「オワコン」扱いのバーガーキングを立て直したいが、軍資金が余りにも乏しい――。そんな中で思いついたのが「渋谷ゴーストストア大作戦」。渋谷センター街店を、ハロウィーンの時期の期間限定で、ゾンビに襲われて廃虚と化したデザインに模様替えしたのだ。日本のバーガーキングを大きく育てたビーケージャパンホールディングス代表取締役社長がつづった『バーガーキング流 逆襲のマーケティング』から一部再構成してお届けする。バーガーキングらしさを残しつつ、「こんなの見たことがない」というぶっ飛んだ企画の最適解とは。[日経クロストレンド 2026年2月24日付の記事を転載]

ハロウィーンの時期の期間限定で、ゾンビに襲われて廃虚と化したデザインに模様替えした渋谷センター街店
ハロウィーンの時期の期間限定で、ゾンビに襲われて廃虚と化したデザインに模様替えした渋谷センター街店
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 落ち目になっていたバーガーキングの立て直しを図るため、何らかの手を打っていかなければならない。だが、問題だったのが、そのための軍資金が余りにも乏しかったことだ。派手にテレビCMを売ったり、大々的にキャンペーンを行ったりする余裕はみじんもない。

 課題となっていたのは、バーガーキングが国内で“オワコン扱い”される風潮がはびこっていたこと。SNSで誰かが「バーガーキングを食べた」と投稿すれば、「まだ日本にあったっけ」と皮肉を返され、ブランドとしての認知度はあるものの、「どこに店があるか分からない」と言われる始末。バーガー店としては風前のともしびといっても過言ではない状況だった。

 バーガーキングは健在だ。それどころか勢いがある。マーケティング費がない中でもそんな気概を知らしめるため、何としてでも世の中の話題をさらうような施策をひねり出さなくてはならない。僕は、辛辣なSNSの投稿者を尻目に、反撃ののろしを上げる機会を虎視眈々と狙っていた。

 その初陣となったのが、2019年10月の「渋谷ゴーストストア大作戦」だ。

 この施策が実行に移されたのにはいくつかの背景があるので、まずはそれを説明しよう。バーガーキングは、世界各国で店舗を展開するグローバルなブランドである。そのため、各国で行う独自の商品開発やマーケティング以外に、本部から世界共通で行うことを求められる施策がある。その一つが、ハロウィーンの季節に合わせて行うことを要求された、GHOST WHOPPER(ゴーストワッパー)の提供だ。

 ゴーストワッパーは、ゴーストをイメージしたホワイトバンズを使っているのが特徴。これを使って「何らかの話題づくりを行え」というのが本部の指示だ。

 問題は、ゴーストワッパーを使ってどうやって世の中の話題を最大級にさらい、バーガーキングへの注目度を高めるかだ。バーガーキングは一定の認知度はあるものの、低迷しているため関心度は低い。既視感のあるもの、あるいは他のバーガーブランドでも思い付きそうな施策をいくら行っても、メディアは取り上げてくれず、SNSでの拡散も望めない。メディアに面白いと思ってもらい、そのニュースを見た消費者から消費者へと飛び火させるには、「こんなの見たことがない」というくらいぶっ飛んだ企画でなければならない。

 同時に、非常に重要なのが、その施策が「バーガーキングらしいかどうか」ということだ。いかに爆発力があって、話題になりそうな企画でも、それがバーガーキングのイメージとかけ離れていたら、「これは俺が思っているバーガーキングとは違う」とファンの失望を招き、逆効果となってしまう。

 本物であり、笑いや機知のセンスもある。そんなブランドイメージに合致し、なおかつ話題を最大化させる施策は何なのか。僕たちは、侃々諤々の議論の中で、その連立方程式の最適解を探し求めていったのだ。

「閉店」させ「復活」させる

 そうした中、アイデアとして浮上したのが、当時、国内のみならず、インバウンド客も集めた一大イベントとして盛り上がりを見せていた「渋谷ハロウィーン(渋ハロ)」に乗じた施策を打つことだ。

 渋谷駅前から始まる随一の繁華街、渋谷センター街にはバーガーキング渋谷センター街店がある。マクドナルドとウェンディーズが近くにあり(当時)、まさに渋谷のど真ん中ともいえる立地だ。そこで何らかの話題性に富んだ企画を行えば、渋ハロ人気を追い風に、拡散することが期待できる。「どこに店があるか分からない」という疑問に対し、「渋谷のど真ん中にあるよ」という答えにもなる。

 具体的には、渋谷センター街店を、ハロウィーンの時期の期間限定で、ゾンビに襲われて廃虚と化した「バーガーキング SHIBUYA GHOST STORE」とし、店内は、ガラスが割れ、レンガが崩れ落ち、腐敗した壁にするなど、不気味な内装に突貫工事で模様替えする。店の中には役者が演じるゾンビもいて、とことん本物感のある演出にこだわっている。バーガーキングのハンバーガーはリアル(本物)を重視するのに対し、廃虚もゾンビもリアルであり、ブランドとの親和性もしっかり担保できる。

 渋ハロにはゾンビに仮装した一般客が数多く訪れることが予想され、その“一般ゾンビ”に渋谷センター街店に集結してもらい、「ゾンビになっても食べたいほどおいしいゴーストワッパーを味わってもらう」という立て付けだ。

 ただ、そこで手を緩めないのが僕たちだ。ここからより面白い方法はないか、意外性を出せないかと徹底的に追求していくのだ。

 思い付いたのが、渋谷センター街を「緊急閉店」すると、Twitter(現X)やプレスリリースで発表することだ。渋ハロはコスプレをした人たちが大挙して参加する一大イベントとなり、その混雑や混乱は年々増している状態だった。そんな渋ハロの状況の中、「渋谷に多くが集まる“某恒例イベント”対策」として、バーガーキングは閉店すると、大々的にアナウンスしたのだ。

 もちろん、本当に閉店するつもりは毛頭ない。一度閉店して、後日、期間限定の渋谷ゴーストストアとして復活するという、ユーモア、ウイットであり、ジョークを含ませたストーリーの伏線だ。閉店でPRし、渋谷ゴーストストア復活でもう一度PRするという2段方式で、一粒で二度おいしい作戦によって、話題づくりを最大化する狙いだった。

 それをにおわせるため、プレスリリースに結びには「閉店だけするようなことは絶対にいたしません。弊社として“ある対策”を講じる発表を改めて行わせていただきます」と、ただし書きをしている。

 だが、この発表が思わぬ物議を醸す。まず、敏感に反応したのがTwitterの住人だ。バーガーキングのファンだというユーザーが、「前年、暴徒が騒動を起こすから、自分が大好きなバーガーキングが閉店に追い込まれたのではないか」と憤慨する投稿をして、それが瞬く間に拡散したのだ。

 勃発した問題はそれにとどまらない。予想外にも、渋谷センター街店が入るビルのオーナーである大家から、会社に「閉店するなんて聞いていない!」と連絡が入ったのだ。僕はまだバーガーキングに入ってから半年足らずで、営業や店舗運営チームとのコミュニケーションが不十分であり、今回の施策の根回しが行き届いてなかった。営業担当者からは「とにかく謝って誤解を解いた方がいい」と言われ、すぐさま菓子折りを持って頭を下げに行った。

 今となっては笑い話だが、その時は肝を冷やした。しかし、こうして波紋を広げた閉店リリースは、結果的には成果を得た。通常、バーガーキングが公式アカウントから行うTwitterの投稿に対して、引用して投稿するリツイート数は120程度。だが、この時は5000以上と普段の40倍以上に膨れ上がったのだ。これは、バーガーキングに入って「バズる」ということを初めて実感した、僕にとっての“事件”にほかならなかった。

(次回に続く)

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