異動や昇進が多いこの季節、新しいチームやメンバーとの出会いが増えていませんか? 新しい環境で働くことは、新しい業務以上に慣れるのが大変です。身を置く状況に変化がある中でもメンバー、そして自分自身の最高の仕事を引き出すためにはマネジメントが必須です。Googleと世界的な決済スタートアップStripeを急成長させ、チームづくりを担った著者がその具体的なノウハウをまとめた『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳、日経BP)から、「メンバーと自分に寄り添う」マネジメント術を紹介します。2回目は、「人に仕事を任せる方法」について。

仕事を任せないのも、任せすぎなのもダメ

 任せるスキルの習得も一筋縄ではいかないが、学んでみる価値はある。自分の仕事をこなし、チームメンバーの成長を後押しし、チームの力を強化する手がかりになるスキルだ。

 任せるには2通りの形がある。ひとつは一般的な仕事の依頼。ある仕事をメンバーに割り当てる。その人はその仕事がどんな機能を担うのかを理解する。日々責任を引き受ける範囲、ゴール、測定と評価の方法を理解してくれているかどうかなどは、1 on 1のミーティングで必ず網羅しておくべき内容になる。そしてもうひとつが、日常の業務には該当しないが、リーダーかチームの誰かがやらねばならない単発の仕事の依頼だ。

 人に任せないマネジャーは、質の高い仕事の手本は示せても、必ずしもチームの質の高い仕事を引き出せるとはいえない。このタイプのマネジャーは、重要な仕事を人に託す習慣がないがゆえに、持続するチームを構築できない。

 他方、人に任せすぎてしまうマネジャーは、身近に接した目配りができていないため、サポートなしではこなせないような仕事をチームに投げ、結果として重大な失敗に陥ってしまうリスクがある。

 仕事を上手に任せれば、マネジャーもチームも仕事をやり遂げる力がつき、能力を伸ばし、上司とチームの間に信頼関係を築き、メンバーが互いに信頼し合うよりどころとなって、良い人材の維持にもつながる。任せなさすぎ、あるいは任せすぎのサインに気づく方法を知っておけば、つまずいたときの軌道修正がしやすくなる。

マイクロマネジャー・丸投げマネジャーになっているサイン

 任せられないマネジャーは、マイクロマネジャーと呼ばれるタイプである場合が多い。チームのすることにことごとく干渉し、どんな仕事も自分を通せと言ったり、チーム外の人に見せる前に確認させるよう求めたりする。

リーダーが“任せなさすぎる”と、次のような状況が表れる。
・社員が問題を伝えにくるが、解決策の提案をほとんどしない
・リーダー抜きで決まる事項がなく、リーダーが進行を遅らせたり止めたりするボトルネックになっている
・病気や休暇、その他の理由であなたがしばらくチームから離れていると、物事がうまく進まなくなる
・仕事量が多いせいであなた自身が余裕をなくし、その日その日の必要に迫られた仕事をこなすばかりで、戦略を練る仕事に時間をかけられない

(写真:Suuuu/stock.adobe.com)
(写真:Suuuu/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 これに対し、任せすぎるマネジャーはというと、社員に「自分は裁量を与えられている、信頼されている」と思わせるのはうまいものの、業務との距離がありすぎて、チームの誰かが仕事に行き詰まっていても気づかない。まだ引き受けられる段階にない社員に仕事を課す場合や、仕事の質を度外視して部下に丸投げする場合もある。わたしが見てきた中では、人を中心に考え、社員を信頼しようと心を砕くタイプのマネジャーが任せすぎに陥るリスクがありそうだ。

 “任せすぎる”リーダーには次のような傾向がある。
 ・チームが生み出す仕事の質が常に低い
 ・プロジェクトの進捗が順調でないことに気づくのが遅すぎる
 ・「仕事が手いっぱいで余裕がない」という声を部下からたびたび聞く
 ・チームが最近終えた重要な仕事、現在進行中の仕事、次に優先して進めるべき仕事を聞かれてすぐに答えられない
 ・チームの仕事やチームが直面している課題について、上司や同僚と突っ込んだ話ができない。ただしあなたが上級幹部クラスで、下についているリーダーがこうした対話をする役割を担っている場合はこの限りではない

 部下に仕事を任せると、最初のうちは非効率だが、いずれ効率は大きく向上する。リーダーにとっては、事前の仕事は増えるが、きちんと取り組めば質の高い仕事を大きなスケールで成し遂げてもらえるようになる。タスク中心に考える人からすると、このプロセスにはかなりフラストレーションを感じるかもしれない。長い目で見れば成果が返ってくること、より幅広い力を備えたチームに育つことを折に触れ自分に言い聞かせておきたい。

本当に任せるかを見極めるための判断軸

 わたしが仕事を任せるかどうかを決める際に使っているのが、ジェフ・ベゾスの“タイプ1の意思決定とタイプ2の意思決定”に近いフレームワークだ(下図)(*)(訳注:ベゾスはone-way door、two-way door と呼んでおり、『アマゾンの最強の働き方』<ダイヤモンド社、2022年>では“一方通行のドア”“往復可能なドア”と訳されている)。これには2本の軸がある。

 ・影響が大きいか小さいか:誰または何がその仕事の影響を受けるのか。どのチームに影響が及ぶか。ユーザーへの影響はあるか。ある場合はどの程度の規模のユーザーか。ビジネスへの影響はどのくらい時間をおいて表れるか。会社の重要な目標や指標に変化を及ぼすか

 ・結果は“跳ね上げ戸”式か修正可能か:その仕事の結果は“跳ね上げ戸”式、つまり簡単には取り消せない、やり直せない種類なのか、あるいは後から手を加える、やり直す、変更することが可能か

出典:クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(日経BP)
出典:クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(日経BP)
画像のクリックで拡大表示

 フレームワークに当てはまる実際の例を見てみよう。
 ・影響大、跳ね上げ戸式の結果(右上):規模の大きな契約を結ぶ。たとえば数百万ドル単位の額が動く10年間のオフィスリース契約、単独プロバイダーとの複数年にわたる独占パートナー契約
 ・影響大、修正可能な結果(右下):主要製品のリリースに際して、誰でも見られるウェブサイトに載せるコピーの作成。後から修正できるが、人目には触れる
 ・影響小、修正可能な結果(左下):社内向けの製品説明用コンテンツの作成や、チームのオフサイト用アジェンダの作成
 ・影響小、跳ね上げ戸式の結果(左上):新製品のメッセージ機能のテスト目的で50人の見込みユーザーにメールを送る

 手持ちの仕事がの右上(影響大、跳ね上げ戸式の結果)以外に当てはまり、あなたがチームをマネジメントする立場にあるのなら、その仕事はほぼ確実に人に任せたほうがいい。

あえて任せる、あえて任せない場面がある

 ただしいくつか例外はある。たとえば影響が大きくやり直しの効かない意思決定でも、成長する機会にしてもらうために任せるべきケースがある。この場合、任せる相手は信頼がおけてパフォーマンスの高い人物とし、情報や進捗をまめに知らせてもらい、何かの決定や重要な区切りにあたっては密に共有してほしい旨をあらかじめ明確に伝えておく必要がある。

 反対に、影響が小さく後から修正可能な業務でも自ら手がけたほうがいい場合もある。考えられる理由は以下の3つだ。

 ・手本を示す
 “良い見本”を示したい場合がこれにあたる。手本を示すことは能力開発の方法として実用的だが、見せたお手本を部下が実践する機会もあわせて設ける必要がある。研修医の育成に“見せて、やらせて、教える”というアプローチがあるが、これが該当する。まず部下にその仕事の手本を見せ、次は部下に委ねて自分でやらせる。その後で部下が別の誰かに同じ仕事を任せ、それを見守るという流れだ。

 ・急ぎの仕事
 早急にやらなければいけない仕事が出てきて、誰かに託したり育成のために任せたりが十分にできないこともある。その場合は経験に学び、同じ事態に陥らないように心がけよう。

 ・リソース不足
 時にはチームが人手不足で仕事を任せる相手がおらず、とにかく自分が腕まくりして片づけざるを得ないこともある。この場合、あなた自身が事業拡大に対応できるように成長できていないか、またはチームを育てられていないのだと心してほしい。

(*)Jeff Bezos, “Amazon.com 1997 Letter to Shareholders,” US Securities and Exchange Commission,https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000119312516530910/d168744dex991.htm
会社の成長や変化の速度に合わせて、チームやメンバー、そして自分もレベルアップするにはどうしたらいいのでしょうか? 成長期のGoogleや世界的な決済スタートアップStripeの創業期に人材・チームづくりで活躍したカリスマが自身の実体験をひもときながら、具体的なノウハウを紹介します。各章にはすぐに実践できる演習・テンプレートが付いています。

クレア・ヒューズ・ジョンソン著、二木夢子訳/日経BP/2750円(税込み)