コロナショック、トランプ関税ショック、令和のブラックマンデー…、ショックで暴落しても、なぜ「株は上がるもの」だと言い切れるのか、マネックス証券 チーフ・ストラテジスト広木隆さんの『 株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実 』(日経BP)から抜粋、その理由を解説します。

株価が上がる理由① インフレ

 なぜ「株は上がる」のか。いくつも理由はありますが、かいつまんでその根本的な理由を述べます。
 まずインフレです。インフレというと物価が上がることと思われるでしょうが、上がるのは「物価=モノの値段」だけではありません。インフレは「おかねの価値(購買力)が下がること」とも解釈できるので、「おかね以外のもの」の値段も上がるのです。おかね以外のもの―例えば、お米やマンションの価格や金など。そして「おかね以外のもの」ですから株もその中に含まれるのです。
 歴史を振り返ると、一時的にデフレになった局面(日本の1990年代以降、世界恐慌後の1930年代など)はありますが、人類史全体を見ればインフレ局面のほうが圧倒的に長いです。その根本的な理由を整理すると以下のようなものが指摘できます。

・貨幣制度の性質(信用創造と通貨供給の拡大)
 現代の経済は「信用貨幣」に基づいており、銀行の貸出によって通貨が増えていきます。
 経済成長に併せて中央銀行も通貨供給を拡大し続けるため、長期的には貨幣価値は下落しインフレ基調的な状況が生まれます。金本位制時代ですら、金の供給量が増えれば物価は上がる傾向にありました。

・政府財政と債務インセンティブ
 政府は歳出(公共投資、社会保障、戦費など)をまかなうために借金をします。デフレは債務の実質負担を重くするため、政府はむしろ「緩やかなインフレ」を望みます。インフレは借金の実質価値を薄めるため、財政運営上も都合がよいのです。

・政治・社会的要因
 デフレは失業や倒産を誘発しやすく、社会不安を拡大します。インフレは一定水準までは「成長している感覚」を与えるため、政治的にも容認されやすいという面もあります。そのため、各国の政策運営は「デフレ回避」=インフレ志向になりやすいのです。

・長期的な人口・需要の増加
 歴史的に人口増加は常態であり、それが需要拡大を支え、インフレ圧力になります。現代では少子化に悩む国もありますが、グローバルで見ると新興国の人口増・所得増が世界的インフレ圧力を生んでいます。

 以上をまとめると、貨幣制度(信用創造・通貨供給拡大)、政府債務のインセンティブ(インフレ志向)、賃金・価格の下方硬直性、デフレの社会的不安定性、人口・需要の増加などの点が指摘できます。これらの構造的要因が組み合わさり、歴史的に「デフレは例外」「インフレは常態」となってきたわけです。

 それら教科書的な説明を踏まえて、ここでもうひとつの理由を指摘しましょう。それは国家というもの、少し対象を狭くすれば政府、さらには為政者というものに対する不信です。政治は必ず腐敗します。そのことは歴史の教科書をひもとくまでもないでしょう。そうであるならば為政者が作り出し、管理する「おカネ」なんて信用できない―そのように民は思うでしょう。

世の中はインフレが常態になっている(写真:Benjamin/stock.adobe.com)
世の中はインフレが常態になっている(写真:Benjamin/stock.adobe.com)

 こうした民衆の不信がインフレの根底にあるのだと僕は考えます。
 現代社会を生きる私たち自身が自問してみればわかります。この国の政治家の為政を信用できますか? それが基盤となっている通貨に全幅の信頼をおけますか? 同じことをアメリカや中国の人々に尋ねたら、どのような答えが返ってくるでしょうか? その答えが、無国籍通貨である金の価格高騰であり、同じく無国籍通貨でデジタル・ゴールドと呼ばれるビットコインの価格上昇なのだと思います。

 〇と□のユニークなメガネがトレードマークの成田悠輔先生が、斬新な切り口でインフレの理由を挙げています。現代がデジタル化したことによるものだというのです。
 お金にはいくつかの役割(機能)があって、その利便性がお金の価値を担保しているとも言えます。お金の機能のひとつに決済の手段として使われ取引の記録を残すというものがあります。しかし現代ではデジタル決済が進み、記録はすべてデータ化されています。
 お金を使う機会は減っているというのは読者のみなさんにも実感できるでしょう。デジタル社会ではお金が使われなくなる―お金の価値が下がる、つまりはインフレになるということです。

 その成田先生は『万物の利益率 1870~2015』という学術論文を紹介して、どこの国でもどんな資産でも長期では値上がりしているという事実を指摘します。「デフレの国・日本でさえ、過去百年では物価も地価も株価も明瞭に上がっている」と述べているのです。
 とにかく世の中はインフレであることが常態であり、「お金以外のものの値段が上がる」というインフレの本質から半ば自動的に株は上がるのです。

名目値としての株価

 もう少しインフレと株価の話をしましょう。
 株価というのは何を表しているのでしょう。「企業価値」を表すとよく言われますが、では具体的に企業価値とは何でしょう? 一概に言うことは難しいですよね。人的資本やブランド、またはキャラクターなどの知的財産(IP:Intellectual Property)などの数値で測れない無形資産も企業価値の一部を成す重要な要素です。
 しかし、わかりやすいのは、やはり数値になる財務指標です。バランスシート上の資産や純資産、損益計算書の売上高や利益などは、企業価値を測る重要な要素であることに異を唱えるひとはいないでしょう。

 それらの資産や売上高もインフレによって膨らみます。名目値である株価が上がるというのは、実は株価が表す企業価値の根源にある企業が有する資産価格や企業が稼ぎ出す売上高、利益がインフレによって水増しされるからだと考えると納得がいくのではないでしょうか。単に水増しされるというより、インフレが常態化した経済では企業の値上げも通りやすくなり、その結果、売上高が増えるということもあります。

 原材料価格や人件費などコストもインフレで増加するので最終的には利益がどうなるかが重要ですが、社会に必要とされる商売を行う企業は、コストに利幅を上乗せして売ることが可能であり、結果として利益も増えやすいと言えます。

コロナショック、トランプ関税ショック、令和のブラックマンデー、波乱の中東情勢…。暴落しても、それでも「株は上がるもの」だと言い切れるのか。マネックス証券の広木隆さんが、そのロジックを3つの視点から解説。資本主義を生きる鍵となる株式投資を平易に教えます。

広木隆著/日経BP/1980円(税込み)