「日本人はもっとお金について知るべきだ」と言うのは、『 お金以前 』の著者で、お金についての基本中の基本を分かりやすく解説した土屋剛俊氏。元国税職員として見聞きした経験を基に書いた『 元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者 』の著者でマネーライターの小林義崇氏を迎えて、富裕層に学ぶお金との付き合い方について対談していただきました。その前編。

富裕層の家庭では「お金との正しい付き合い方」が伝承されている

土屋剛俊氏(以下、土屋):お金というのは生きていく上でとても大切なものですが、日本の文化では「お金の話をするのははしたない」とされてきました。ようやく最近になって学校教育の中でも取り上げられるようになってはきましたが、遅きに失した感があります。

 ただ、小林さんが書かれた『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』でも書かれているように、富裕層の方々には例外的にお金の基本的な知識が身に付いているのではないかと感じます。

小林義崇氏(以下、小林):私は大学を卒業後、東京国税局に入局しました。仕事として国税に携わり、相続税や贈与税などの資産税を担当し、相続税調査を通じて富裕層の方々と接するようになったのですが、土屋さんがおっしゃるように、一般の人よりもお金についての意識が高く、知識も持っていると感じました。だからこそお金持ちになれたということですね。

<b>小林義崇(こばやし・よしたか)</b> 元国税局ライター<br>1981年、福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、YouTubeでお金に関する情報発信を行っている。
小林義崇(こばやし・よしたか) 元国税局ライター
1981年、福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、YouTubeでお金に関する情報発信を行っている。
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土屋:富裕層こそがお金との正しい付き合い方を知っている、と。

小林:はい。土屋さんが『お金以前』で読者の方にお伝えしたかったことは「みんなもっとお金について正しい知識を持とう。そうすることで自分の生活を守れる」ということですよね。最近でこそ「マネーリテラシーが必要」とよく言われるようになりましたが、まだそんな言葉もない時代に、親から子へと自然にお金と正しく付き合う方法が伝承されているのが富裕層なのではないでしょうか。

富裕層の生活ぶりは意外に質素

土屋:多くの富裕層の方に接してみて、意外に思われたことはありますか。

小林:一番強く感じたのは、生活が意外に質素だということです。何億、何十億という資産があるにもかかわらず、服装から家具・調度、車に至るまで、「お金持ち」という感じの方にはお会いしたことがありません。

土屋:小林さんの本の中に、ある富裕層の方が「電話をコールバックさせて通話料がかからないようにしていた」と書かれていましたね。それだけお金を大切にしているからこそ、多くの財産が築けたのでしょう。

お金との正しい付き合い方を知るのが何より大切と話す土屋氏
お金との正しい付き合い方を知るのが何より大切と話す土屋氏
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小林:相続税の納税状況に不明な点があると、税務調査が行われ、被相続人の方の生前のお金の流れを徹底的に調べます。数多くの相続税の税務調査を行いましたが、「一獲千金で資産家になった人はいないんだな」と強く感じました。例えばギャンブルなどで一時的に大もうけしても、亡くなる時点まで億万のお金を維持できる人はいません。

土屋:ぬれ手であわみたいなものではなく、着実な蓄財の結果が巨万の富となったということですね。私たち一般人には、富裕層の方々は自分たちが持っていないような特殊な才能や恵まれた環境に生まれた特権階級のようなイメージがあります。自分が努力して手が届くようなものじゃないとどこかで思い込んでいますが、そういうわけでもないということですね。

小林:おっしゃる通り、真面目に労働を続けてきたというのが大きいと思います。富裕層の方々の考えは、土屋さんが『お金以前』で書かれたお金に対する根本的な考え方と合致しています。なお、税務調査の対象となる相続人には自営業者の方が多かったです。定年がなく60歳、65歳を過ぎてもバリバリお仕事をされてきた様子がうかがえました。

財産の内訳最上位は「不動産」、投資スタンスは「ほったらかし」

土屋:とはいえ、富裕層ならではの財産の特徴もありますよね。私も金融業界で長く仕事をしてきたので、多くの富裕層の方々にお会いする機会がありました。顕著に感じたのが、財産の中に必ず一定の不動産があるということです。ご自身の労働による収入の他に、不動産からの収益もあるわけです。

 しかも短期売買はまずしません。長期的に保有して子どもに渡していくというスタンスが多いですね。

小林:相続税の申告書を見て、私も同じことを感じました。申告書には財産の内訳が書かれていて、私たちは相続人がどんな財産を持っていたかを確認することになるのですが、預貯金だけという人はいませんでした。必ず何らかの投資資産を持っておられるのですが、それが株式であれ不動産であれ、短期的に売買していた形跡を見たことは一度もなかったです。

 富裕層の方の場合、財産管理の基本は「ほったらかし」なんだな、と感じました。先祖代々持っていた不動産を賃貸で使い続けているとか、昔、証券会社の営業マンに勧められて買った株式をそのまま持ち続けているとか。つまり「長期的に投資をする」ということが、資産形成をする上で1つのポイントになるのではないかと思います。

土屋:それは理にかなっていますね。短期の相場変動を連続して確実に当て続けることができる人は存在しません。短期で投資をしようとすると高い確率で負けると考えたほうがいいでしょう。それよりも投資をする上で大切なのは、収益を生むことが期待でき、なおかつほったらかしにできるポジションをいかに作るかということです。

 そんな投資スタイルにもっともマッチするのが不動産なんです。しかも不動産はインフレに強い財産でもあります。投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も「いちばん大変なのはインフレに勝つことだ」と言っていますね。インフレ耐性がある資産を考えたとき、不動産は有効です。

小林:だからと言って、私たち一般人が「借金をして不動産投資をしよう」ということではないですよね?

借金をして不動産の投資をすることはおすすめしない
借金をして不動産の投資をすることはおすすめしない
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土屋:そうなんです、どのくらい借金をするかにもよりますが、基本的にはやめておいたほうがいいでしょう。富裕層にとって不動産がインフレヘッジになるのは、世の中が不景気になり不動産価格が下落してもそのリスクに耐えられるからです。しかし、ギリギリの資金繰りで借金をして不動産投資をしてしまったら、不景気になって不動産の担保価格が下がり、銀行から「購入時に貸したお金を返してください」と言われたとき、返せなくて売るという事態にもなりかねません。

 『お金以前』にも書きましたが、かつて日本で起こったバブル崩壊の時がまさにその状況になりました。不動産価格は上昇し続けるという前提で借り入れをして短期売買を繰り返していた人たちは、大変な目に遭いました。

小林:相続税の税務調査のとき、借金をして不動産投資をしているケースも多く見られましたが、富裕層が節税対策としてキャッシュを減らすために借り入れをするのと、一般の人がローンを借りて不動産投資をするのとでは、まったく「借金」の持つ意味が異なるということですね。

土屋剛俊氏と小林義崇氏
土屋剛俊氏と小林義崇氏
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(対談後編に続く)

文/堀容優子 写真/稲垣純也

お金以前
この本のゴールは、あなたのお金のリテラシーを上げることです。資産防衛や投資、住宅ローンや老後のための貯金など、行動する前に知っておくべきことは山のようにあります。本書は具体的な投資の話や日本のバブルなど歴史も取り上げます。お金の教養を得ながらも、自分の生活に関する判断もできるようになりたい方への一冊です。

土屋剛俊(著)、日経BP、1760円(税込み)