優れたリーダーシップを発揮するために必要な能力は、部下と接しているそのときに養われるものではありません。もし「リーダーとして自信がないし、向いていない」「とにかく多忙で、頑張りすぎている」「手応えを感じない」という悩みを抱えているならば、見直すべきは「1人で過ごす時間」だと、新刊『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている』(日経BP)の著者、大野栄一氏は指摘します。部下への注意やダメ出しといった「言いにくいこと」を伝えるリーダーのテクニックを抜粋して紹介します。
できるリーダーが1人のときにやっている「問題の捉え直し」
心理的問題を戦略的問題として捉え直すことで、感情に左右されず、効果的な解決策を見いだすことが可能です。
負の感情(嫉妬、怒り、焦り、不安)に対処する際、これらを心理的問題として捉えるのではなく、戦略的課題として取り組むことが重要です。
・心理的問題…… 個人の内面的な感情や思考の葛藤、たとえば不安、嫉妬、怒り、焦りなど。感情に強く影響される。主観的な視点で問題を捉える。
・戦略的問題…… 目標達成のための計画や方法に関する課題。感情よりも効果的な手段や結果に焦点を当てる。
たとえば、「このことを伝えたら、Aさんを傷つけるかもしれない」とためらうのは、心理的問題として捉えている状態です。自分の発言が相手に与える影響への不安が先立ち、行動を躊躇(ちゅうちょ)しています。
しかし、「どう伝えればA さんを傷つけずに済むだろうか?」と考えると、戦略的問題へと移行します。戦略的な視点では、適切なコミュニケーション方法やタイミングを検討し、「相手の感情に配慮しつつ、自分の意見を伝える方法」を模索することになります。
・心理的問題で捉えたとき…… 「伝えるべきか、伝えないほうがいいか。伝えたほうがいいのだろうけれど、気を悪くするのではないか」
・戦略的問題で捉えたとき…… 「伝えるのが前提。検討すべきは、どう伝えるか」
本質を見失わないための戦略思考
問題を心理的な領域から戦略的な領域へシフトすることで、感情に振り回されず、建設的な解決策を模索することができます。
たとえば、「この提案をすると自分の立場が危うくなるかもしれないが、顧客のためには解決すべきだ」と悩むのは、心理的問題として処理しているからです。
しかし、「提案する」ことを前提に、次のように戦略的に思考することで、解決策が見えてきます。
「どのようにすれば、お互いが満足する形で提案できるか?」
「まず、誰を味方につけるべきか?」
「誰に相談すれば突破口が開けるか?」
問題を戦略的に捉えることで、具体的な行動計画を立てやすくなります。「言っても無駄だろう」「どうせやっても無理だ」と考えるのは心理的な問題として捉えているからです。問題を解決するには、一見無理だと思うことを「どう攻略するか」「どのようにすればできるか」と戦略的な領域で考えることが重要です。
● 心理的問題としての捉え方
「プレゼンテーションがうまくいかなかったらどうしよう。失敗したら恥ずかしいし、評価が下がるかもしれない」
● 戦略的問題としての捉え方
「プレゼンテーションを成功させるために、どのような準備をすればよいか? 効果的な資料作成やリハーサルの方法は何か?」
例②部下への提案に対する不安
● 心理的問題としての捉え方
「この提案をすると、部下との関係が悪化し、自分の評価や立場に悪影響を及ぼすかもしれない」
● 戦略的問題としての捉え方
「提案を受け入れてもらうために、どのような根拠やデータを用意すればよいか? どのように提案すれば、部下が受け入れやすくなるか? 提案を行う最適な時期や状況はいつか?」
例③チームメンバーとの意見の対立
● 心理的問題としての捉え方
「チームメンバーと意見が合わない。対立すると人間関係が悪化するのではないか」
● 戦略的問題としての捉え方
「意見の違いを建設的に解決するために、どのようなコミュニケーション方法をとればよいか? 自分の考えをどう伝えれば、相手の意見を尊重しつつ合意に至るか?」
問題を、心理的な側面から戦略的な側面にシフトすることで、具体的な行動計画を立てやすくなり、感情に振り回されずに効果的な解決策を見いだすことができます。
心の「ザワザワ」を解消する方法
そうはいっても、心理的問題にとらわれて落ち着かないこともあるでしょう。「ザワザワ」と不安や焦りを感じるとき、それは、
「やるべきことがあるのに手を付けていない状態」
であると考えられます。
「ザワザワ」を放置すると、「うまくいくだろうか?」といった心理的な不安が大きくなります。
「ザワザワ」を解消するためには、「今できることは何か?」を考え、実行に移すことが重要です。多くの場合、私たちは「これくらいでは変わらない」と行動の成果を低く見積もり、行動を先延ばしにしがちです。しかし、小さな一歩でも行動を起こすことです。
負の感情が湧き上がったときには、「何が、こんな気持ちにさせているのか?」を内観し、原因を特定します。その上で、原因を取り除くための具体的な行動計画を考えると、心理的問題を戦略的問題に置き換えることができます。
問題に直面した際には、感情的な反応にとどまらず、戦略的な視点で具体的な行動計画を立てるようにしましょう。
大野栄一著/日経BP/1980円(税込み)

