異動や昇進が多いこの季節、新しいチームやメンバーとの出会いが増えていませんか? 新しい環境で働くことは、新しい業務以上に慣れるのが大変です。身を置く状況に変化がある中でもメンバー、そして自分自身の最高の仕事を引き出すためにはマネジメントが必須です。Googleと世界的な決済スタートアップStripeを急成長させ、チームづくりを担った著者が、その具体的なノウハウをまとめた『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳、日経BP)から、「メンバーと自分に寄り添う」マネジメント術を紹介します。1回目は、「言いにくいことを伝える方法」について。

本音を言えないのではなく、言「わ」ないマネジャー

 Stripeの各チームとの四半期ビジネスレビュー(QBR)をするようになってから、ある重要な製品分野のレビューに同席したことがある。レビューが途中まで進んだところで、参加者の話題の中に、ある重大な阻害要因が遠回しに含まれていることに気づいた。チームの業務が、似たような業務に携わる別のチームに左右されていたのだ。

 わたしはQBRを止めて言った。「どうも、大きな問題について話し合っていないように思います。もうひとつのチームとの関係に、問題があるのですか、ないのですか」それからミーティングの残りの時間を使って、表面化している問題について話し合い、両チームが問題に対応するためのプランを作成した。会議室からの帰り道に、出席していたエンジニアに声をかけられた。「いや、あれはすっきりしました」

 ミーティングの場で、「問題の本質は、目下の話題とは別にあるのではないか」と思ったことはどのくらいあるだろうか。部下と話していて、相手が気を悪くしたのではと心配になった経験や、奥歯に物が挟まったような言い方をしてしまった経験はないだろうか。これらの問いは、さらに大きな問いを呼び起こす。なぜ、マネジャーは本音を言わないのだろうか。

率直に伝えたい気持ちを邪魔する3要素

 一般的には、優れたマネジメントには多くのフィルターを持つことが重要だと考えられている。これにはもっともな理由がある。ある考えについて、そのまま口に出すとリスクがあるのでは、あるいは個人的な好き嫌いにすぎないのでは、と感じられることは少なくない。しかし、フィルターのかけすぎには注意が必要だ。フィルターを微調整し、勇気を出して自分の観察した内容を建設的に伝えれば、現状について、もっと率直で嘘いつわりのない話し合いができるようになる。そうすれば、全員が一丸となって問題解決に取り組むことができる。

 フレッド・コフマンは、著書『コンシャス・ビジネス』(駒草出版、2014年)で、自分の考えを率直に伝えるのが難しい理由について、あらゆる会話には次の3つの要素があるためだと説明している(*)。

・“it”:議論の対象となっている業務
・“we”:議論をしている当事者の人間関係
・“I”:議論における自分のスタンス

 3つの要素のそれぞれによって、会話に言外の意味合いが加わる。

 “it”は目下の問題だ。たとえば、配送の遅れを受けて生産スケジュールを変更する方法を考えるとする。現状に至るまでに各チームがとってきた手段について、チーム内で意見の不一致があるかもしれない。遅れを引き起こした責任者に対して、思うところがある人もいるだろう。“we”とは、会議室にいる他の出席者との、言葉に表れないあらゆる人間関係を示す。互いを尊敬しているか、好意的に思っているか、信頼しているかといった点がこれにあたる。“I”では、自分自身に抱いている疑念や批判を俎上(そじょう)に乗せる。こんなことを考えるなんて自分はバカじゃないんだろうか、面と向かって言ったら皆にどう思われるだろうか、配送の遅れへの対応を自分がわかっていないだけではないか、といった点だ。

 この枠組みは、阻害要因を理解して克服し、考えをしっかり話すために大いに役立つ。ここで、言いにくいことを伝えるために個人的に役立った3つのコツを追加しよう。

クレア流 言いにくいことを伝えるための3つのコツ

①気持ちを伝える
 感情は誰にでも備わっているので、強力なマネジメントツールとして活用できる。心配しているときや負担がかかっているときの気持ちは、誰もが知っている。チームに気持ちを伝えれば、メンバーは状況を踏まえてメッセージの重要性を理解できるようになる。「チームは目標に達しませんでした」だけでは、状況の深刻さは何も伝えられていない。「チームは目標に達しませんでした。このことがチームとビジネスにもたらす影響を懸念しています」と伝えれば、修正すべき問題があるとチームはすぐに理解するだろう。

②注意深く伝える
 仮に「チームは目標に達しませんでした。わたしは怒りに震えています」と伝えたとしたら、メンバーがどう思うか想像してみてほしい。チームがパニックに陥り、状況を前に進めることが難しくなりかねない。第1章の前半で紹介したイーライは部署の現状と自分の気持ちについて正直に伝えたが(「状況はめちゃくちゃで、大変なストレスを感じています」)、その現状認識や気持ちを注意深く伝えなかったので、チームが不安定になってしまった。

③“人”と“アイデアやタスク”を区別する
 人と行動の区別をつけよう。議論においては“it”に集中すべきだが、“we”あるいは“I”に関する判断のように思えてしまうことがままある。わたしが以前にお世話になっていたコーチの見立てによれば、批判や厳しい意見を聞くと、相手と自分が対立しているように思える場合があるという。ふたりの人物が対決している様子を思い浮かべてみてほしい。しかし実際には、相手と並んで同じ問題を検討し、一緒に観察すれば、きわめて強力な効果が生まれる。
 「さっきのプレゼンテーションはひどかったね」と「さっきのプレゼンについてどう思いましたか? 正直、がっかりした部分もあるので、〇〇さんの意見を聞かせてください」の違いを考えてみよう。前者のような言い方だと、相手は自分の果たした役割を弁解しようと身構えてしまうだろう。あるいは、芸術作品について議論しているところを想像してほしい。「この作品は嫌い」と言ったところで、たいした情報は伝わらない。なぜそう思ったのかを説明したほうが効果的だ。
 したがって、「チームはひどい成績です」の代わりに、次のように言ってみたらどうだろう。「思うに、チームのコミュニケーションが現在うまくいっていなくて、その結果締め切りを守れなくなっているのではないでしょうか。〇〇さんもそう思いますか、それとも別の原因がありそうですか」

(写真:kapinon/stock.adobe.com)
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 多くのマネジャーが本音を口に出さない理由は理解できる。マネジメントは、体操競技におけるバランス感覚のように思えることがある。自分だけではなくチームや会社の失敗にもつながる、ハイリスク・ハイリターンな競技だ。一歩右に動けば、べらべらしゃべりすぎ。一歩左に動けば、近寄りがたい存在。でも、本音に最も近いことを建設的に言い表せる技を身につければ、バランスを保てるようになる。ハイリスクだと思えるのも当然だし、実際にその通りだが、この能力を磨けば、“信頼を築く”という着地もバッチリ決まる。

 信頼を築く見返りは計り知れない。チーム全体が強くなる。本音を語り合えるチームは、そうでないチームに比べて、問題の提示と解決がずっと早くなる。また、メンバーの幸福度もアップする。仕事や職場環境に関する考えや感想を我慢しなくなるからだ。さらに重要なのは、オープンかつ率直でありながら建設的な姿勢を崩さないようにすれば、1 on 1 の信頼が得られることだ。これは、直属の部下と効果的な関係を築くにあたってきわめて重要だ。

(*)Fred Kofman, Conscious Business: How to Build Value Through Values(Louisville: Sounds True, 2014), 10-12, 136-138.(『コンシャス・ビジネス:価値ある企業に生まれ変わるための意識革命とは何か』駒草出版、2014年)
会社の成長や変化の速度に合わせて、チームやメンバー、そして自分もレベルアップするにはどうしたらいいのでしょうか? 成長期のGoogleや世界的な決済スタートアップStripeの創業期に人材・チームづくりで活躍したカリスマが自身の実体験をひもときながら、具体的なノウハウを紹介します。各章にはすぐに実践できる演習・テンプレートが付いています。

クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳/日経BP/2750円(税込み)