上場未満」は1000社くらいあります。残る「お迷い企業」は2000社ほどでしょう。

 「未上場以上・上場未満」の企業は何をやっても響かないのでどうしようもない面がありますが、やる気がないわけではない「お迷い企業」を「模範企業」へと誘導していくことができれば、日本の株式市場全体が大きく底上げされることは間違いないと思います。

 もちろん、東証は直接的に企業の株価を上げることはできません。
 しかしIRについて助言したりサポートをしたりするなど、「お迷い企業」に対してさまざまにアプローチして変革を促していくことは可能です。
 上場企業を東証の商品にたとえるなら、商品の品ぞろえをよくしたり中身をブラッシュアップしたりしつつ、陳列棚もきれいにして商品を見やすくしていこうというわけです。

 本来これは証券会社が果たすべき役割ですが、証券会社の人員にも限りがあり、例えばアナリストにレポートを書いてもらえる企業も上場企業のごく一部にしか過ぎません。
 アナリストのレポートも出ていないような上場企業に対して東証が手を差し伸べ、IRの機会を増やしたり投資家とのマッチングを図ったりしていくことは、「お迷い企業」をステップアップさせてその企業価値を高めることにつながるでしょう。

NISAで投資を始める人に成功体験を

 面談の際、私が「これから日本はインフレ経済になって格差拡大が進むのではないか」と話すと、岩永さんは「そこを東証としてどう支えていくかが非常に重要だと思っている」と言っていました。

 インフレ下では、投資をする人としない人の間で格差が広がることが明らかです。だからこそ、「株を買ってよかった」「インフレはたいへんだけれど、株式投資が助けになった」と喜んでもらえるようにすることが大事だということです。

 その面では、新しいNISAがスタートしたことも重要なポイントです。新制度のもと、これからはより多くの人が株式や投資信託を買うようになるでしょう。岩永さんは「だからここ1、2年はとても大事」だと言います。最初の1、2年で株価が大きく下落すれば、「初めて投資に挑戦してみたけれど、損をしてしまった」という失敗体験を植えつけてしまうことになりかねないからです。

 東証は直接株価をコントロールすることはできませんが、「新しいNISAが始まった今、多くの人に成功体験を届けられるよう、努力しなければならない」という意思はあります。

 これから上場企業側に、業績向上はもちろんのこと、積極的なIR、自社株買いや増配といった株主還元、あるいは個人投資家がより投資しやすくなるようにする株式分割などを働きかけていくことになるでしょう。

東京・日本橋兜町の東京証券取引所(picture cells/stock.adobe.com)
東京・日本橋兜町の東京証券取引所(picture cells/stock.adobe.com)
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株主として日本株市場を元気にする

 私は、アクティブファンドを運用する投資家として、日本取引所グループに投資する意味は大きいと思っています。それは、「お迷い企業群」が「業績や株価を上げていこうという強い意志を持つ集団」へと変化していく過程を、日本取引所グループへの投資を通じて応援することになるからです。

 投資をする以上、私は「お迷い企業をサポートすると言っていたよね、やってくれるよね」と日本取引所グループにプレッシャーをかけていきます。そして岩永さんは、そのようなプレッシャーをかけられることを歓迎すると語っています。株主がそのように要求することは、企業にとって「錦の御旗」になるからです。

 投資先企業とのコミュニケーションを通じて世の中の変化を促すことができるなら、発行体企業と投資家の理想的な関係が成立するでしょう。

 私たち投資家が日本取引所グループという株取引のインフラを応援しながら「日本株市場の株価を上げてほしい」と伝え、それに日本取引所グループが応えていくということになれば、私が考える「これからのアクティブ運用」の1つのモデルケースにもなると思っています。

(注)本記事は個別銘柄を推奨するものではありません。また、ファンドへの組入等を必ずしも約束するものではありません。
30年ぶりのインフレ到来、新NISA始動……。環境が激変するなか、1兆円を運用するプロ投資家がこれからの投資の勝ち筋を指南。なぜ日経平均が10万円になると言えるのか、私たちはどのように動くべきなのか、が明確に分かります。

藤野英人著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)