最近耳にする機会が多いNISAとiDeCo。具体的にはどういうものでしょうか。どこにもしがらみのない元大手証券会社アナリストの土屋剛俊氏がお教えします。また、ここではお金の初心者にとって知っておくべき、「住宅ローンの基本の考え方」についても取り上げます。新刊『 お金以前 』から一部を抜粋し、紹介します。

NISAとiDeCoは活用してもいい?

 NISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(個人型確定拠出年金)、個人の資産運用でよく話題になる2つです。これらは、そもそも活用してもいいものでしょうか? NISAやiDeCoに関する本はたくさんありますし、ネットで検索しても記事が多く出てきますので、運用方法などの細かい説明はせずポイントだけ述べます。

 まず、これらは他の投資に比べて得です。なぜでしょうか。それは、NISAやiDeCoは本来国が投資から取るべき税金を0にするという設定になっているからです。あえて国が損しています。

 金融の世界では、銀行や証券会社などは「何とかして投資家にリスクを取らせ、自分はリスクを取らずに利益だけ稼ごうとする」のが基本ですが、NISAやiDeCoはそれに反しています。NISAやiDeCoには利益を投資家にくれるところがあるのです。

NISAとiDeCoは、具体的にどういうものなのでしょうか?(写真:Shutterstock)
NISAとiDeCoは、具体的にどういうものなのでしょうか?(写真:Shutterstock)
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 なぜ、投資家にメリットがあるようなことをするのでしょうか? それは、NISAやiDeCoは、国民に投資を推進させるべく政府が国民に小遣いをあげるために行っているような面があるからです。

 というのは、日本の税制では、投資をして得た利益である分配金・配当金・売却益などに、本来なら約20%の税金がかかります。しかし、一般NISAでは2023年までは毎年120万円を限度として最長5年間、最大600万円までの元本から得た利益は非課税になります。つまり政府としては本来取れるはずの税金をその分諦めているのです。

 どうして政府は、わざわざ税収を減らしてまで国民に投資を促したいのでしょうか。それは、投資する人が増えれば株価が高くなり、経済全般に良い影響が現れてくるからです。景気が良くなれば、国民の満足度が上がり、政権支持率も上がり、政治家にとっては選挙で勝つためにばらまき政策をするのと同じ効果もあります。

 投資初心者に覚えておいてほしいのは、「株価が上がるか下がるかを予想してもうけようとするのは無理」「個別銘柄でプロに勝つのも無理」「プロでもインデックスにはほとんど勝てない」ということです。その意味でも、つみたてNISAやiDeCoは、毎月無理なく払える一定額を投資し、投資対象はインデックスにして、あとは値段のチェックもせずにほったらかしておく、という投資スタイルを取れるため、個人にとっては一番いい投資だと私は思います。

 iDeCoなどは、積み立てたお金は年金として払ったものとして、つまりしばらくはもう自分のお金じゃない、くらいに思っておくのが一番賢い姿勢です。素人が自分の投資したものの値段を1時間おきにチェックしておろおろするのは絶対に避けるべきです。精神的にもいいことはありません。「60歳まで下ろせない」と考えるくらいでちょうどいいのです。

 ただ1つ決めておかなければならないのは、「どの国のものを買うか」です。いくら税制のメリットがあっても、将来性のないダメな国の株に投資してしまっては、結局損することになるでしょう。これは、NISAやiDeCoだけでなく、平均株価に投資することにももちろん言えます。

住宅ローンの基本の考え方とは

 NISAやiDeCoについてここまでお話ししてきましたが、お金の初心者がもう1つ知っておくべきなのが、住宅ローンについてです。「借金はしない方がいい」というのは、多くの人にとって共通認識かと思いますが、住宅ローンもよくないのでしょうか。家を買うお金がたまるまで貯金をしていたのでは、先に寿命が来てしまうかもしれません。そのような、「お金を借りざるを得ない」場合はどうしたらいいでしょうか。

 その場合は、いろいろ考える必要が出てきます。まず、「家を所有していることが大切なので、損得は関係ない。自分がずっと住む家を持つことに意味がある」というなら、後に説明をする「固定」と「変動」のどちらの金利で借りた方がいいのかを考える程度でいいでしょう。

 もし損得、つまり投資として考えるなら、「これから不動産価格は上がる」と思うなら買った方がいいですし、「これから不動産価格が下がる」と思うなら賃貸にすべきだということになります。買う場合は、自分が大きな借金をするということは忘れてはいけません。

 その場合、不動産価格の将来的な変動を予測するという非常に高度な判断が必要になります。注意すべきは、将来の金利の動向や、インフレ、景気、人口動態、世界経済、政府の政策などです。長期的な不動産価格には極めて多くの要素が影響します。

 そういうことに自信がない場合は賃貸にしておくのが無難だと筆者は考えます。繰り返しになりますが、これは不動産を投資として考えた場合です。「この家が欲しいから買う」というのであれば話は別です。

住宅ローンは「変動か固定」どちらの金利で借りるのがいいか

 住宅をローンを組んで買うとすれば、次に考えるポイントは、金利が「固定」か「変動」かという点です。もし手持ちのお金が少なく、目先の利払いを抑えたいなら、変動を選ぶことになります。

 金利というのは基本的に長期金利よりも短期金利の方が低くなります。どうしてそうなるのかというのは、実は経済学者たちの論文になるくらいなのですが、それを承知で大変簡単に言うと、「長期の方が先のことはよく分からないから、その分バッファーとして金利を多く取っておく」というものです。このくらいを分かっておく程度で十分です。

 お金を貸す方からすれば、1年貸すだけなら金利は1%でいいと思っても、20年だとしたらどうでしょうか。もしずっと同じ金利で貸せば、向こう20年でインフレになってしまうかもしれません。多めに取っておきたいと思うでしょう。

 したがって、目先の利払いを少なくしたければ、変動金利を選択する人が多いでしょう。しかし、変動でお金を借りるということは「これから長い間ローンを返済し続けるが、その間にもし金利が上がってしまったら、支払う金額が増えるリスクを取る」ということです。20年以上にわたって、そのリスクを取るというのはかなり危険です。

 ちなみにこの原稿を書いている2022年の年末の時点では、米国の住宅ローンは金利がバンバン上がっています。変動金利で借りている人は大変なことになっています。日本でも、日本銀行の大規模緩和政策の修正により金利上昇が見込まれ、住宅ローンの金利も上がるとの予測がされています。日銀が金利を上げたり、長期国債の利回りが上昇したりすると、住宅ローンや自動車ローン、教育ローンなどのローンの金利もそれに伴って上昇していきます。

 住宅ローンの金利は銀行が貸してからの調達コストで決まります。調達コストが上がったら金利も上がり、しかも際限はありません。ただ、高くなり過ぎると景気が悪くなるので、政府が政策で金利を下げるということはあります。

 一方固定金利で借りる場合は、今の変動金利をずっと支払うよりも高い金利の支払いを約束することになります。

 このように、どちらで借りればいいかということは借りる人の価値観によります。変動金利は、最初は安いが先が読めなくてたくさん払わなければいけないリスクがある、一方固定金利は将来にわたって変わらないけれど当面は高い、となります。

住宅を買うかどうかは自分のライフスタイルに合った決断をしよう(写真:Shutterstock)
住宅を買うかどうかは自分のライフスタイルに合った決断をしよう(写真:Shutterstock)
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お金以前
この本のゴールは、あなたのお金のリテラシーを上げることです。資産防衛や投資、住宅ローンや老後のための貯金など、行動する前に知っておくべきことは山のようにあります。本書は具体的な投資の話や日本のバブルなど歴史も取り上げます。お金の教養を得ながらも、自分の生活に関する判断もできるようになりたい方への一冊です。

土屋剛俊(著)、日経BP、1760円(税込み)