30年以上世界の大手金融機関で投資に携わった土屋剛俊氏は、「投資をするなら、金融の歴史はとても勉強になる」と言います。人間は同じような間違いを繰り返しているからです。ここではその中の1つ、世界恐慌を見てみましょう。世界恐慌は「有事の際、政府が正しい対応をしないといかにひどいことになるか」を世界に知らしめました。新刊『 お金以前 』から一部を抜粋し、紹介します。

歴史の勉強は役に立つ

 歴史上最初のバブルといわれているのが、17世紀に起きたチューリップバブルです。これはチューリップの球根の価格が上がり、1個で高級住宅が買えるほどの値段になったバブルです。

 その後大暴落し、損した人が大量に発生したという事件ですが、もしこの時に「論理的に考えて、高過ぎる値段になったものはいずれ暴落する」ということを本当に人々が学んでいたなら、その後また起こったバブルで大損することはなかったでしょう。チューリップバブルから、数百年間にわたってバブルは繰り返し起こっています。ここ100年の間で起きた有名な金融危機だけでもかなりあります。

『お金以前』328ページより抜粋
『お金以前』328ページより抜粋
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 金融危機が起きないように世界の指導者たちは苦労しているにもかかわらず、次々と発生します。興味がある方は、上に載せた図の中の危機を勉強しておくと、かなり投資の役に立ちます。もし興味が湧いたら、他の危機も調べてみるのも楽しいかと思います。

10年に一度の頻度で金融危機は起きている(写真:Shutterstock)
10年に一度の頻度で金融危機は起きている(写真:Shutterstock)
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世界恐慌を知ろう

 1930年頃に発生した世界恐慌は、「有事の際、政府が正しい対応をしないといかにひどいことになるか」を世界に知らしめたという意味で学びが多い危機です。

 世界恐慌は、歴史上最悪の景気悪化です。世界中の景気が悪くなり、国中が失業者であふれ、結局第2次世界大戦へとつながっていきました。あまりにひどかったので、当時の世界中の人がこれだけは二度と繰り返さないようにしようと思ったことでしょう。

 なぜ、世界恐慌は起こったのでしょうか。第1次世界大戦が終わった後の1920年代の米国は、景気がよく、家や車を庶民が買い始めた時代です。株式投資も流行していました。この頃、投資信託も発明され、株を買う人にお金を貸す人も増えて、不動産も値上がりします。戦争も終わり、平和な時代が来ると思われていました。

 特に株は1924年からの5年で5倍くらいになります。バブルです。道で靴磨きをしている少年までもが株でもうかったという話をしていたほどで、それを見た当時の大統領が恐ろしくなって株を全部売ったという逸話があるほどです。

 当然こういう状況はいつか壊れるわけですが、壊れ始めたのは1929年でした。そこから1カ月くらいで株価は半分くらいになりました。そもそも株が不当に高過ぎたわけですから、何かのきっかけで暴落することはある意味明白でした。

 もちろん影響は株の下落だけで済むわけはありません。1933年の米国の失業率はなんと25%。4人に1人が失業しました。こうなると、自殺も増え、犯罪も増えます。給料も、4年間で35%も下がりました。

 さらに株価ですが、1934年までになんと89%も下落しました。約10分の1です。これでも十分ひどいのですが、ここまでは米国内だけの問題でした。

『お金以前』332ページより抜粋
『お金以前』332ページより抜粋
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世界恐慌になったのは、各国が自国ファーストだったから

 ではどうして米国だけにとどまらず、世界恐慌になってしまったのでしょうか。当時のヨーロッパは、第1次世界大戦の戦後の焼け野原から立ち直ろうとしている最中で、その復興に必要なお金を、先に経済が回復していた米国から借りていました。

 株の大暴落により、米国としてもお金を貸している場合ではなくなりました。貸したお金を回収し始めます。そのため、ヨーロッパの銀行が次々破綻してしまいました。

 「銀行の破綻」とは、国の経済にとって致命的な打撃です。そうなると、その後各国はどうするでしょうか。世界中の国が取ったのが、「自分さえよければよい」という考えです。特に、英国やフランスなどの植民地がある国はそこだけで経済を回すようになりました。これは、他国をブロックするので「ブロック経済」と呼ばれました。今で言うなら「自国ファースト」でしょうか。

 当時、植民地がなかったのはイタリアやドイツです。「植民地を持っている国ばかりが生き残れる。こうなったら侵略戦争で領土を取るしかない」という状態になり、世の中は第2次世界大戦へと突入してしまったのです。

 結局のところ、当時の一番の問題は、世界でこのような危機が起こったときに、問題をきちんと調整する機能、システムがなかったことです。そうなると、各国は自分のことだけ考えて動きます。では、今なら大丈夫なのでしょうか。

 もちろん、現代も何か起こったら自国第一主義になることが予想されます。強いて言えば「核戦争になると世界が滅亡してしまうので、それはやめておこう」という核の抑止力がある、くらいでしょうか。世界恐慌から90年ほどたった現代でも、世界で起きていることを見れば同じようだと思った人もいるでしょう。

 当時のこの失敗から、今の時代ならどうすべきかを自分なりに考えて選挙で投票するのも重要でしょうし、情勢が動いたら、自分の資産運用に反映させることも大切です。

 歴史を知って投資に生かそう(写真:Shutterstock)
歴史を知って投資に生かそう(写真:Shutterstock)
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お金以前
この本のゴールは、あなたのお金のリテラシーを上げることです。資産防衛や投資、住宅ローンや老後のための貯金など、行動する前に知っておくべきことは山のようにあります。本書は具体的な投資の話や日本のバブルなど歴史も取り上げます。お金の教養を得ながらも、自分の生活に関する判断もできるようになりたい方への一冊です。

土屋剛俊(著)、日経BP、1760円(税込み)