ニッセイ基礎研究所・主席研究員で、人気ストラテジストとしてメディア出演も多い井出真吾さんと、投資の若きリーダーとして知られる大学生投資家で、金融業界や官庁と意見交換の経験も豊富な八田潤一郎さんの対談が実現しました。両者が考える、今とこれからを生き抜くための投資とは? 第2回のテーマは、個人が長期投資をするうえで、暴落や銘柄選びはどう考えるべきか、です。
リーマン・ショックで半減した株は今7~8倍に
井出真吾さん(以下、井出) 前回、積み立て投資は10年以上の長期でするのが重要だという話をしました。それは、投資期間が長くなるほど、リターンが大きく増えるのに対して、リスクはそれほど増えない性質があるからです。実は、一括投資のほうが6~7割の確率でリターンが上回ったというデータもあります。詳しくは拙著『 井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用 』(日本経済新聞出版)で解説していますが、共通して言えるのは、いずれも期間が長くなるほど分がよくなる、ということです。長期投資において大事なのは、目先の株価水準より投資期間で、いつ始めるかは大した問題ではありません。
八田潤一郎さん(以下、八田) 私も、投資は始めたいと思ったときがベストタイミングだと考えています。最近、日本も欧米も株価が上がっていますし、日経平均株価が最高値を更新した、といったニュースを聞くと、(株価が安いほど元手が少なくてすむので)株価が下がるのを待ちたくなるものですが、先行きはプロにもわかりません。本当に下がることもあれば、待っている間に株価が上昇して、あのとき買っておけばよかった、というタラレバはあるあるですよね。結局のところ、投資するタイミングを見計らうのもギャンブルのように感じます。
井出 投資はいつ始めるといいのか、というのは永遠の難問のようになっていますよね。きっと、「株価が安いところで始めるのがベスト」という短期取引のロジックが根底にあるからでしょう。しかし、繰り返しになりますが、長期投資で利益を増やす最大のポイントは期間です。
例えば2008年のリーマン・ショックが起きる前の高値時点で100万円分の株式投資信託(S&P500連動型インデックスファンド)を持っていたとします。リーマン・ショックで一時およそ42万円まで値下がりし、100万円に戻るまでに5年半ほどかかりました。が、その後現在に至るまでの約12年半で約8.5倍の850万円ほどに増えています。
八田 それはなんとも心強いデータです。老後(65歳以上)まで40年以上ある私の場合、リーマン・ショック級の暴落が何回かあっても平気ですね(笑)。
長期投資すると決めても、やめたくなる理由を考える
井出 そもそも、投資は経済が長期的に成長すると思ってする行為じゃないですか。
八田 はい、実際、世界経済は時間の経過とともに成長しています。もし、世界経済が縮小すると思うなら投資はしないほうがいい、というか、できないと思います。
井出 そう、長期的な成長を見込んでいるから、たとえ下落局面が長引くようなことがあっても、いずれまた上昇するだろう、と考えられるはずなんです。そのはずが、株価がちょっと乱高下するとすぐに、怖いからやめる、と考え方が変わってしまう人が少なくありません。乱高下は株価や為替につきものです。それもわかっているはずなのに、自己矛盾を起こして短期間で投資をやめてしまう人を見ると、なんてもったいないことを! と思わずにはいられません。
八田 学生の場合、懐事情が厳しくなったり、欲しいものやしたいことができたりすると、急に投資の優先順位が下がってやめてしまう人もいます。
井出 株価がある程度上昇すると、今のうちに利益確定売りをしたほうがいいかもしれない、と思う人もいますよね。逆に、急落すると損失が膨らむ前に売ったほうがいい、と思う人も。
どちらも気持ちはよくわかりますが、個人の長期投資において、株価や為替の一時的な変動による利益確定売りも損切りも必要ありません。
もちろん、ご自身の相場観で売買を繰り返すのは自由ですが、結果が裏目に出て大きく後悔しかねないのでお勧めはできません。
投資先の見つけ方と新居の探し方はまったく同じ
八田 持続可能で納得いく投資を実現するには、自分はなぜ投資をするのか、どんな投資をしたいのか、といった軸となる考え方を明確にしておくことが大事だと思います。軸があると、不安定な状況時の心のよりどころになって、自分を支えてくれるからです。
これについては拙著『 私たちはどう投資をするか? 』(日経BP)でも、ページを多く割きました。いわゆる「投資哲学」と言われるもので、著名な投資家や資産(投資)運用会社(アセットマネジメント)には必ず投資哲学があります。哲学、軸といっても構える必要はなく、ちょっと立ち止まって、まずは「仮の軸」をつくってみようかな、というノリで考えれば十分だと思います。
井出 軸になるような確たるものがないと、自己矛盾を起こして途中でやめやすい、ということは言えますね。投資は人に言われてやるものでも、「みんながやってるから」といってやるものでもないからこそ、自分で考えて決めることが肝要です。と言うと、突き放しているように聞こえるかもしれませんが、人によって資金も、リスクをどのくらい許容できるかも、積み立てか一括か、ということも違うので、一概にこうすべき、とは言えません。人それぞれ、自分に合った投資スタイルがあるわけです。
八田 どう考えて、どう決めるかは、身近な選択に置き換えると理解が深まると思います。例えば新居を探すとき、まず、なぜ引っ越すのかという目的がありますよね。就職するから通勤に便利な駅近の物件に住みたい、上京して一人暮らしをする、など。そして、目的ごとに「駅まで徒歩○分以内がいい」「セキュリティーが万全なほうがいい」といった条件を考え、予算に応じた物件を見るはずです。こうした段階を踏まえるのは、全ての条件を満たすような完璧な物件はないと知っているため、優先順位をつけ、自分との折り合いをつけて納得するためです。
投資においても、どんなときでも絶対に儲(もう)かる商品や方法はありませんから、あらかじめ目的や条件を考えることが不可欠です。そうすれば、株価や為替の乱高下などが起きても、気持ちの折り合いをつけやすく、納得して保有し続けられると思います。
日本株 or アメリカ株? オルカン or S&P500?
井出 私は、ときどき知り合いの大学教授から頼まれて、資産形成に関する授業をすることがあります。どの学生さんも熱心で、食いつくように聞いてくれます。なかには、すでに投資をしている人から、「ナスダック総合とナスダック100だと、どちらのETF(上場投資信託)を買ったほうがいいですか?」など、かなり突っ込んだ質問をされることもあります。
八田 私の回りでは、個別株に投資している学生も結構います。学生は時間があって、個別株を吟味する時間もあるので。時間がある学生のうちに、市場に対する耐性を高めている、という言い方もできます。もし失敗しても、取り戻す時間もたっぷりあります。
井出 そこは本当に羨ましい点です。50代半ばを過ぎた私の時間は減るばかりです(笑)。
八田 就職すると銘柄を吟味する時間がなくなるので、逆に(投資信託の)積み立て投資を始める、という人が多い印象です。
井出 世間一般には、積み立て投資から始めるのが王道のようになっていますが、先に違う投資から始めるパターンもあるんですね。これは学生さんに限った話ではありませんが、ナスダックの質問のように「日本株とアメリカ株どっちがいいですか?」という質問もよく受けます。何をもって「良い」とするかは人それぞれなので答えに窮してしまいます。
八田 甲乙つけられるものではありませんからね。
井出 そう、どちらもいいですよ、としか言えないんです。以前はよく「日本って人口も減っていくなかで、日本株に投資する意味はどこにあるんですか?」と聞かれました。それに対しては、「日本の上場企業は海外で稼いでいるので、日本の人口減少の問題が、企業の業績や株価に与える影響は直接的ではないと思います」と答えていました。トヨタもソニーも任天堂も、メガバンクだってアメリカやヨーロッパで稼いでますから。
八田 よくある質問の文脈でいうと、「積み立て投資をするなら、オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式<オール・カントリー>など)とS&P500(米国株式)、どっちがいい?」というのもよく聞きます。
井出 それまた、しょっちゅう聞かれる。本当に、どちらでもいいんですよ。好きなほうを買ったらいいんです。強いて言えば、リスクとリターンがちょっと違うだけ。やっぱりアメリカ経済が最強だ、と思う人はS&P500を買えばいいし、いやいやアメリカといえども何が起きるかわからないから少しは各国に分散しておきたい、と思う人はオルカンを買えばいい。
もっとも、とりあえずオルカンかS&P500を買っておけばいい、という思考停止の二択に対しては、それで本当にいいの? と思わずにはいられません。自分で考えて決めていない分、自己矛盾を起こして途中でやめてしまう可能性が高いからです。
八田 わかります。それにオルカンもS&P500も、類似する投資信託はいろんな運用会社が発売していますよね。ついつい運用会社のブランド力で買ってしまいがちですが、それも違和感があるんです。実は似たような商品でも、手数料がより安い商品や運用実績がいい商品もありますから。
井出 確かに、多くの人が買っている金融商品は、口コミ評価が高いのと同義です。運用額が大きく、運用会社の体制も整っていることが多いから安心感も高いでしょう。
ただ、新しくてお得な商品がどんどん出てきていることも事実です。事前に投資信託説明書(交付目論見書)を開いて、その商品の目的や特色、組み入れ上位銘柄などをチェックする価値は高いと思います。
構成/茅島奈緒深 写真/稲垣純也
八田潤一郎/日経BP/1760円(税込み)
インフレ時代を賢く乗り越え、豊かに生きる63の知恵をQ&A形式で解説。一括投資とつみたて投資、元本割れリスクが小さいのは? 全世界株式とS&P500、どちらが優位? 年金以外に老後資金の必要額は? ……などこれから投資を始める人にも、見直したい人にも。新NISA2年目対策にも。
井出真吾著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)






