ニッセイ基礎研究所・主席研究員で、『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(日本経済新聞出版)の著者である井出真吾さんと、投資の若きリーダーとして知られる大学生投資家で、『私たちはどう投資をするか?』(日経BP)の著者である八田潤一郎さんの対談が実現しました。両者が考える、今とこれからを生き抜くための投資とは? 第3回のテーマは、後悔しないために「50点の投資」を目指す理由についてです。
どこまで行っても、投資は人生のオマケ
井出真吾さん(以下、井出) 個人投資家には時間を味方につけて利益を増やす長期投資が向く、というのは多くの専門家に共通する意見です。でも、前回も話しましたが、残念なことに、利益が出る前にやめてしまう人が多いことも事実です。だからこそ、投資をする楽しさを見いだしたほうがやめにくくなる、という八田さんのお考えが響きました。著書を拝読して、私もお金を増やすこと以外の楽しさを見つけて、それを多くの人に伝えていかなければならないな、と痛感しました。
その一方で、私は、投資は人生全体で考えたらオマケ程度のものでしかない、というちょっと冷めた視点も持っているんです。

八田潤一郎さん(以下、八田) そうした一歩引いた視点を持つことは、投資において“武器”になると思います。市場のノイズをスルーしやすくなって、暴落時にパニックに陥ったり、一獲千金を狙って高リスクな賭けに出たりすることも防げますから。投資に夢中になりすぎる人のなかには、四六時中株価や為替の動きをチェックして、勉強や仕事、人間関係などがおろそかになってしまう人もいます。お金が増えると、もっと増やしたい、という欲が出るのが人間で、気持ちもよくわかるんですが……。
井出 投資を人生のメインにすると、人としての健全性が崩れやすくなるような気がするんですよね。投資は老後の生活を豊かにするものに違いありませんが、あくまでもオマケ程度のもの、という位置づけで考えたほうがいいと思います。
八田 同感です。私たちの生活は、様々なことで成り立っていて、金融投資の優先度がとりわけ高いわけではありません。勉強や仕事をはじめ、趣味に興じることも特技を磨くことも、スポーツや旅行をすることなども豊かに生きるうえで必要不可欠です。いわば、人生にはいろんな自己投資があって、その1つが金融投資にすぎない、ということ。この全体感を持って俯瞰(ふかん)すると、過度なのめり込みを回避できるように思います。

井出 いろんなことにトライしている人は、経験と知識の幅が広がって物事をはかる物差しが増えますから、人としての厚みも違ってきますよね。金融投資にもそういった副産物的な「得」がある。だから、金融投資は自己投資の1つでもある、というのは非常に納得いくお話です。
高い目標や理想は、勉強や仕事で掲げればいい
八田 井出さんのご著書に、投資をする際は「いっそ『50点でいい』くらいの意識を持つと、大失敗リスクが小さく精神衛生上もよい」と書かれていて、本当にその通りだと共感しました。投資に興味があるけれどなかなか始められない人のなかには、完璧を目指しすぎてしまって初めの一歩が踏み出せない、という人が少なくないと思います。
井出 目標が高すぎると期待が大きく膨らむ分、ちょっとでもうまくいかないと失望も大きくなりますからね。利益を最大限に伸ばすには株価の急落と急上昇を狙って売買することが必要ですが、そのタイミングを計るのはプロの投資家でも難しいものです。前回八田さんもおっしゃっていましたよね。仕事や家事、育児、介護などに忙しい個人にとっては、至難の業でしょう。
八田 そのことが読み取れる、実際のデータもご著書に掲載されていましたよね。
井出 はい。TOPIXの月間騰落率と個人投資家の売買動向(前月)を見ると、株価が急落する直前に、個人が大きく売り抜けた様子は確認できません。一方、急上昇の直前に大きく買い越した様子もありませんでした。なかにはタイミングよく売買した個人投資家もいるでしょうが、平均的にはその事実も確認できない。つまり、世の中で考えられている100点満点の投資を短期の売買を繰り返して目指すのは自由ですが、基本的にできている人は少ないはず、ということです。その状況で売買の結果が裏目に出ると、大きな痛手になりかねないことは言うまでもないと思います。
八田 だから、投資は「50点でいい」くらいの意識でやったほうがいい、と。
井出 そのほうが、自分は何年後のゴールを見据えて投資を始めたのか、という初心を貫きやすく、結果として預貯金よりも高い利回りを確保できるはずです。おそらくインフレ(物価上昇)にも負けないでしょう。
八田 大失敗のリスクが小さくなる分、精神衛生上いいことも間違いありません。
井出 勉強や仕事では、高い目標を掲げていいと思います。勉強や仕事で目標に到達できなくても、失うものはあまりありませんね。1度で試験に合格できなかったり、出世するペースが遅くなったり、ということはあるけれど、そこまでに得た知識やスキルが失われることはなく、自分の財産として残ります。
一方、金融投資は失敗したらマイナスになってお金が減ります。だから、あまり高すぎない目標を掲げたほうがいい。高い理想は仕事で掲げて、金融投資では高すぎない目標を掲げることをお勧めします。

投資準備期間は「半年をメドに」する
井出 この記事を読んでいる方のなかには、まだ投資をしていないけれど、投資に関心があって、ちゃんと調べてからやろう、という準備段階の方もいると思います。何事も、下調べをするのは大事なことですが、準備期間は半年をメドにしてください。今なら、夏のボーナスで投資を始めるという計画もいいでしょう。運用期間が10年、20年、30年になる長期の投資において、開始時期が半年遅れても最終的なリターンに大差はありません。
八田 一方で期限を設けないと、延々と先延ばしにして結局やらない、ということになりかねないからメドを決めるんですね? 先延ばしにするほど心理的なハードルは上がりそうです。
井出 そうです。始める際にざっくりと、押さえておくべきポイントは2つ。まず、NISAなど投資用の口座を作る金融機関は自分の生活経済圏(共通ポイントやクレジットカード)に合ったところにすること。たとえばVポイントがメインの人ならSBI証券、dポイントならマネックス証券、楽天ポイントだったら楽天証券という具合です。給与口座がある銀行などでNISA口座を作る人も少なくないようです。

八田 NISA口座の場合、制度上、すでに持っている商品を、非課税のまま他社へ移管できないという意味でも、金融機関選びはしっかりやりたいですね。
井出 もう1つ押さえたいのは銘柄選びです。これについては前回の後半で説明した通りで、みんなが投資しているからオルカンかS&P500でいい、という思考停止状態での選び方はお勧めできません。
八田 思うに、投資の初めの一歩を踏み出すのに必要な投資の知識は、そんなに多くないんですよね。いきなり、ベテラン投資家になろうという話ではありませんから、知識を詰め込む必要はありません。知識は経験を積むにつれて自然と増えるものですし、机の上で丸暗記したような知識と違って、経験を伴ったほうが“生きた知識”として身につきやすいと思います。だから、まずは投資一歩目を踏み出すのに必要なことだけを学べばOK。それで、とりあえずやってみる、という感覚も必要か、と。
井出 私もとりあえず500円ずつでも、100円ずつでもいいからやってみたら? と知人に言ったことがあります。実際にやってみたら、意外と投資は怖くないことがわかるし、3カ月もしたら投資していること自体を忘れるほど、当たり前のことになっていますから。
八田 PayPayポイントやPontaポイントなど、ポイント投資から始めてみて小さな成功体験を積むのもいいですよね。実際、若者でポイント投資なら抵抗なくできる、という声はよく聞きます。
「トランプ口座」のような制度は日本で始まる?
井出 ポイント投資なら抵抗なくできるというのは、面白いですね。
八田 証券口座を開設する手間が要らないというのがカギだと思います。PayPayはPayPay証券と、Pontaはauアセットマネジメントとそれぞれひもづいていて、ポイント投資しますか? と聞かれて同意ボタンを押せば投資を始められるので。
井出 そのポイントは、現金と同等に使うこともできますよね。それなのに、ポイントだと投資しやすい、というのはちょっと不思議です。
八田 それこそポイントはオマケでもらうものだから、仮に連動する株価が急落してマイナスになっても自分の懐が直接痛むわけではない、それこそゲームのような感覚なんでしょう。
井出 なるほど、もらったもの、というのがカギなんですね。そういえば、今夏からトランプ大統領が子どもたちのために整備した、税制優遇付き投資口座「トランプ口座」(米国政府が2025~28年に生まれた子どもに1000ドルずつ拠出し、S&P500などの米国株インデックスファンドを購入。引き出し可能になる18歳まで自動的に運用される制度)が始まりますよね。口座は開設してもらえるうえ、元手ももらったお金となれば、アメリカの投資人口はさらに増えることが予測できます。日本政府も、同じようなことをするとよさそうですよね。投資を身近にするという意味では、小学生に毎月1000円ずつあげる程度でもいいと思います。
八田 せっかく、来年から「年齢制限のないNISA(通称:こどもNISA / こども支援NISA)」が始まる予定ですし、始まれば0歳でもNISA口座を持てるようになりますからね。
井出 理想を言えば、義務教育のプログラムとして投資に親しめる時間があるといいと思います。そうすれば、親世代の金融リテラシーに左右されない、今の資産運用のスタンダードを身につけられますから。でも、これは家庭内でもできると思います。ご自身もお子さんもまずは投資をしてみると、一緒に楽しさも共有できていいかもしれません。

(構成=茅島奈緒深、写真=稲垣純也)
八田潤一郎/日経BP/1760円(税込み)
インフレ時代を賢く乗り越え、豊かに生きる63の知恵をQ&A形式で解説。一括投資とつみたて投資、元本割れリスクが小さいのは? 全世界株式とS&P500、どちらが優位? 年金以外に老後資金の必要額は? ……などこれから投資を始める人にも、見直したい人にも。新NISA2年目対策にも。
井出真吾/日本経済新聞出版/1760円(税込み)


