優れたリーダーシップを発揮するために必要な能力は、部下と接しているそのときに養われるものではありません。もし「リーダーとして自信がないし、向いていない」「とにかく多忙で、頑張りすぎている」「手応えを感じない」という悩みを抱えているならば、見直すべきは「1人で過ごす時間」だと、新刊『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている』(日経BP)の著者、大野栄一氏は指摘します。リーダーが1人の時間にすべき「読書」について、抜粋して紹介します。
読み飛ばしたくなる部分に、未来の自分に必要なものがある
読書は、リーダーシップを育むための重要な手段です。読書は、単なる情報収集ではなく、著者の思想や感情と深く交流する「対話」です。
そして読書は、自己との対話でもあります。ページをめくる中で、自分の考えや感情を見つめ直し、新たな視点を得ることができます。
本を読むとき、リーダーの多くは「大事なところ」に線を引きます。
ですが私は、「読み飛ばしたくなる箇所」にこそ、注意を払うよう心がけています。
興味深いと感じる部分に線を引くことは、今の自分の考えを確認、強化するに過ぎません。一方、線を引かない部分には、新たな発見が潜んでいる可能性があります。自分の考えに合うかどうかの判断はいったん脇に置いて、著者との対話を深めることが重要です。
スティーブ・ジョブズ氏は、2005年のスタンフォード大学卒業式で「Connecting the dots(点と点をつなげる)」という概念を紹介しました。「人生の出来事や経験が一見無関係に思えても、後から振り返るとそれらがつながり、現在の自分をつくる」という考え方です。
彼は大学を中退した後、興味の赴くままにカリグラフィ(字を美しく見せる書法)の授業に参加しました。当時はカリグラフィが将来どのように役立つかわからなかったものの、のちにマッキントッシュコンピュータを設計する際、美しいフォントやタイポグラフィの実装に大いに役立ったと述べています。
ジョブズ氏は、「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎ合わせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです」と語っています。つまり、現在経験していることが将来どのように役立つかは予測できないため、目の前の経験や出来事を信じて取り組むことが重要であると強調しています。
たとえ現在の活動が直接的な成果を生まなくても、それらの「点」はのちに「線」となり、人生の重要な部分を形成します。
読書においても、「今」の自分に役立つかどうか、という視点を持たないことです。本を読むときは、
「今の自分には響かない。でも、何かあるのではないか」
「線を引かない部分にこそ、未来の自分に必要なものがあるのではないか」
と考えながらページをめくってください。
本当に学ぶべきことは、線を引かない部分にあります。今の自分を基準にせず、広い視野で読むことが大事です。
速読ではなく、スローリーディングを心がける
灘(なだ)校の元国語教師、橋本武先生は、独自の「スローリーディング」教育法を実践されました。この手法では、中勘助(なかかんすけ)の小説『銀の匙(さじ)』を中学3年間かけてじっくりと読み解く授業を行い、生徒たちの深い思考力と理解力を育成しました。
私もその読み方を推奨したいと思います。情報を得るために多くの本を速く読むこともひとつの方法ですが、自分の思考を深めるためには、「1冊の本を一生かけて読む」くらいの姿勢があってもよいと思います。
1行ごとに立ち止まらせてくれる本との出合いは、自己の魂を潤してくれる貴重な体験です。
本は、多くの人々の思いが結集してできています。その思いを、1行1行噛みしめながら、一生をかけて読み解くことも価値ある読書の方法です。
多くの本を読んだからといって、それが必ずしも優れた読書とは限りません。たとえ1冊でも、その1行が自分に深い影響を与えるなら、その本は自分にとって「魂を潤す1冊」です。
自分のあり方を問い、視点を変えるような、本質的な部分で大きな影響を与えてくれる本と出合い、それを一生かけて読み解く姿勢を持つことが大切です。
私たちは本を読んだとき、「ここが面白かった」「ここがつまらなかった」「ここが役に立った」「ここは役に立たなかった」と判断しがちです。しかし、面白いかどうか、良いか悪いかを超えて、作品を丸ごと受け止める姿勢が求められます。
読書の向き合い方は、部下や他者との接し方にも通じます。「仕事ができる/できない」「ここがいい/ここが悪い」といった短絡的な評価を避け、全体を理解しようと努めることで、より深い人間関係を築くことができるのです。
読書は、リーダーとしての視野を広げ、深い洞察力を養うための貴重な時間です。
未知の領域に挑戦し、スローリーディングを実践し、自己成長と他者理解を深めていきましょう。
作家であるウォレスが2005年にケニオン大学の卒業式で行った伝説的なスピーチを収録しています。
日常生活の中での意識の持ち方や思考の習慣について深く考察し、自由な選択の重要性を説いています。
●『地上最強の商人』(オグ・マンディーノ/日本経営合理化協会出版局)
アラブの貧しい少年ハフィドが、古代から伝わる10の巻物の教えを通じて、史上最強の商人へと成長する物語です。成功哲学を寓話(ぐうわ)形式で伝え、多くの読者に影響を与えています。
●『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』(ヴィクトール・E・フランクル/みすず書房)
精神科医であるフランクルが、ナチスの強制収容所での自身の体験を基に、人間の尊厳や生きる意味を探求した名著です。極限状況下での人間の心理と行動を深く洞察しています。
●『アンコモンセラピー ミルトン・エリクソンのひらいた世界』(ジェイ・ヘイリー/二瓶社)
エリクソンの独創的な治療法とその臨床事例を紹介し、心理療法の新たな可能性を示した1冊です。
●『フィールドブック 学習する組織「10の変革課題」 なぜ全社改革は失敗するのか?』(ピーター・M・センゲ他/日経BP日本経済新聞出版)
組織改革が直面する10の課題を取り上げ、成功への道筋を具体的に示しています。実践的なガイドとして、多くの企業で活用されています。
●『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」 企業変革をチームで進める最強ツール』(ピーター・M・センゲ他/日経BP日本経済新聞出版)
組織が持続的に学習し続けるための5つの能力を解説し、組織での変革を推進するためのツールを提供しています。
●『ドラッカー名著集1 経営者の条件』(ピーター・F・ドラッカー/ダイヤモンド社)
経営者としての資質や能力について、ドラッカーが体系的に論じた名著です。自己成長と組織運営の指針を提供しています。
●『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』(リチャード・H・セイラー、キャス・R・サンスティーン/日経BP)
人々の選択をさりげなく促す「ナッジ」の概念を紹介し、行動経済学の視点から政策やビジネスへの応用を解説しています。「構造デザイン力」への理解をより深めることができるでしょう。
●『バフェットからの手紙【第8版】 世界一の投資家が見たこれから伸びる会社、滅びる会社』(ローレンス・A・カニンガム/パンローリング)
投資家ウォーレン・バフェットの株主への手紙をまとめ、彼の投資哲学や企業分析の視点を解説しています。
●『THINK FUTURE 「未来」から逆算する生き方』(ハル・ハーシュフィールド/東洋経済新報社)
UCLAにおける研究から、「未来の自分とつながっている」と感じられてはじめて、人は将来に備えて準備し、健全かつ倫理的な決定を下し、長期的な目標を達成しやすくなると指摘しています。現在の自分にエネルギーを注ぐためのアドバイスを得られる1冊です。
大野栄一著/日経BP/1980円(税込み)

