「スター」ばかりを集めても、組織の成果が上がらないのには理由があった。生産性を高めるために必要な、スターの割合が決まっているからだ。その割合を超えると一転して、周囲に悪影響を及ぼす。なぜこうしたことが起こり、どうすれば生産性が高くなるのか。『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』(デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日経ビジネス人文庫)から抜粋・再構成してお届けする。
一流選手ばかりのチームがなぜ負けるのか?
スポーツの歴史には、大番狂わせの例が山ほどある。最も有名なのはアイスホッケーの「氷上の奇跡」だろう。1980年の冬季五輪で、アメリカの大学生から成るチームが、選り抜きの選手ぞろいのソ連チームに勝利した一件だ。最近では2004年のオリンピックのバスケットボールで、アルゼンチンが優勝候補筆頭のアメリカを下して金メダルを獲得した例がある。挑戦者のほうはメンバーの顔触れでは見劣りしていたものの、能力の総和で相手を上回った。
スポーツの才能は、本書で見てきた知能とはかなり異なる。しかしこのような予想外の成功には、サッカーコート以外でも通用する教訓が含まれているかもしれない。多くの組織が知能が高く、経歴も抜群の人材を集めるのは、そういう人材が集まれば自然と全員の能力を結集して魔法のような成果を出すのではないかと考えるからだ。
しかしどういうわけか、そういう集団は才能を発揮しきれず、創造力に乏しく、効率が低く、ときとして過度にリスクの高い判断を下したりする。
高い知能や専門知識が、ときとして個人にとってマイナスに作用する。それとまったく同じことがチームにとっても言える。個人が高い成果を発揮するのに役立つ資質が、集団全体に害を及ぼすこともある。チームに「才能が集まりすぎる」ということが、本当にあり得るのだ。
これは1つではなく、たくさんの脳が一緒に陥るインテリジェンス・トラップ(知性の罠)だ。
最高幹部だけのチームは64%が結論を出せず
直感的に、特別優秀あるいは特別能力のある人同士は、それぞれの地位がもたらす自信過剰や偏狭さが災いして、仲良くやっていくのは難しいのではないかという気はする。それによって集団としてのパフォーマンスも阻害されるのではないか。そうした直感は、果たして正しいのだろうか。
コーネル大学のアンガス・ヒルドレスが、こうした疑問への答えを示している。ヒルドレスが研究を始めたきっかけは、グローバルなコンサルティング企業で勤務し、経営幹部の会合をたびたび観察した経験だった。
「個人としては非常に優秀で、仕事ができるからこそ幹部ポストに上り詰めることのできた人たちばかりだ。しかし集団としての彼らは驚くほど何もできず、苦労していた。とびきり優秀な人々が一堂に会せば、当然すばらしい成果が出るのだろう、と思い込んでいた。しかし実際には何も決断できず、スケジュールには常に遅れが出ていた」
組織行動学で博士号を取得するため、カリフォルニア大学バークレー校に戻ったヒルドレスは、この現象をさらに研究することにした。
2016年に論文として発表した実験では、あるグローバルな医療企業の経営幹部を集め、グループに分かれて、ダミーの候補者のなかから最高財務責任者(CFO)として誰を選ぶか話し合ってもらった。ただグループによって権力のバランスに変化を加えた。
一部のグループには大勢の部下を抱える最高幹部ばかりを集めた。一方、残りのグループには彼らの部下のレベルの人間だけを集めた。実験結果に既存のライバル関係が影響しないように、各グループのメンバーはそれまで一緒に仕事をしたことのない者同士にした。「そうしないと過去のポジション争いでどちらが勝利したか、といったことが影響するためだ」。
すばらしい経歴や経験を持ち合わせていたにもかかわらず、最高幹部だけを集めたグループは合意に達しないことが多かった。最高幹部だけのチームは64%が結論を出せずに終わったのに対し、もっと地位の低い幹部だけのチームではその割合は15%に過ぎなかった。グループの実務能力に実に4倍の差があったのだ。
1つの問題は「地位争い」だった。最高幹部たちは目の前の作業に集中せず、グループで誰が決定権を握るか、誰が勝者になるかばかりを考えていた。また情報を共有せず、互いの意見を融合しようとしなかったので、妥協点を見いだすのがはるかに難しかった。
出世するような人というのは、もともと自信過剰なのだろう、と思うかもしれない。ふだんから利己的な人ばかりを集めたから、このような結果になったのではないか、と。
しかし学生を被験者としたさらなる別の実験によって、驚くほどわずかな働きかけで、誰もがこの幹部たちのように利己的にふるまうようになることが示された。
生産性の高さに影響があるのは……
学生たちに最初に与えられたのは、シンプルな作業だった。2人組になり、ブロックで塔をつくるのだ。それぞれのペアのうち、1人をリーダーに、もう1人をフォロワーに指名し、その根拠は事前の質問票である、と説明した。
塔をつくるのに成功するか否かは重要ではなかった。ヒルドレスの目的は、被験者の一部に権力意識を持たせることだった。
次の作業では学生たちを3人組に再編した。最初の作業でリーダーに指名された者ばかりの組と、フォロワーに指名された者ばかりの組だ。そして新しい組織を立ち上げ、ビジネスプランを考えるという創造力を問うテストを与えた。
最初の作業でささやかな権力意識を与えられた元リーダーたちは、あまり互いに協力しようとせず、情報を共有したり、解決策について合意したりすることができず、グループとしてのパフォーマンスは低迷した。要するにウーリーがグループの集団的知能にとってマイナスであることを明らかにした、足の引っ張り合いをしていたのだ。
グループの話し合いを見ていると、権力闘争が起きていることははっきりとわかった、とヒルドレスは話す。
「やりとりは非常に冷淡だった。当然ながら、グループの少なくとも1人が離脱した。人間関係があまりにも不愉快だったからだ。あるいは自分の意見がまったく聞いてもらえないので、話し合いに加わるのを嫌がった。『決めるのは自分だ、自分の判断が一番良い』と誰もが思っていた」
ヒルドレスは医療企業1社の人間関係を調べただけだが、それが多くの組織で見られる現象であることを、さまざまな研究が示している。たとえばオランダの通信会社と金融機関の分析では、企業のすべての階層のチームの行動を調べた。その結果、ヒエラルキーの上層部ほど、人々は激しい対立を感じていた。
重要なこととして、そこには社員が序列における自らの位置を認識しているか否かが影響しているようだった。
メンバーのあいだでそれぞれの相対的地位について共通認識があれば、チーム内で権力争いは起きず、生産性は高かった。最も結果が悪かったのは、地位の高い個人だけで構成されるグループで、互いの上下関係が明らかではないときだった。
このような権力闘争の衝撃的な例で、チーム内に才能がありすぎるとかえって生産性が下がることの明白な証拠と言えるのが、ウォール街の金融機関のなかで「スター」と呼ばれる株式アナリストを対象とした調査だ。
チームをダメにする、「スター」の割合
インスティテューショナル・インベスター誌は毎年、各セクターのトップアナリストのランキングを発表する。選ばれたアナリストは業界でロックスターのような地位を与えられ、年俸は何百万ドルも増える。メディアにも評論家として頻繁に登場するようになる。
言うまでもなく、こうしたスターアナリストの多くは同じ名門企業に所属することが多いが、それは必ずしも会社が期待するほどのリターンをもたらさない。
ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグは、5年間にわたって金融業界のデータを調べた。その結果、たしかにスタープレーヤーが多いチームのパフォーマンスは優れているが、それには限界点があり、そこを過ぎるとスタープレーヤーを増員してもプラス効果は減少することを明らかにした。
リサーチ部門の人員の45%以上をインスティテューショナル・インベスター誌のランキング入りしたアナリストが占めるようになると、部門の効率は低下する。
特にスター同士の専門分野が重なると、直接的な競争関係が生まれ、グループが弱体化するようだった。セクターが違えば、直接的競争は起きないので、そうした問題は起こらなかった。
その場合、会社はさらにスタープレーヤーを採用できるが、それも全体の70%程度までで、それを超えるとエゴのぶつかりあいによってチームのパフォーマンスは一気に低下した。
「会議中は脳が死んだ気になる」はあながち嘘ではない
ヒルドレスの理論は、権力のある人々の集団的相互作用に基づいていた。ただ地位争いはコミュニケーションと協力を妨げるのに加えて、個々のメンバーの脳の情報処理能力も阻害する。少なくとも会議のあいだはお互いとのやりとりの結果、個々のメンバーはわずかにバカになるのだ。
バージニア工科大学で行われた調査では、被験者を少人数のグループに分け、それぞれに抽象的問題を解かせた。そして各自の進捗状況を他のメンバーと比較するかたちで、それぞれのコンピュータ画面に表示した。
このフィードバックによって、被験者のなかには何もできなくなって事前テストよりスコアを落とす者もいた。IQのレベルはみなおおよそ同じだったにもかかわらず、競争にことのほか敏感な被験者がいたために、最終的にスコアは二極化した。
脳の活動の低下はテスト中に撮影されたfMRIスキャンからも明らかだった。扁桃体(脳の奥にあり、感情的処理と関連があるとされるアーモンド形の神経細胞の集まり)の動きは活発になる一方、問題解決にかかわる額の奥にある前頭前皮質の活動は低下したのだ。
研究チームは、認知能力は社会環境と切り離せないものである、と結論づけた。知力をどれだけ発揮できるかは、常に周囲の人々をどう認識するかによって影響を受ける。
こうした結果を踏まえると、集団に優秀だが傲慢なメンバーがいると、集団的知能と、繊細なメンバーの個人的知能の両方が悪影響を受けることがよくわかる。このダブルパンチによって、集団の生産性が全体的に低下するのだ。
研究チームに参加したリード・モンタギューはこう語る。「会議中は脳が死んだような気分になるとジョークを言う人がいるが、実際にそれに近いことが起きることを私たちの研究は示している」
デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日本経済新聞出版/1100円(税込み)

