優れたリーダーシップを発揮するために必要な能力は、部下と接しているそのときに養われるものではありません。もし「リーダーとして自信がないし、向いていない」「とにかく多忙で、頑張りすぎている」「手応えを感じない」という悩みを抱えているならば、見直すべきは「1人で過ごす時間」だと、新刊『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている』(日経BP)の著者、大野栄一氏は指摘します。なぜリーダーにこそ、1人の時間が重要なのでしょうか。抜粋して紹介します。

人を動かすのは「スキル」ではない

 リーダーとしての「1人の時間」の過ごし方が、組織全体の成果に大きく影響することをご存じでしょうか。
 リーダーシップを発揮するには、部下と向き合う時間だけでなく、自分自身と向き合う時間が大切です。「自分1人の時間」の使い方が、リーダーシップの質と、リーダー自身の成長を左右します。

 多くのリーダーは、部下や組織メンバーとの「接し方」や「動かし方」に重点を置きがちです。
 「アンガーマネジメント」「報連相(報告・連絡・相談)の方法」「評価の仕方」「1on1の進め方」などのテクニックを学ぶことは、たしかに有益です。
 ですが、これらのテクニックを身につけても、「部下や組織が思うように動かない」と感じたことはありませんか?

 人を動かす上でもっとも大切なのは、テクニック以上に、リーダーの「あり方」です。
 「あり方」とは、人間性、価値観、行動の一貫性など、内面的な特性のことです。
 リーダーが誠実であれば、組織も同様の行動をとる傾向があります。逆に、リーダーが不誠実であれば、組織全体のモラルが低下する可能性があります。
 マネジメントのスキルは、リーダーの「あり方」がともなってはじめて効果を発揮します。どれほど優れたコミュニケーション技術を持っていても、リーダー自身が信頼されていなければ、部下は心を開かないでしょう。

 重要なのは、スキルやテクニックといった「やり方」と、内面の姿勢や価値観である「あり方」の両方を整えることです。
 リーダーとしての「あり方」を育むためには、自分自身を深く理解することが必要であり、そのためにも、今、「自分を見つめ直す時間=豊かな1人の時間」が大切なのです。

1人の時間の「豊かさ」とは?

 リーダーが持つべき「1人の時間」に重要なのは、豊かさです。「豊かな1人の時間」というのは、人と群れずに単に1人で静かに過ごす時間でも、たまった作業を1人黙々とこなすための時間でも、日々の疲れを癒(いや)すための休む時間でもありません。
 目の前の雑事や突発的なトラブルなど、本質的ではないにもかかわらず目や気を奪ってしまうものから距離をとり、自分を掘り下げていく時間です。

 真のリーダーシップは、日々の業務や目の前の雑事、トラブルに追われている中で磨かれるものではありません。今、多くのリーダーに求められているのは、リーダーとしてのレベルが1のまま忙しく手足ばかり動かしているのをいったんやめて、レベルそのものを上げていくことだと考えています。
 優れたリーダーが現場に立つからこそ、優れたマネジメントができるのです。

リーダーが「豊かな1人の時間」を持つメリット
①自分を省みることができる
 リーダーの1人の時間は、自分を省みる機会です。1人で思索することで、リーダーとしての行動指針や理念が明確になります。部下と向き合うときにあらわれるのは、1人の時間に「考えた結果」の行動です。

②伝える価値のあるメッセージを見いだせる
 リーダーの役割のひとつに、部下へのメッセージの発信があります。このメッセージの質を高め、価値あるものにするために、1人の時間は不可欠です。自分の考えや感情を深く理解することで、部下の心に響く言葉にたどり着くことができます。

③決断の質が上がる
 常に騒がしい場にいると、質の高い決断をすることができません。静かな1人の場を持つことが、あなたが今後するすべての決断の質につながります。

④人間としての成熟につながる
 リーダーには、人間としての成熟が不可欠です。1人で深く思考する時間を通して、自身の未熟さと向き合うことができるでしょう。自分を深く知る時間を持たない人間は、人を理解することができません。

⑤独自性を発揮できる
 優れたリーダーは、競争ではなく独占を目指します。1人でいる時間こそ、自分だけの視点やアイデアを磨き、他者との差別化を図る機会です。

⑥ゼロからイチを生み出す
 ゼロからイチを生み出す発想は、1人での集中から生まれます。多くの意見に囲まれていては、革新的な洞察は得られません。1人で未来を構想する時間が大切です。

⑦長期的視点を養う
 現場は目の前の課題に集中しがちですが、リーダーは常に長期的な成功を設計する視点を持ち続けることも必要です。1人でいる時間に長期的なゴールを考え、持っておくことが不可欠です。

⑧知識を増やすことができる
 優れたリーダーは、他者が持たない視点や知識を武器にします。1人の時間に読書、思索、リサーチを行うことで知識を増やすことができます。

⑨責任感が高まる
 チームの成功も失敗も最終的にはリーダーの責任です。その覚悟は、1人でいる時間に深く考え抜くことで固まっていきます。

⑩「もっとも重要なこと」が明確になる
 成果を上げるには、「何をしないか」を決めることが重要です。1人でいる時間は、自分の役割とタスクを冷静に整理し、「もっとも重要なこと」に集中するための場となります。

⑪チームを喚起する力が高まる
 1人の時間は、直面する困難や挑戦にどのような意味を見いだすかを考える機会です。リーダーが自分の行動や選択に確信を持つことで、部下にもその姿勢が伝わり、困難な状況でもチームを喚起する力を生み出します。

できるリーダーが必ずしている「見えない努力」

 人目につかない場所での努力や準備が、結果として、表舞台での成果に反映されます。お客様に直接見えない企業努力がサービスや製品の品質に影響するように、リーダーの見えない努力が、部下や組織の方向性を決めるのです。
 部下の成長や組織の成果は、リーダーが1人のときに「何を考え、何を習慣にしているか」で決まります。

 会社にいる間、部下と接している時間だけがリーダーとしての自分ではありません。むろ、重視しなければいけないのは、「それ以外の時間をどのように過ごすか」ということです。

 リーダーとしてのあり方は、すべて自身の内面から生まれます。だとすれば、部下に目を向ける前に、自分自身を見つめ直す時間を持つことが重要です。自分の行動や考え方を客観的に振り返ることで、自己理解が深まり、リーダーシップの質が向上します。
 1人の時間を持って、リーダーとしての「あり方」を見直すことができるかどうか。質の高いリーダーシップを発揮するためには、1人の時間は不可欠なのです。

(写真:aijiro/stock.adobe.com)
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「とにかく多忙で、頑張りすぎている」「リーダーとして自信がない」「手応えを感じない」という方はいませんか? そういう方々に必要なのは、「リーダーとしてのレベルが1のまま忙しく手足ばかり動かすのをいったんやめて、“レベルそのもの”を上げていくことです。「出会えてよかった」と思われるリーダーと、そうでないリーダーは何が違うのか? 優れたプレーヤーだった人ほど見落としがちな、リーダーシップの原則とは何か? 豊かな「1人の時間」を活用し、確かな知性と実力をじっくり磨ける一冊です。

大野栄一著/日経BP/1980円(税込み)