何度注意しても、なぜミスはなくならないのか。マニュアルを整備し、口酸っぱく指導しても、同じミスが繰り返される…。そんな現場の悩みは、新型コロナウイルス禍以降、さらに深刻さを増しています。リモートワークや世代構成の変化、さらには生成AIの普及によって、従来の「ミス対策」が通用しにくくなっています。『 無くならないミスの無くし方 決定版 』(日経ビジネス人文庫)著者の石田淳さんに「意識を高める」だけでは解決できないミスの本質と、具体的な行動レベルでの改善策について聞きました。
いくら声かけをしてもミスはなくならない
私は人や組織の行動に着目し、科学的根拠に基づく手法で行動を変える「行動科学マネジメント」の研修やコンサルティングを行っています。これまでに1200社以上の企業、延べ3万人以上のビジネスパーソンを指導してきました。日経ビジネスのリーダー養成講座「課長塾」での講座は開講以来17年目を迎えました。

なぜ、人は望ましい方向に行動を変えたいのかというと、「ミスを無くし」「成果を上げたい」からではないでしょうか。重大なミスは信頼を失い、事故の原因となる恐れもあります。そのため、2021年に『 無くならないミスの無くし方 成果を上げる行動変容 』(日本経済新聞出版)を出版したところ、『教える技術』シリーズなど累計40万部超の著者による一冊として注目を集めました。
当時は新型コロナウイルス禍であり、リモートワークが本格化したのはその後のことです。新型コロナウイルス禍で人と接する機会が少ない環境で学生生活を送った、いわゆるZ世代と呼ばれる若手社員が入社するようになると、「ミスをしないよう、どのように指導したらよいのか分からない」という上司側の悩みが増えていきました。一部では、「電話に出ない」「メモを取らない」といった声を耳にすることも少なくありません。
そこで2026年4月、大幅に加筆した『 無くならないミスの無くし方 決定版 』(日経ビジネス人文庫)を出版しました。
前回とこの「決定版」で最も違うのは、Zoomなどのオンラインツール活用の増加に伴うマネジメントやミスの無くし方、Z世代への声のかけ方、そして生成AIの登場です。
「オンラインでは対面で接するときよりも丁寧に声をかけている」「マインドを変えるよう、細かく注意している」「詳細なマニュアルを用意した」という上司もいるかもしれません。しかし、「意識の徹底」だけではミスは改善しません。人は「意識を変えろ」と言われるだけでは変われないのです。
例えば、警察が「交通死亡事故を減らそう」というスローガンを掲げても、全員がきちんとシートベルトを締めるわけではありません。工場で「安全第一」のためヘルメットの着用を義務化しても、あごひもを締めない人がいる。子どもに「勉強しなさい」と言っても、しません。
本書で紹介した事例では、とある繊維工場で糸を巻き取る歯車の定期検査をする際、「作業員がけがをする」というミスが多発していました。けがを防ぐには頑丈な手袋をはめる必要があるのですが、作業員からすると面倒でしかない。だから、いくら注意してもけがは無くなりませんでした。人は「面倒なことはしない」「楽なほうを選ぶ」「手っ取り早く済むのであれば、危険なことをしてしまう」のです。
では、どうすればミスを無くせるかというと、「具体的な行動」に焦点を当て、「行動を習慣化」する必要があります。先ほどの繊維工場では、「掃除用具と手袋をセットにして配置する」ことで、けがの件数がゼロに近づきました。
また、行動を習慣化できたら「承認」することも重要です。チェックリストやグラフでミスの減少を数値化してもよいですし、実際に行動した際には承認の声かけをすると現場の士気が上がります。
例えば、近年は勤務中に撮影した不適切な動画を投稿する「バイトテロ」が問題となっています。あるチェーンストアでは、スマートフォンを入れるポケットがない制服を用意しました。スマートフォンを持ち込めなくすれば、バイトテロのリスクを下げられると考えたためですが、実はより簡単な防止策があります。
あるコンビニで実際に行っているのは「深夜の電話」です。深夜の勤務時間中、アルバイトが働いている時間に店長が店舗に電話を入れ、「お疲れさま」「問題はないか」とコミュニケーションを取ります。そうすることで、アルバイトの承認欲求が満たされると考えているからです。その結果、店長との人間関係の構築につながり、バイトテロのリスク低減に寄与するというのです。
ちなみに、ミスを防ぐためにペナルティーを与えることは逆効果です。ミスを防ぐ安全行動がなぜ定着しないかというと、やったところで誰も承認してくれないからです。先ほどの繊維工場の例でも、安全のために頑丈な手袋をはめたところで、誰も認めてくれない。そうなると面倒になり、「今まで手袋をつけなくても問題なかった」と考え、素手で作業してしまいます。
ミスをするたびに始末書を書かせ、叱責したところで効果は薄いと言えます。なぜなら、やらされている感覚だけが募り、安全行動を習慣化することにはつながらないからです。
AI依存がミスを招く可能性
また、新たなミスを誘発するのがAIです。ここ数年で一気に普及した生成AIですが、その回答がすべて正しいとは限りません。しかし、「分からないことはAIに聞けばよい」と考える若手もいるため、上司は「AIを使うと、人は確認作業を省きやすくなる」と認識しておく必要があります。AIを使って効率的に済ませた作業ほど、担当者本人と上司によるダブルチェックを怠らないようにする必要があります。
本書では工場やオフィスなど、さまざまな職場でのミスと解決事例を紹介しています。自分自身はもちろん、自社のミスを防ぐヒントとして活用してみてください。
取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/木村輝
