お金以前 』の著者で、お金についての基本を分かりやすく解説した土屋剛俊氏は、日本の経済状況を知り、自分の資産を守るべきだと言います。『 元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者 』の著者でマネーライターの小林義崇氏と、今富裕層は何をしているかについて対談していただきました。その後編。

(対談前編から読む)

財産の一部を国外で運用

土屋剛俊氏(以下、土屋):これまで投資に縁がなかった人も、日本の財政悪化により将来的に年金だけでは暮らせないかもしれないという不安から、投資にお金を回さざるを得なくなりました。とはいえ元本保証の銀行預金や国債と異なり、株式や株価に連動する投資信託などへの投資にはリスクが伴います。

 リスクを軽減するための基本は、投資先を分散したり、投資のタイミングを分散したりする「分散投資」です。財産を守る意識の強い富裕層は、分散先として国外にも多くの財産を持っていそうですね。

小林義崇氏(以下、小林):私が国税職員だったときはさほど多くなかったですが、最近は増えている印象があります。というのも2013年以降、その年の年末における国外財産が5000万円以上だと国税庁に報告しなければならない「国外財産調書制度」というのがルール化されたんです。この制度によって、国外財産の保有実態が分かるようになってきました。

<b>小林義崇(こばやし・よしたか)</b> 元国税局ライター<br>1981年、福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、YouTubeでお金に関する情報発信を行っている。
小林義崇(こばやし・よしたか) 元国税局ライター
1981年、福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、YouTubeでお金に関する情報発信を行っている。
画像のクリックで拡大表示

土屋:円に対する不安は強いですか?

小林:富裕層の方々にマネーライターとして取材するたびに、彼らが警戒感を強めているのを感じます。多くの方がいかに国外で運用するかを考えていますね。また、相当数の方がお子さんたちを海外に留学させて、将来的にも日本国外に住まわせて納税者になれるようにというところまで設計されてもいます。

土屋:『お金以前』の中でも説明しましたが、日本の財政状況を見ると不安になるのも分かります。お子さんたちを海外に、という気持ちもよく理解できます。移住先としてシンガポールが多いという印象があるのですが、いかがでしょうか。

小林:シンガポールは一時期よりも制限が強くなっています。誰でも入国できるというわけではなく、収入要件や資産要件が厳しくなりました。ただ、こうなる前に日本から転入している方は大勢います。その理由として挙げられるのが税金で、シンガポールは相続税がかからないんです。

 日本国内に財産を置いておけば相続税で半分なくなってしまいますが、シンガポールに自分の住所と財産を移すことができれば、その問題を解消できるというインセンティブがあるわけです。

土屋:海外移住は誰でもできることではありませんが、財産の一部を円以外で運用するというのは、リスク管理の意味でも一般人も取り入れたいところですね。ではどの国で資産運用すればいいかというと、『お金以前』にも書きましたが、私はまず「人口動態」を見ることが大切だと考えています。

 というのも国の経済現象はほとんどの場合、人口動態で説明できるからです。少子化でどんどん人口が減り、逆に高齢者が増えていくと働き手が減ります。経済は確実に停滞します。

投資は分散が基本だと話す土屋氏
投資は分散が基本だと話す土屋氏
画像のクリックで拡大表示

今こそ、国民一人ひとりが金融リテラシーを持つべき

小林:危機的な人口減少にあえぐ日本は、投資先としてはリスキーだということですね。土屋さんは今後の日本はどうなっていくと予想されますか?

土屋:残念ながらこの国の未来は明るくはないと言わざるを得ません。

小林:人口減少以外にどういう要因があると思われますか?

土屋:借金まみれだという点です。国債ばかり発行して、もう1000兆円を超えています。本当は税金を財源にしなくてはいけないのに、増税をすると政党の支持率が下がるので、それを避けるため国債発行に走ってしまっているんですね。国債は国から国民への借金なので、いつか返さなくてはいけません。でも普通の借金とは違って誰が返すのか分かりにくいですよね。

 「消費税を上げます」とくれば、今、生きている人が負担することははっきりしています。年金カットも同様です。当然、高齢者は猛反対するでしょう。ところが国債を発行するとなると誰からも文句は出ません。ある意味、国民をだますようにして財政をめちゃくちゃにしているのではないでしょうか。そういう反則を政治が延々とやり続けているんです。

小林:それを許してきたのは私たち国民だということですよね。国民一人ひとりに金融リテラシーがないことがこういう事態を招いたとも言えます。インフレも加速していますね。1981年生まれの私にとっては、もの心がついて以来、初めて経験するインフレです。人口減少とインフレが同時進行する今、私たちが自分のお金を守るためにできることはどんなことでしょう?

お金のリテラシーを持つことが自分のお金を守ることになる
お金のリテラシーを持つことが自分のお金を守ることになる
画像のクリックで拡大表示

土屋:インフレには「いいインフレ」と「悪いインフレ」があります。景気がよくてみんなが欲しいものがあることによって物価が上がっているうちはまだいいんです。これが「いいインフレ」です。でも今は違いますよね。景気がよくないのに仕入れ価格が上がったので、ものの値段を上げざるを得なくなっています。「悪いインフレ」です。こんな時代にあっては防衛的にならざるを得ません。まず借金は極力しないほうがいいです。

小林:自分の財布の中身だけではなく、今、世の中のお金の流れがどうなっているのかとか、もっと大きなところでは自国の経済や世界経済にも関心を持っておく必要がありますね。

土屋:おっしゃる通りです。私はお金を守るのにいちばん必要なのは、「お金のことを正しく理解する」ことだと思います。どこに投資するとか、株式の銘柄の選び方はどうだ、などといったこと以前に、お金って何なんだ?というところからスタートして、今、どうしてこういう状況になっているのか、理解できるようになっていただきたいですね。そうやってお金の根本が分かっていれば、少なくとも怪しげな投資話には引っかからなくなります。

小林:自分の頭で考えて、自分はお金とどう向き合っていくかを真剣に考えることが大切ですね。土屋さんの本と私の本は切り口は異なりますが、「お金ときちんと付き合っていこう」というテーマは共通しています。お金の基本を学びたいと思っている方々に、ぜひ読んでいただきたいと思います。

土屋剛俊氏と小林義崇氏
土屋剛俊氏と小林義崇氏
画像のクリックで拡大表示

文/堀容優子 写真/稲垣純也

お金以前
この本のゴールは、あなたのお金のリテラシーを上げることです。資産防衛や投資、住宅ローンや老後のための貯金など、行動する前に知っておくべきことは山のようにあります。本書は具体的な投資の話や日本のバブルなど歴史も取り上げます。お金の教養を得ながらも、自分の生活に関する判断もできるようになりたい方への一冊です。

土屋剛俊(著)、日経BP、1760円(税込み)