2026年3月5日に開幕する野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。豪華布陣で連覇を目指す日本代表、歴代最強で優勝奪還を狙う米国代表、それぞれの注目選手や戦い方は。米在住スポーツライターの丹羽政善さんに聞いたインタビューの1回目。
ついに最優秀投手を投入、本気を出した米国代表
20の国と地域が出場し野球の世界一を決めるWBCが開幕します。日本代表には過去最多9人のメジャーリーガーが選出(その後、松井は辞退)される一方、優勝奪還を狙う米国代表も「史上最強」のメンバーが集められました。
米国の投手陣で注目したいのは、2025年のサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を受賞したタリック・スクーバル(デトロイト・タイガース)とポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)です。今まで彼らのようなエースは、チームからレギュラーシーズンを優先するように言われ、本人が出場を希望しても一部例外を除いて認められてきませんでした。
ところが今回から、昨年1年間、負傷者リストに一度も入らなかった選手は、出場を選手自身が優先的に判断できるようになりました。このおかげで、スクーバルやスキーンズといったスター選手が参加できるようになったのです。
今回のルール変更は、正式に発表されたものではありません。私はドジャースのディノ・イーベル三塁コーチ(米国代表でも三塁コーチを担当予定)から変更について聞いたのですが、これは不文律、いわゆる「裏ルール」です。もしこのルールが表に出ると、スター選手がWBCに出場して負傷した場合、「ほら見たことか」と批判の目が選手個人に向けられます。裏ルールにしておくことで、責任の所在が曖昧になり、非難が選手ではなく球団にいく余地を残しているのです。
米国代表は第1回大会(2006年)から一貫して、ピッチャー不足の傾向にありました。そのためリリーフをなるべく多めに集めてオープナーやブルペンデーといった戦い方しかできませんでした。しかし今回はこうした経緯もあり、チームに相当いいメンバーがそろうことになりました。
何より、前回大会(2023年)決勝での大谷翔平とマイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)の対戦に触発され、自分も出場したいと希望する選手が増えました。ルールが変わったことで、選手としても出やすくなったと思います。
今回もう一つ、裏ルールが変わりました。ロースター(選手登録枠)の変更に関するものです。これまではけがが理由でない限りロースターの変更はできませんでしたが、今回からけがにかかわらず3人まで選手を入れ替えられるようになりました。
そうなると、例えば準々決勝で先発したピッチャーは、球数の関係から次回以降の試合で投げることが現実的ではありませんから、すぐにロースター変更して、その時点で調子の上がってきたピッチャーを準決勝や決勝で使うという戦い方も可能になります。
このルールの変更は、やはり米国も相当本気で優勝を狙いにきていることの現れだと思います。ですが、日本にとっても有利になる場面が出てくるかもしれません。日本は、今井達也(ヒューストン・アストロズ)らを予備登録選手としましたが、状態がよければ、決勝ラウンドで登録されるかもしれません。各チームがこのルールをどう使ってくるのか、興味深いところです。
メジャー経験のない投手が有利に
米国代表には投手以外にも注目の選手が大勢います。守備陣は、WBC初出場のアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)、前回大会にも出場したショートのボビー・ウィットJr.(カンザスシティー・ロイヤルズ)も良い選手に成長しました。外野のピート・クロウ=アームストロング(シカゴ・カブス)は昨年3月のMLB開幕シリーズでカブスのメンバーとして初来日しましたが、彼の守備はちょっと「やばい」(いい意味で)です。ガナー・ヘンダーソン(ボルティモア・オリオールズ)やアレックス・ブレグマン(シカゴ・カブス)も良い選手です。カイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)は昨シーズン、大谷とのナ・リーグ本塁打王争いに競り勝ちました。
捕手については、昨年両リーグ最多となる60本塁打を記録したシアトル・マリナーズのカル・ローリー、おそらく彼がメインになるかと思います。そうなると、ロサンゼルス・ドジャースのウィル・スミスが控えになり、この時点で米国代表の選手層の厚さを感じます。
日本代表は守備がやや弱いかもしれませんが、ピッチャーは米国代表にも引けを取らないメンバーがそろっています。
伊藤大海(日本ハム)や大勢(巨人)の球は角度がつかないフラットな軌道が特徴です。髙橋宏斗(中日)のスプリットもメジャーではほとんど見られません。こうした軌道で投げるピッチャーは、試合で断然有利になります。
なぜなら、バッターはボールを見て打っているのではなく、軌道を脳が予想してそこにバットを出しているからです。例えば、メジャーのバッターがソフトボールのピッチャーと初めて対戦するとき、その球を打つことは難しいでしょう。球速はそこまで速くなくても、見たことのない球の軌道に脳が反応できないからです。
今までに対戦経験のあるピッチャーや平均的な球質であれば、推測して打てるのですが、見たことない軌道のピッチャーとの対戦は嫌がられます。メジャーで投げたことのない日本のピッチャーは、その点で有利になると思います。準々決勝や準決勝でそういったピッチャーを先発させたら非常に面白いことになりそうです。
キャンプで「スモールベースボール」の精度を高める
日本野球の戦術は、バントや盗塁といった細かいプレーを駆使する「スモールベースボール」が特徴ですが、それには選手同士の連携、意思疎通が欠かせません。代表チームの場合は、普段一緒にプレーしているわけではないので、あまり細かいことをやろうとしても失敗することがあります。それが顕著だったのは第3回大会(2013年)の準決勝プエルトリコ戦です。日本の内川聖一と井端弘和がダブルスチールを仕掛けたものの、失敗に終わりました(編集部注:二塁ランナー井端は状況を見てスタートを切らなかったが、一塁ランナーの内川が飛び出してタッチアウトになった)。長く同じチームでやっていれば、ああいうことは起きなかったと思います。
ただ、日本代表は2月中旬から本番に向けたキャンプを行い、壮行試合も行いました。米国の場合は、大会の数日前に集合して調整するだけで、実質的な練習日は1、2日しかありません。WBCのために前もってキャンプを実施するチームは日本くらいなので、そこはアドバンテージになると思います。
日本も米国も1次ラウンドは普通にやれば勝ち進めるはずです。プールCの日本がプールBの米国と対戦するのは、決勝ラウンドでということになります。米国の場合は、前回日本が苦戦したメキシコとの戦いに要注意です。メキシコはかなり意外性があるチームです。
日本は準々決勝でプールDの1位か2位、おそらくドミニカ共和国かベネズエラと対戦することになるでしょう。両チームとも出場メンバーにメジャー選手が多いので、かなりタフな試合になることが予測されます。
米在住スポーツライター
文/橋口いずみ 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集)
