短期間でみれば、確かに株式投資のリスクは長・短期債よりも高い。しかし、保有期間が10年の場合は、株式投資の最低リターンは長・短期債よりも高くなる。債券よりも株式で長期的に資産を蓄積するほうがリスクが高いようにみえるかもしれないが、購買力の維持という観点からは、まさにその逆で、最も安全な長期投資は株式の分散ポートフォリオであることは明らかである。『株式投資 第6版』第3章から抜粋してお届けする。

保有期間とリスク

 投資家にリスクを理解してもらうためには、最悪のシナリオを示すのが一番手っ取り早い。図2-1は1802 年以降の保有期間(1~30年間)ごとに、株式、長期債、短期債の実質リターン(インフレ調整後の最高値と最低値)を示したものである。ここで株式のリターンは、米国の小型株と大型株を広範にカバーする時価総額加重平均指数を対象とし、配当とキャピタルゲイン(ロス)を合計したインフレ調整後の値を使用した。

図2-1 保有期間別の実質リターンの最大値と最小値(1802〜2021年)
図2-1 保有期間別の実質リターンの最大値と最小値(1802〜2021年)
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 保有期間が長くなるにつれて、株式の実質リターンの最高と最低の差が、長期・短期の債券と比べて劇的に小さくなることに注目してほしい。

 1年や2年といった短期間でみれば、確かに株式投資のリスクは長・短期債よりも高い。しかし、1802年以降では保有期間が5年の場合、株式の実質リターンは最悪でもマイナス11.9%であり、同じ保有期間の長・短期債の実質リターンを若干下回るだけである。保有期間が10年の場合は、株式投資の最低リターンは長・短期債よりも高くなる。

 保有期間が20年の場合は、株式の実質リターンはインフレ率を下回ることはないが、長・短期債の最低リターンは、1961年から1981年の間はインフレ率を3%も下回っている。このインフレ期に、長期債はクーポンを再投資しても実質価値が50%近く下落した。保有期間30年の場合、株式リターンは最低でもインフレ率を2.6%(1902~1932年)上回っていた。このリターンは、確定利付き資産を30年間保有したときに得られる平均リターンを大きく下回るものではない。

 2世紀以上のリターンの変動において、長期債や短期債とは対照的に、株式は保有期間が17年を超えた場合、実質リターンはマイナスにはならない。これは非常に重要なことである。債券よりも株式で長期的に資産を蓄積するほうがリスクが高いようにみえるかもしれないが、購買力の維持という観点からは、まさにその逆で、最も安全な長期投資は株式の分散ポートフォリオであることは明らかである。

 投資家のなかには、20年、30年、あるいはそれ以上の保有期間が自分の投資計画に意味があるのか疑問を持つ人もいるが、投資家が犯す最大の間違いの1つは、保有期間を過小評価することだ。これは、多くの投資家が、特定の株式、債券、ミューチュアルファンドの保有期間だけを考えているためだ。保有期間というと株式や債券などの個別金融商品の保有期間を思い浮かべるかもしれないが、ポートフォリオの構成を考えるうえで重要なのは、ポートフォリオのなかに株式や債券が含まれているかどうかであり、途中で銘柄の入れ替えがあっても構わない。

 表2-1は、株式投資のリターンが長・短期債のリターンを上回った割合を保有期間ごとに示したものだ。保有期間が長くなるほど、株式のリターンが長・短期債を上回る確率が劇的に高くなるのがわかる。しかし、1年あるいは2年の保有期間でも、5年のうち3年ほどは株式が長期債や短期債を上回っている。つまり、5年のうち2年ほどは株式のリターンが短期債や銀行預金のリターンに劣ることになる。短期的には債券や預貯金のリターンが株式を頻繁に上回ってきたことが、多くの投資家にとって株式投資を続けることが難しい主な理由になっている[注1]。

表2-1 株式のリターンが長期債・短期債を上回った期間の割合(保有期間別)
表2-1 株式のリターンが長期債・短期債を上回った期間の割合(保有期間別)
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 ただ10年保有では約75%、20年保有では約85%、30年保有では91.6%、1871年以降の30年保有では99.3%の確率で、株式のリターンが長期債や短期債を上回っている。

 第4版までの『株式投資』で、長期債のリターンが株式を上回った最後の30年間は、米国の南北戦争が始まった1861年までの30年間だと指摘した。しかし、それはもはや真実ではない。過去数十年にわたる国債利回りの急激な低下により、1982年1月1日から2011年末までの30年間で、長期債のリターン11.03%が株式の10.98%を上回ったのである。この衝撃的な出来事により、一部の研究者は、株式のリターンが債券のリターンを上回ることはもはや期待できない、と結論付けた[注2]。

 しかし、なぜこの時期に長期債のリターンが株式を上回ったのかを詳しくみてみると、今後数十年の間に長期債が同じことを繰り返すのは、ほとんど不可能であることがわかる。1981年、10年物米国債の金利は16%を超えた。その後金利が低下したため、債券保有者は高いクーポンと債券のキャピタルゲインの両方から利益を得た。長期債のリターンは、毎年長期債を売却して元本を回収し、それを新しい長期債に再投資して計算することを思い出してほしい。この戦略により、1981年から2011年までの債券の実質リターンは年率7.8%となり、株式とほぼ同じ実質リターンとなった。7.8%の実質リターンは、株式の220年間の平均を1%ポイントほど上回るだけだが、長期債の歴史的な平均実質リターンの2倍、1926年以降の長期債の実質リターンの3倍近い。

 金利が歴史的に低い水準まで低下したことで、2021年、債券保有者はまったく異なる状況に直面する。その年の年末、長期債の名目利回りは約1.5%、インフレ連動債の利回りはマイナス1%近辺であった。株式に近いリターンを得るには、長期債の名目金利はゼロを(欧州や日本の利回り低下よりもはるかに)大きく下回らなければならず、インフレ連動債の利回りもさらにマイナスになる必要がある。

ランダムウォーク理論

 1960年代、株価の予測不可能性に関する証拠が積み上がることにより、株式リターンのランダムウォーク理論への信奉が強化されるようになった。ランダムウォークとは、次の期間の価格変動が、今の期間の変動と完全に独立していることを意味する。実際、米国初のノーベル経済学賞受賞者であるポール・サミュエルソン教授が、1965年に「適切に予測された価格がランダムに変動することの証明(Proof That Properly Anticipated Prices Fluctuate Randomly)」という論文を発表し、ランダムウォーク理論を支持した[注3]。その後、少なくとも短期的な株価の統計的な性質は、ランダムウォークと区別がつかないことを確認する研究が盛んになされた[注4]。

 株価がランダムウォークであるならば、長期投資家のために構築されるポートフォリオは、短期投資家のためのポートフォリオよりも株式への投資を多くすべきである、ということにはならない。サミュエルソンは、ランダムウォークを示す市場には「時間的な分散」が存在しないことを示した[注5]。つまり、ランダムウォークは、長期的には株価の上昇が株価の下落を相殺することはなく、より安定的なリターンを投資家に提供することはない。確かに、保有期間が長くなればなるほど株式が債券に勝つ割合は高くなるが、損失が発生した場合、あなたのポートフォリオや心身の健康(ウェルビーイング)が壊滅的な打撃を受ける可能性がある。ランダムウォークの世界では、ポートフォリオに占める株式の割合は、保有期間に依存しない。

株式リターンの平均回帰

 次のデータは、ランダムウォーク仮説が長期の株式リターンに関しては成り立たないことを示している。図2-2は、過去220年間のデータに基づいて、株式、長期債、短期債の投資リスク(インフレ調整後の実質年率リターンの標準偏差)を算出したものである。

図2-2 保有期間別の平均実質リターンの標準偏差(1802~2021年)──歴史的なリスクとランダムウォーク仮説に基づくリスクとの比較
図2-2 保有期間別の平均実質リターンの標準偏差(1802~2021年)──歴史的なリスクとランダムウォーク仮説に基づくリスクとの比較
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 株式リターンの標準偏差は短期的には債券のリターンより高いが、保有期間が15~20年の場合、株式の投資リスクは長・短期債よりも小さくなる。保有期間が30年を超えると、株式投資のリスクは長・短期債のリスクの4分の3以下に下がる。保有期間が長くなるにつれ、株式の平均リターンの標準偏差は債券に比べて約2倍の速さで低下する。

 資産のリターンがランダムウォークに従うとすれば、各資産クラスの標準偏差は保有期間の平方根の分だけ低下することになる。図2-2の破線部分は、ランダムウォークで予測されるリスクの低下を示している。明らかに、ランダムウォークの予測は成り立たない。

 平均的な株式リターンの標準偏差が、ランダムウォーク仮説の予測よりも速く減少することを、株式リターンの平均回帰(ミーンリバージョン)と呼ぶ。なお、平均回帰は期間を延長すればするほど、株式のポートフォリオの総リスクが低下することを主張するものではない。確かに株式のトータルリターンの標準偏差は時間とともに上昇し、ただし、その上昇率は逓減していく[注6]。期間が長くなるにつれて低下するのは「1年当たり」のリスクである。

 長期的な株式リターンが平均回帰に従った過程をたどることを示唆したのは、私が最初ではなかった。ジェイムス・ポテルバとローレンス・サマーズ(1988)やユージン・ファーマとケネス・フレンチ(1988)は、長期的な株式リターンがランダムウォーク仮説に合致していないようにみえることを示している[注7]。しかし、1994年に私が『株式投資』初版を出版したときでさえ、ランダムウォーク理論は依然として有力であり、株式データに平均回帰が実際に存在するかどうかについては懐疑的な見方が多かった。

 ポール・サミュエルソンは懐疑的だった。1992年、私が長期データを発表した際、彼はこう警告した。

長期にわたって統計的サンプルを複製するには長い時間がかかるので、「平均回帰」の強さに対する信頼は慎重にならざるを得ない。また、特に1920~1945年の世界恐慌と第二次世界大戦という一時的である可能性のある振れ幅を割り引くと、その効果は量的には大きくないかもしれない。これらの理由から、新しい結果には一定の注意を持つことが賢明だろう。[注8]

 サミュエルソンは、次のように強調している。「資本主義の歴史は1つしかない。ゆえに、その1つをサンプルにした推論は、決して確実な解釈とはいえない。1913年、帝政ロシアのお偉いさんはセーヌ左岸でどのような老後を過ごしていただろうか」[注9]。

 1990年代前半、専門家の間では株式リターンの平均回帰の有無について意見が分かれていた[注10]。しかし、コンセンサスは変化しつつあり、1999年にジョン・H・コクランは、次のように書いている。

この15年間で、金融経済学者の投資の世界に対する理解には、革命が起こったといえるだろう。かつてわれわれは、株式や債券のリターンは本質的に予測不可能だと考えていた。しかし現在では、株式や債券のリターンは、長期的な視野に立てばかなり予測可能な要素を含んでいると認識されている。[注11]

 最近では、金融経済学者の90%以上が、株式リターンが長期的な平均回帰を示すことに同意するだろう、とコクランは述べている[注12]。

債券の平均回避

 株式リターンは平均回帰を示すが、債券はまったく逆の状況である。図2-2に示されているように、債券の平均リターンの標準偏差は、ランダムウォーク理論が予測するほどには低下しない。これが債券リターンが示す平均回避(ミーンアバージョン)である。平均回避とは、ある資産のリターンが長期的な平均値からいったん乖離すると、より正常な水準に戻るのではなく、さらに乖離する可能性が高くなることである。

 債券リターンの平均回避は、物価が加速度的に上昇し、債券が無価値となるハイパーインフレにおいて特に顕著である。しかし平均回避は、米国や他の先進国経済に影響を与えた緩やかなインフレにおいても存在する。インフレが加速し始めると、インフレのプロセスは累積し、債券保有者は購買力の損失を埋め合わせる可能性が事実上ゼロになる。一方、実物資産に対する債権を保有する株主が、インフレによって永久的な損失を被ることはほとんどない。

(写真:mustafaoncul/stock.adobe.com)
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[注1]第25章で、どんなにわずかであっても、投資家が損失を被ることを嫌うことが、ポートフォリオのパフォーマンスに影響を与える理由を示す。
[注2]Robert Arnott, "Bonds, Why Bother?" Journal of Indexes(May/June 2009).
[注3]Paul A. Samuelson, "Proof That Properly Anticipated Prices Fluctuate Randomly," Industrial Management Review 6(1965a), 41-49.
[注4]James C. VanHorne and George G. C. Parker, "The Random-Walk Theory: An Empirical Test," Financial Analysts Journal 23, no.6(1967), 87–92, http:// www.jstor.org/stable/4470248. Benoit Mandelbrot, "Some Aspects of the Random Walk Model of Stock Market Prices: Comment," International Economic Review 9, no.2(1968), 258–59, https://doi.org/10.2307/2525479.
[注5]Paul A. Samuelson, "Risk and Uncertainty: A Fallacy of Large Numbers," Scientia 57, no.98(1963), 108.
[注6]ボストン大学のツヴィ・ボディ教授は、この間違った信念の根拠として、私の著書『株式投資』をよく挙げていた。私がツヴィに、「私の本ではそんなことは言っていない」と言うと、彼は同意して、「ジェレミー、あなたがそうでないことは知っているが、皆がそうだと思っている!」と答えた。Zvi Bodie, "On the Risks of Stocks in the Long Run," Financial Analysts Journal 51, no.3(1995), 18–21.
[注7]James Poterba and Lawrence Summers, "Mean Reversion in Stock Returns: Evidence and Implications," Journal of Financial Economics 22(1988), 27–59. Eugene F. Fama and Kenneth R. French, "Permanent and Temporary Components of Stock Prices," Journal of Political Economy 96e, no.2(1988), 264–273.
[注8]Paul Samuelson, "At Last, a Rational Case for Long-Horizon Risk Tolerance and for Asset-Allocation Timing," in Active Asset Allocation, State of the Art Polio Policies, Strategies and Tactics, eds. R. Arnold and F. Fabozzi, Chicago:Probus, 1992, 415-416.
[注9]Paul Samuelson, "The Long-Term Case for Equities," Journal of Portfolio Management(Fall 1994), 17.
[注10]1996年初め、サミュエルソンと同じように平均回帰に懐疑的なボストン大学のツヴィ・ボディが、株式と債券の長期的なリスクとリターンについての討論会に私を招待してくれた。私の発表が終わると、サミュエルソンは聴衆に挙手を求めた。「株式リターンの平均回帰を信じる人は何人いますか?」と。聴衆は半々くらいに分かれた。
[注11]John Cochrane, "New Fact in Finance, Economic Perspectives," Federal Reserve Bank of Chicago 23,no.3(1999).
[注12]2018年4月12日に届いたメールより。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)

(「はじめに」より)約30年前に初版を出版して以来、『株式投資』が絶大な支持をいただいていることを光栄に思う。第6版では、ファクター投資、効率的市場仮説、バリュー投資の将来、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク、コロナ禍、インフレと金利の株価への影響に関する6つの章を追加し、これまでで最も大規模な改訂を行った。その他の章も大幅に拡充し、不動産のリターン分析、株式と債券の最適配分、世界一の価値を持つようになった企業の運命、ビットコインと暗号通貨の将来、ついているマネーマネジャーが市場に勝ち続けたかどうかの分析などを初めて掲載した。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)/日経BP/4180円(税込み)