飲食店が出店しては潰れ、また出しては閉店することを繰り返す――。東京・下北沢にそんないわくつきの場所があった。バーガーキングはその不利な状況をはね返し、何としてでも新店舗を軌道に乗せるため、デジタルとリアルの両方における宣伝の相乗効果を狙った施策を試みた。日本のバーガーキングを大きく育てたビーケージャパンホールディングス代表取締役社長がつづった『バーガーキング流 逆襲のマーケティング』から一部再構成してお届けする。バーガーキング流の細かすぎるSNS戦略とは。[日経クロストレンド 2026年3月2日付の記事を転載]
新店舗を競合がひしめく街角にオープンさせる。どの飲食チェーンでもあり得る話だ。2019年、反転攻勢をかけるために新規出店を急ぐバーガーキングにもその機会が巡ってきた。場所は、言わずと知れた若者に人気のスポット、東京・下北沢だ。駅前には最大のライバル店であるマクドナルドが店を構える。バーガーキングのオープンするのは、駅から徒歩2分ほどの立地だった。
それまで、飲食店が出店しては潰れ、また出しては閉店することを繰り返す、いわくつきの場所だった。その不利な状況をはね返し、何としてでも新店舗を軌道に乗せねばならない。失敗すればバーガーキング復活への道は遠のいてしまう。下北沢駅南口店はそんな会社の命運をいやが応にも背負わされた店舗だった。
新店舗をオープンする時に最も大切なのは、「そこに店ができたこと」を周知すること。存在を知ってもらえなければ当然、集客できないからだ。
何か良いアイデアはないか。情報収集する中、アンテナにかかったのが、海外のバーガーキングの施策だった。フランス南東部の地方都市・リヨンで新店オープンに向けて工事を進める中、店舗を真っ赤なファサードで覆い、その壁面にSNSの投稿を拡大して張り付け、宣伝に活用していたのだ。
つまり、リヨンに新店がオープンすることを告知するのに、ユーザーの投稿へのツイートを利用し、なおかつことわざで返すという何とも粋なアプローチで店のオープンを周知していたのだ。そして、そのやり取りをそのまま工事中の店舗のファサードに掲出するという再利用によって、デジタルとリアルの両方における宣伝の相乗効果を狙った。
この事例を見た瞬間、「これだ!」と僕の胸は高鳴った。
この手法をうまくオマージュして実践できれば、激戦区での新店オープンにおいて最初の関門である周知を図れるとにらんだのだ。
最初に着手したのが、情報を拡散させるのに適した媒体であるTwitter(現X)で、「下北沢にバーガーキングをつくってほしい」という思いをつづった投稿を見つけることだ。僕たちは手分けして、投稿を探した。その中でも最も語感や調子がよく、訴求力がありそうなものが「バーガーキング下北沢店作ってくれや」という投稿だったのだ。
僕たちは早速、投稿者の方にTwitterのダイレクトメールで連絡を取り、当該投稿をプロモーションに活用しても良いか、許諾を願い出た。ただ、何に使うかは伏せた形にした。すると、投稿者の方は快諾。これで、第一関門は突破だ。
次に課題となったのが、何といってリツイートするかだ。この返し方は絶対に間違えたくない。
Twitterを利用している人なら分かると思うが、返し方でミスると、せっかくのいい話が味気なくなり、台無しになってしまうからだ。それに、バーガーキングは「直火焼き」を武器にリアル(本物)のハンバーガーを提供することをブランドイメージとして訴求している。それなのに、返し方にリアルさがなければ、そのイメージとの間に齟齬が生まれ、ブランド毀損になりかねない。
プロモーション活動の一挙手一投足に対し、ブランドのイメージとずれがないかを確認しながら慎重に進めることは何よりも大切だ。元の「バーガーキング下北沢店作ってくれや」の投稿は関西弁。その投稿へのリツイートをどう表現するかにも、細かすぎる配慮と工夫を凝らしたのだった。
こんなふざけたやり取りが、マーケティング活動といえるのかと思う人もいるだろう。だが、僕たちの場合は、そのふざけ方が半端ではない。ふざける中でも、言葉の選択による効果の最大化を検討し、反響と拡散も緻密に計算している。そうやって、いわば「本気でふざける」というのが僕たち、バーガーキングのポリシーだ。そんな本気の言葉遊びが、下北沢駅南口店のオープンに向けた水面下で繰り広げられていったのだ。
(次回に続く)
野村一裕(著)、日経BP、2200円(税込み)

