リスキリング(学び直し)が注目される今、リベラルアーツ(教養教育)としての茶道を見直してみませんか。戦国大名や近代の実業家たちがたしなんだ茶道。ビジネスやアカデミア、アートの世界を代表する先駆者たちが、日本の伝統文化である茶道を現代の新しい視点で読み解きます。今回は実業家で千葉工業大学学長の伊藤穰一氏に、茶道との関わりや今後の展開についてお聞きしました。(聞き手は、日経BP 総合研究所上席研究員 大塚葉)
※本記事は、
エンジン01文化戦略会議
が2024年1月に開催したイベント「エンジン01 in 市原」での講義「今こそ茶道!茶の湯にまつわるいろんな話」と、インタビューを基に構成しました。
伊藤さんは、ビジネスパートナーが購入した旅館に茶室がついていたのがきっかけで、裏千家の茶道を習い始めたのですね。
はい。まだ初心者なので、手探りの部分もあります。僕は海外生活が長いので、日本語の読み書きがあまり得意ではなく、日本文化や歴史について知らないことも多いので、「茶道を学んでいる」と声高に話すことにはためらいを感じています。
ただ茶道は、日本の歴史や文化を知るためのレンズとしてとても良いものだと思います。稽古を始めて2年ですが、茶杓(ちゃしゃく)を削りに京都に行ったり、茶道に関する本を読んだり、いろいろな流派のお茶会に出たりして、今、かなりハマっています。妻が懐石料理を習っていることもあり、茶道は家族でも楽しめるので長く続きそうです。
茶道具をNFTに結びつけた実験
伊藤さんは、ネットで「Henkaku Discord Community(以下Henkaku)」というコミュニティーを主宰しています。茶道の世界にも、変革を起こすことを考えていますか。新しいプロジェクトがあれば教えてください。
変革といっても、変えていい部分と残すべき部分があると思います。茶道がもともと持っている思想や本質をきちんと理解してルールを分かったうえで、新しいことに挑戦したい。今はそれを探究している段階です。
Henkakuで行ったのは「茶道具をNFT(非代替性トークン)に結びつけ、コミュニティー内を循環させる実験」です。
コミュニティーでは、金銭的な価値がないソーシャルトークン(コミュニティー内だけで使われる暗号資産)を発行しています。1時間当たり100トークンという目安を作り、イベントの開催や手伝いなど様々な貢献をしてトークンをためることができるようになっています。
今、コミュニティーには1200人ほど参加していますが、中にはお茶好きな人がけっこういます。そこで、使用していない茶道具や本があればコミュニティーに寄付してもらい、それを利用したい人はためたトークンを使ってオークションで競り落とし、一定期間利用できるようにしています。
このシステムのポイントは、所有権ではなくて使用権にしているところです。しかも、その使用権は1年で切れる仕組みにしているので、必ず期間内に次の人に回さないといけません。
オークションでやり取りされたトークンの一部はコミュニティーに還元されます。個人はコミュニティーに道具を寄付し、オークションでトークンの流通量をコントロールすることで道具とトークンをぐるぐる回し、両方の価値を高めていくことができるのです。
面白いですね。リアルの世界でも道具屋さんが茶道具を扱っていて、お客さんに売ったり買い戻したりしています。大名家の伝来物など、茶道具は何人もの持ち主の手を経てきています。
こうした話を、リアルの道具屋さんともしています。茶道具は道具屋さんが所有しているというよりはお客さんの持ち物で、お客さんが手放すと茶道具やさんがそれを引き取り、別の買い手がつく、という流れができていますよね。道具屋さんはいわば、バーチャルな美術館のようなものです。この道具の流通は、僕がNFTでやろうとしていることと、実はよく似ています。
千葉工業大学にも茶室を造る
学長をなさっている千葉工業大学に、茶室を造る計画もありますね。
千葉工大にも、お茶好きな先生が何人かいます。茶道部もあるのですが、彼ら同士があまりつながっていないのです。そこで、部活という枠に収まらずに大学全体で茶道を重要な軸にしていきたいと考えています。
まずは僕のいる学長室に、立礼(りゅうれい)用のテーブルを入れる予定です。2025年の年始には初釜(はつがま:年初の茶事のこと)もやろうと思っています。茶室をたくさん造っている建築家の三井嶺さんに相談しながら、計画を進めています。
先ほどの変革の話でもそうですが、茶道の基本の部分はきちんと押さえたうえで、新しいことを試みようと考えています。例えば、濃茶席は畳の茶室できちんと定石通りに行って、薄茶席はちょっと遊んでみるとか。学生の作った道具や現代アートなどを使ってもいいかもしれません。
普通、お茶の稽古では、先にお客としての作法を何年かかけて学んでから亭主をやるのだと思います。僕の場合は先に「2025年の初釜」という目標を立てて、そこから逆算して茶室を造ったり道具を用意したりしているのでいろいろ大変ですが、楽しいです。プレッシャーが集中力につながっています。
学内も含め、今後は茶道をどのように広げていきたいですか。メッセージなどがあれば教えてください。
お茶にはいろいろな要素が含まれていて、本当に多様で深い文化を持つ分野です。だから、人によっていろいろな関わり方があっていいと思います。例えばお点前(てまえ)をして資格(許状)をもらうというだけでなく、茶道に関わる歴史や道具について知ることでもっと深い付き合いができるし、人生の様々なところで役に立つと感じています。
伊藤穰一氏がお薦めする「茶道の心得を理解する本」
取材・文/大塚葉(日経BP 総合研究所) 写真/稲垣純也




