その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中野ジェームズ修一さんの『 すごい頸椎 首・肩・腰を一気によくする 』です。

【はじめに】 ――首は人体の設計で神様が唯一ミスしたところ

 フィジカルトレーナーとしてたくさんの人の体を日々見ていて、気が付いたことがあります。
 それは「首に不調を抱えている人が増えている」ということです。
 その主な原因の1つは、スマートフォンでしょう。
 最近、「スマホ首」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。スマートフォンを長時間、下を向いた姿勢で使うことによって、首の自然なカーブが失われて、まっすぐな状態になってしまう。これがスマホ首です。
 「ストレートネック」も同様に首がまっすぐになっている状態であり、肩こりや頭痛、めまいなどの要因の1つになります。
 また、スマートフォンだけでなく、パソコンのディスプレイをのぞき込むような姿勢で長時間にわたってデスクワークをすることでも、このような状態になります。つまり、頭を前に突き出した、人間にとって不自然な姿勢を長時間とり続けることが、スマホ首やストレートネックを引き起こすのです。

 首が人間にとって大切な部位であることは、みなさんがよく知っている通りです。
 大切な脳に血液を供給する太い血管があり、呼吸によって取り込んだ空気の通り道があり、かつ重い頭を支えている。
 その首に痛みやこりが生じると、「命に直結する問題だったらどうしよう」と不安になる人もいるでしょう。寝違えて首が痛いだけでも、けっこうつらいですよね。
 一方で、首に問題が起きていても気が付かない人もいます。
 本当はスマホ首のように首がまっすぐな状態になっているのに、鏡で自分のことを正面から見ているだけではわからないことも多いのです。
 首の問題は、全身の症状につながります。肩こりがなかなか治らない、なんとなく体がだるい、頭が痛くなったり腰が痛くなったりする、寝付きが悪い……。
 そんな不調が、実は気が付かないだけで首に関係しているということが、実際によく起こります。

 とても大切な部位であることはわかっている。でも、よく知っているようで、詳しいことは何も知らない。
 それが多くの人にとって「首」という部位なのです。

なぜ「神様の設計ミス」なのか

 全身の不調を引き起こす首は、「神様が人体の設計で唯一ミスしたところ」ではないかとつくづく思います。
 ボウリングの球ほどの重さのある頭を支えているのに、首には大きくてしっかりした筋肉はありません。小さなたくさんの筋肉の集合体がバランスをとって頭を支え、動かしています。
 これが人間のお腹だったら、腹直筋、腹横筋などの腹筋群が、がっちりと支えてくれます。大きな筋肉の集合体がコルセットのような働きをするのです。
 しかし、首にはこのような構造はありません。それが「設計ミスではないか」と私が思う理由です。

 その一方で、首にはさまざまな方向に素早く、細かく動かせる、という長所もあります。
 重い頭を支えながらもそのような動きができるのは、特に首の骨である「頸椎(けいつい)」の優れたところです。
 そのことに気付いたのは、卓球選手の福原愛さんを指導したときのことでした。
 卓球は、「100m走をしながらチェスをするような競技」という有名な言葉があるように、瞬時の判断と瞬発力が求められます。
 特に福原さんは、卓球台から離れずに素早く攻撃を仕掛ける「前陣速攻型」というプレースタイルで、前傾姿勢をとるため首に大きな負担がかかります。彼女は「長時間の練習後は首が張る」とよく言っていました。
 卓球選手と同じことが、現代のビジネスパーソンにも起きています。前傾姿勢でパソコンの画面を凝視し、首に問題が起きてしまうのです。
 仕事が終わった後も、スマートフォンの画面ばかり見ているようでは、首が休まる暇がないかもしれません。

「首の構造」を理解すると効果がアップする

 首の問題によってさまざまな不調が起きている人の体をよくするために、どうすればいいのか? これがフィジカルトレーナーとして私が取り組むべきテーマとなりました。
 フィジカルトレーナーは、「体を強くする専門家」です。筋力トレや有酸素運動、ストレッチ、準備運動などを通じて、スポーツのパフォーマンスアップや、正しい動きや姿勢を修正する機能運動を「処方」したり、ダイエットやボディメイク、そして生活習慣病やケガの予防・改善を実現するのが仕事です。
 首の状態をよくするためには、激しい筋トレや運動は必要ありません。問題のある筋肉をマッサージでほぐしたり、小さく動かしたりします。
 それに加えて、「呼吸」の状態を改善する運動を行うと、全身の症状をよくすることができます。というのも、首に問題が起きると呼吸にも問題が起きることが多く、それが全身のさまざまな症状につながっているからです。

 本書を手に取ってくださった方のなかには、首の状態を手っ取り早くよくする方法を教えてほしい、と思う人もいるかもしれません。
 たしかに、「どんな人でもこれさえやればOK」という運動があるなら、私もそれを教えたいところです。
 ところが実際には、首に関するエクササイズは、ただやり方を教えても思うような効果がなかなか得られないことが多いのです。
 いろいろと試行錯誤をしてみてわかったのは、頸椎を中心とした首の解剖学的な構造をまず解説し、それを踏まえたうえで運動を行うのがよいということでした。
 頸椎の周りには小さな筋肉が何層にも重なっています。首の構造を理解することで、そのうちのどの筋肉を動かそうとしているのかをイメージすることができるようになり、効果がグッと上がるというわけです。

頸椎はすごい

 私がフィジカルトレーナーになったのは30年以上前のことでした。当時、日本ではフィジカルトレーナーという職業がまだなく、フィットネスの中心地といわれていた米国のカリフォルニア州で学び、トレーナーの資格を得ました。
 トレーニングを体系的に学ぶためには、解剖学の授業も受けなければなりません。私はそのとき初めて、頸椎の構造を知りました。
 頸椎は背骨(脊椎)の一部であり、7つの椎骨(ついこつ)が積み重なってできています。
 解剖学の教科書で頸椎のかたちを初めて見たとき、「人間の体はすごい」と感動しました。
 頸椎の最も上位にある椎骨は、頭蓋骨をしっかりと支えるためのフォルムをしており、ギリシア神話で天を支える巨人にちなんで「アトラス」と呼ばれています。
 2番目以降の椎骨も、頭の重さに耐えられるような構造をしているだけでなく、さまざま方向に曲げたり、ひねったりできるようなつくりになっているのです。

 頸椎にこのような構造があることで、「支持性」と「可動性」という2つの作用が実現できています。
 つまり、頭を支える役割を果たすのと同時に、顏をさまざまな方向へ向けるという仕事も担っているのです。
 現代人の不調を引き起こす首は、神様が設計をミスしたのではないかとも思いますが、頸椎の構造を知れば知るほど、その機能美には胸が躍るわけです。

ストレスが首や肩に影響を与える

 首に悪い影響を与えるのは、姿勢だけではありません。精神的なストレスもそうです。
 卓球の福原選手のように、国を背負ってオリンピックで戦うとき、そのプレッシャーは尋常ではありません。
 精神的なストレスは、自律神経のうち交感神経を優位にして、体を「戦闘モード」に変えます。その影響を特に受けやすいのは、首から肩にかけて広がっている僧帽(そうぼう)筋の上部です。
 仕事のプレッシャーがかかっているときに、肩がこったり首が張ったりした経験がある人も多いでしょう。それは、交感神経の影響で僧帽筋の上部が緊張しているからなのです。

 アスリートでもビジネスパーソンでも、精神的なストレスが原因で首や肩に問題が起きているのであれば、それを取り除かなければなりません。
 例えば、「ストレス解消にはいつも甘いものを食べる」という人もいるでしょう。
 もちろん、甘いものを食べることでストレスがなくなるのなら、適量であればそれでもいいのです(私も甘いものが好きです)。ただ、仕事が常に忙しく、慢性的なストレスを抱えていて、しょっちゅう甘いものを食べなければストレスを解消できないのであれば、糖分過多で生活習慣病のリスクが上がってしまいますよね。
 それならば、ストレス対策として、交感神経から副交感神経へと自然と切り替わるような運動を行うのはどうでしょうか。
 先ほども述べましたが、本書では、首の状態をよくしつつ呼吸を改善するエクササイズを紹介します。呼吸と自律神経は密接に関係しているので、このエクササイズによって副交感神経が優位になり、肩こりや頭痛などストレスが原因の症状も治まっていくでしょう。

さまざまな首の状態に合わせた解決策を見つける

 スマホ首やストレートネックなどの首のトラブル、あるいは気が付かないうちに首に関連して起きている、肩こりや頭痛、めまい、腰痛、不眠などの全身の症状。そして、仕事のプレッシャーや人間関係の問題によって起きる精神的なストレス。
 これらは複雑に絡み合っており、「誰もが同じ方法をやれば解決できる」というたぐいのものではありません。
 ただ、私はフィジカルトレーナーとして、クライアントからその症状をよく聞き、必要と思った運動を試してもらい、その効果を確認しながら、また新しい運動を提案する、という経験を積み重ねてきました。
 その知見を詰め込んだのが本書です。

 スマホ首が気になる、あるいは、首や肩がこったり張ったりするという人は、まずは頸椎を中心とした首の構造について知っていただくことが大切です。
 いや、手っ取り早く症状が軽くなる方法を教えてほしい、と思う人もいるでしょう。ですが、構造を理解すれば、首というものがいかに脆弱で、問題が起きやすいのかということがわかります。
 つまり、スマホ首にならないよう意識していても、つい首が前に出てしまい、肩こりを何度も繰り返してしまうのは、首の構造上、ある程度は仕方のないことなのかもしれません。

 そこで本書では、第1章でまず首の解剖学的な構造を解説します。これを理解すると、首の状態をよくするための運動を効果的に行えるようになるでしょう。
 とはいえ、「解剖学的な構造」なんて難しいのではと思うかもしれません。でも大丈夫です。私がこれまでの経験から培ってきたウンチクや裏話も交えて、なるべく面白く読めるように解説していきます。
 そして第2章では、首と密接に関係している呼吸のメカニズムについて解説します。首と一緒に呼吸の状態をよくすると、全身の不調が軽減していきます。呼吸の問題を改善すると、内臓も活発に働くようになるのです。これまで呼吸というものをほとんど意識していなかったという人も、ぜひこの章を読んでみてください。
 第3章は、首と腰の関係がテーマです。首についての本なのになぜ腰の話が登場するのかと思うかもしれませんが、首と腰は脊椎でつながっており、文字通り切っても切れない関係にあります。この章を読むと、なかなか治らなかった腰痛の問題が、首の状態をよくすることで解決につながる可能性があることがわかるでしょう。

 第4章からは、いよいよ運動のやり方を解説していきます。
 まずは、セルフマッサージなどによって首の状態を整えます(第4章)。それから、エクササイズによって呼吸を改善し(第5章)、最後に体幹を強くすることで腰痛を予防・改善します(第6章)。
 つまり「首を整える」→「呼吸をよくする」→「体幹を強くする」という流れになるのですが、この順番がとても重要です。
 というのも、まず首の状態を整えなければ、呼吸をよくするエクササイズをしても効果が薄いのです。同様に、呼吸をよくして内臓が活発に働くようになってから体幹を強くするトレーニングを行うことで、効果が上がります。

「股関節」と「頸椎」はつながっている

 本書は、私がかつて執筆した『すごい股関節』の続編にあたります。
 なぜ「股関節」の続編が「頸椎」になるのか、と疑問に思うかもしれません。ですが、先ほども述べたように、頸椎と股関節は、脊椎でつながっています。そして、座る、立つ、歩く、走るといった動作や、さまざまな姿勢をとるために、頸椎と股関節は常に連動しています。頸椎に問題が起きている人は、股関節に問題が起きていることも多いのです。

 そして、『すごい股関節』でもそうでしたが、この本はただ読むだけでなく、読みながら体を動かすことを想定しています。本書で紹介する運動のやり方は、イラストつきで詳しく解説するだけでなく、私が実演する動画も用意してあります。ぜひQRコードからアクセスしてみてください。
 頸椎に関する知識を身に付け、そのうえでエクササイズを行うことで、体の変化を実感できる。こうして知識と自分の体の状態が結びつくことで、新たな知的興奮も得られるというわけです。

 肩こりなどの不調は慢性化しやすく、「なぜ繰り返してしまうのか……」と気が滅入ってしまう人もいるでしょう。
 ですが、「そもそも首の構造上、ある程度は仕方のないことなのだ」と知るだけでも、気が楽になります。
 ぜひページをめくり、頸椎の世界に触れてみてください。
 そして、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

2026年8月 中野ジェームズ修一

【目次】

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