2007年から2021年にかけては、バリュー投資は成功した投資戦略とはいえなかった。事実、投資戦略のパフォーマンス分析用の約1世紀にわたる株式データにおいて、ほぼすべての指標でバリュー投資はグロース投資に大差で後れを取っている。何が起こったのか? バリュー投資は、一部の人が主張するように死んだのだろうか? 『株式投資 第6版』第12章から抜粋してお届けする。

バリュー投資

 バリュー投資とは、配当、利益、資産、キャッシュフローといった企業のファンダメンタルズに比べて株価が低い銘柄を購入する戦略で、何十年もの間、ほぼすべての成功した長期投資家の特徴だった。定評あるバリュー投資の創始者は、英国生まれのニューヨーカー、ベンジャミン・グレアムで、コロンビア大学のデビッド・L・ドッド教授とともにバリュー投資の原則を示した名著『証券分析』を1934年に出版した。グレアムは、きっちりした財務分析によって企業の本質的価値を決定する手法を開発した。彼は、投資家が株式の市場価格とその本質的価値の差を利用することで、市場に勝つことができると信じた。

 グレアムは、その原則に従うことで投資家として大成功を収め、多くの支持者を獲得し、定期的に市場を上回るリターンを生み出した。グレアムはその戦略を1949年に『賢明なる投資家』という本にまとめた。同書は何百万部も売れ、何十カ国もの言語に翻訳された。

 ベンジャミン・グレアムの弟子として最も有名なのはウォーレン・バフェットである。バフェットはコロンビア大学ビジネススクールでグレアムの下で学び、バリュー投資の原理を学んだ。その他にも、ウォルター・シュロス、ウィリアム・ルアン、トゥイーディ・ブラウン・パートナーズなど、バリュー投資家として大きく成功した人々がいる。バフェットは1984年に発表した記事「グレアム・アンド・ドッド村のスーパー投資家たち」で、これら投資家を取り上げている。バフェットは、彼らの優れたパフォーマンスが偶然によるものではなく、バリュー投資の原則を規律正しく適用した結果であることを示した[注1]。グレアムとドッドのアプローチの最近の弟子には、マリオ・ガベリ、ビル・アックマン、マイケル・バーリ(マイケル・ルイス『ビッグ・ショート』に登場)などがいる。

 グレアムはその教えのなかで、投資に関する文献で最も有名な人物としてミスター・マーケットを登場させている。ミスター・マーケットは感情的で躁鬱病のような性格の人物で、自分が代表している企業の株式をファンダメンタルズからかけ離れた価格で売買することを提案してくる。グレアムは、賢明な投資家はミスター・マーケットの機嫌を利用して、本質的価値を下回る価格で株式を買い、高すぎる株価で売ることができることを示した。バリュー株と呼ばれる、企業のファンダメンタルズに比して価格が低い株式は、長期的には、ファンダメンタルズに比して価格が高いグロース株よりも、優れたリスク調整後のリターンを投資家にもたらす[注2]。グロース投資とバリュー投資のどちらが優位かについては、投資のプロたちの間で永遠のテーマとなった。

 だが2007年から2021年にかけては、バリュー投資は成功した投資戦略とはいえなかった。事実、投資戦略のパフォーマンス分析用の約1世紀にわたる株式データにおいて、ほぼすべての指標でバリュー投資はグロース投資に大差で後れを取っている。

 何が起こったのか? バリュー投資は、一部の人が主張するように死んだのだろうか? それとも、この投資スタイルが不運に見舞われただけなのだろうか?

2006年以降のバリュー株下落の説明

 バリュー投資のプレミアムが消滅した理由の1つは、バリュー株が多くの投資家に買われ、この戦略の優位性が市場から裁定されてしまったことである。(第17章で述べるように)過去のデータで見られた多くの現象は近年では薄れ、特に暦のアノマリーは完全に消滅している。

プレミアムは裁定されたのか?

 多くの投資家がベンジャミン・グレアムの論考に従った結果、バリュー戦略を追求する利点がなくなったということなのだろうか。もしそうであれば、近年バリュー株はグロース株に対して下落するどころか上昇しているはずである。バリュー株が新たな高値均衡に達すれば、将来的なリターンもグロース株並みに低下するはずである。しかし、実際のデータはその仮説を支持していない。バリュー株のPERは小幅に上昇したが、グロース株、特に大型グロース株のPERはそれ以上に上昇した。

 逆に、バリュー株は2006年から2021年にかけて「甚大な嵐」に見舞われた。まず、2000年のITバブル崩壊後、グロース株、特にテクノロジー株の収益が市場予想を大幅に上回ったために割安だったことが証明された。さらに、この時期にグロース株のバリュエーション指標が大幅に上昇し、リターンをさらに押し上げることになった。

 さらに、この間、重要なバリュー産業が深刻な損失を被った。まず、金融業は、金融危機で大きく落ち込み、その後、完全に回復することはなかった。次に、石油業は、新規採掘による供給量の急増と環境規制の強化のために崩壊した。最後に、コロナ禍は、テクノロジーに対する需要を大きく増大させた。このような打撃を考えれば、バリュー株が記録的に低いパフォーマンスに陥ったことは驚くにはあたらない。

 実際、ルーボス・パストール、ロバート・スタンボー、ルシアン・テイラーの最近の研究は、バリュー株のアンダーパフォーマンスのかなりの部分が、(第15章で取り上げる)ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の急増と関連していると主張する[注3]。環境リスクと関連した投資動向については、その傾向が特に顕著である。ESG投資家が石油をはじめとする環境破壊とみなされる業種を避け、環境に優しいとみなされるテクノロジー企業を選好したことが、これらの業種の収益とバリュエーションの変化の両方に寄与し、バリュー投資家に打撃を与えたという。

 2006年以降、バリュエーションが大きく上昇したのは最大手企業であり、そのほとんどがテクノロジー関連銘柄である。図3-1は1962年から2021年までの時価総額上位30%、中位40%、下位30%の銘柄の平均PERを示したものである。大型株のバリュエーション指標の上昇幅が大きいことは明らかであり、中型株や小型株の上昇幅はそれよりずっと小さいことがわかる。2021年には、低PER銘柄のPERは1960年代前半とほぼ同水準であるが、高PER銘柄のPERはほぼ倍になった。

図3-1 PERと時価総額
図3-1 PERと時価総額
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割引率

 グロース株のアウトパフォーマンスのもう1つの理由は、将来のキャッシュフローを割り引くための金利が低下したことである。バリュー株はグロース株よりも早くキャッシュフローを得ることができる。デュレーションとは、金融の専門用語で、投資家が資産の期待キャッシュフローを受け取るまでにかかる平均的な時間のことである。バリュー株のデュレーションはグロース株のデュレーションより短い。

 金利の変化によって、デュレーションの長い資産の価格がデュレーションの短い資産よりも大きな影響を受けることは、容易に示すことができる。例えば、金利が1パーセントポイント低下すると、10年債よりも30年債のほうが大きく価格が上昇する。(第8章で見たように)過去20年間、実質金利と名目金利の両方が顕著かつ持続的に低下してきた。したがって、グロース株のバリュエーションがバリュー株のバリュエーションに比べて上昇することは合理的であり、2006年以降のバリュー株のアンダーパフォーマンスを説明する1つの材料となる。

 この説明に対する反論は、過去のデータである。金利がグロース株のバリュエーションに与える影響は、バリュー株と比べてほとんどなかったのである。グロース株の過去最大の暴落の1つは、実質金利が極めて高かった1999年から2000年のインターネットとドットコムのバブル期に起こった。インターネットの発展に対する興奮がこうした高い金利を相殺したのであり、このエピソードは金利要因の説明には適当でないとする議論もありうる。そうであれば、近年のバリュー株のアンダーパフォーマンスの一部を金利の大幅な低下によるものとすることも、不合理ではないだろう。

テクノロジー

 グロース株がバリュー株を上回るのは、①バリュー株に比べてグロース株の収益が投資家の予想を上回った、②バリュー株に比べてグロース株のバリュエーションが上昇したからに違いない。

 実際、近年はこの両方の条件が重なっている。2007年、S&P500の時価総額に占める(テクノロジー関連企業を含む)IT・通信サービスセクターの割合は19%だった。2021年にはその比率が40%に達し、ITから一般消費財セクターに移ったアマゾン・ドット・コムやテスラを加えると、IT主体の企業が米国企業全体の時価総額の2分の1近くを占めている。S&P500の約70年の歴史のなかで、これほどまでの集中は、1957年の指数誕生時の素材エネルギーセクターが優勢だったとき以来である。

 前述したように、2007年以降、S&P500のほとんどのIT銘柄は業績予想を上回り、その急上昇した業績を上回って株価が上昇した。2012年のITセクターのPERは約14倍で、S&P500のPERを若干下回っていた。振り返ってみると、このバリュエーションは明らかにグロース株を過小評価していた。その後10年間、IT 企業の1株当たり利益は年率12.7%で成長し、これはS&P500の他の企業より5ポイント以上高いが、一方でPERはほぼ2倍になったのである。

大型グロース株

 最も顕著なのは、メタ(旧フェイスブック)、アップル、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル(現アルファベット)、マイクロソフトといった巨大テクノロジー企業の支配力が高まっていることである。これらは2013年に、テレビ番組の司会者ジム・クレイマーによってFANGと呼ばれた[注4]。その年のこれら6社の時価総額の合計は、ちょうど1兆ドルを上回る程度であり、S&P500の時価総額の8%を占めていた。2021年には、時価総額は10兆ドルに達し、S&P500の4分の1以上を占めるようになった。これら6社の収益は急速に拡大したが、それでも、PERはこの間に20台前半から30台半ばになったにすぎない。2021年、この6銘柄はS&P500のPERを約3ポイント上昇させた。

 2021年のハイテク巨大企業には、2000年のドットコムバブル時のハイテク株と同じような割高感はなかったことに留意する必要がある。図3-2は、1962年から2021年までのIT セクターと、そのなかの最大手5銘柄のPERを示したものである。これらの銘柄の2021年のPERはドットコムバブル期よりも低いだけでなく、2022年は1960年代と比較してもそれほど高くない。これらの両期間とも、金利は2020年よりもかなり高かった。このことは、テクノロジー株の現在のバリュエーションが不合理ではない可能性があり、優れた収益の成長を維持すれば、バリュエーションは市場に対して上昇し続ける可能性があることを示している。

図3-2 時価総額別のPER
図3-2 時価総額別のPER
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バリュー株とグロース株の将来

 バリュー株とグロース株の論争において、バリュー投資の放棄を主張する人々は、世界が永久に変わったと主張する。経済学の入門講座では、1単位の製品を追加で生産する費用、すなわち限界費用が、その製品を売って得られる限界収入と等しくなるときに、利益が最大化されると教える。しかし、今日のデジタル世界では、デジタル製品を1つ追加で生産する費用は実質的にゼロである。ほとんど費用をかけずに、デジタル製品で世界中を満たすことができるのである。

 しかしながら、すべての製品がデジタルであるわけではない。アップルは物理的な携帯電話を、ネットフリックスは現実のコンテンツを、テスラは現実の自動車を生産しなければならない。アマゾン・ドット・コムは、米国で2番目に大きい民間部門での労働者の雇用主である。従来の経済モデルを完全に放棄することはできない。

 過去には、ある産業が経済や資本市場を支配した時代が何度もあった。19世紀は鉄道、20世紀初頭は石油、鉄鋼、そして自動車である。20世紀半ばには、政府によって保護された電話サービスの独占企業であるAT&Tが、その規模の大きさが株式指数のリターンを歪めることを恐れて、S&P500から除外されるほどだった。

 次の支配的産業は、エンターテイメント、気候変動緩和、空気と水の浄化、フィンテック、バイオテクノロジー、仮想現実と拡張現実、あるいは現在では想像もつかない何かだろうか。時価総額がわずかな産業から、巨大なテクノロジー企業が生まれる可能性もある。イーロン・マスクが眠れる自動車産業を変えたように、ジェフ・ベゾスが利益率の低い小売業を絶対的な力に変え、有店舗型の小売業を壊滅させたように。次のブレークスルーを誰がどこからもたらすか、誰にもわからない。

(写真:tiquitaca/stock.adobe.com)
(写真:tiquitaca/stock.adobe.com)
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[注1]Warren Buffett, "The Superinvestors of Graham-and-Doddsville," Columbia Business School Magazine,1984.
[注2]1980年代以前のバリュー株は、低PER銘柄が景気循環と密接に関係する業種に多く見られたため、景気循環銘柄と呼ばれることが多かった。しかし、スタイル投資の普及に伴い、これらの銘柄を専門に扱うエクイティマネジャーの多くが、「景気循環」という呼称に違和感を覚え、バリューという呼称を好んで使うようになった。
[注3]Ľuboš Pástor, Robert Stambaugh, and Lucian Taylor, "Dissecting Green Returns," working paper, September 7, 2011.
[注4]CNBC『マッド・マネー』の司会者ジム・クレイマーは、これらの銘柄の頭字語を並べて、これらの企業が「それぞれの市場を完全に支配している」と称賛した。当初、FANGが使われ、2017年にアップルが追加された。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)

(「はじめに」より)約30年前に初版を出版して以来、『株式投資』が絶大な支持をいただいていることを光栄に思う。第6版では、ファクター投資、効率的市場仮説、バリュー投資の将来、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク、コロナ禍、インフレと金利の株価への影響に関する6つの章を追加し、これまでで最も大規模な改訂を行った。その他の章も大幅に拡充し、不動産のリターン分析、株式と債券の最適配分、世界一の価値を持つようになった企業の運命、ビットコインと暗号通貨の将来、ついているマネーマネジャーが市場に勝ち続けたかどうかの分析などを初めて掲載した。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)/日経BP/4180円(税込み)