『 介護未満の父に起きたこと 』(新潮社)の著者のジェーン・スーさんと、『 家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本 』(日経BP)の著者の増田由紀さんによる対談最終回。テーマは、「親を支えることと自分の人生を生きることの両立」についてです。ともに80代後半の親を持つお二人に、本音で語ってもらいました。
女性は社会規範に「鈍感力」を
前回は、介護が始まる前にしておくと安心なことについてお話しいただきました。最終回の総括として、「親を支えることと、自分の人生を生きることは両立できるのか?」というテーマでお聞きしたいと思います。
ジェーン・スーさん(以下、スー) 本当に世知辛い話ですけど、親の支援や介護は、お金で解決できることがものすごくたくさんあります。「お金があるほうが、自分の人生と両立しやすくなる」というのが現実でしょう。私は、言ったらギョッとされるぐらいの額を父に使っています。
増田由紀さん(以下、増田) どこかの記事で、子どもを医学部に通わせられるぐらい、お父様に使われているというのを読みました。
スー はい、その通りです。もし、私が仕事を辞めて父の世話をしたら、今よりもお金はかかりませんが、絶対に詰むんですよ。何が詰むって、父が死んだ後、稼ぎがない私の生活が詰むんです。そうならないためにも、私はお金に頼るようにしています。
そんなに大金はかけられないという場合でも、それほど使い勝手がいいわけではありませんが、要支援がつけば公的な介護サービスが受けられたり、探せば何かしらの手段はあります。介護をする世代の多くは、子育てが一段落しているでしょうから、子どもに使っていた分を親に回すなど、やりくりの余地はないでしょうか。
増田 簡単な話ではないかもしれませんが、私も自分がすり減らない関わり方を模索することが大切だと思っています。「自分の仕事や家庭を犠牲にして親の支援や介護をする」という考え方はすべきではない。無理がたたって、自分の心身か、親の生活のどちらかが破綻することは目に見えていますから。
スー フルタイム勤務の正社員から、時短勤務の非正規雇用などに変えることも、避けたほうがいいと思います。今ある自分の人生は、手放さないほうがいい。それが、ゆくゆく自分の支えになるからです。
特に女性は、「自分が自己犠牲を払って仕事を辞めるべき」と考えがちなので要注意です。なかには、「親の支援は女性の役割」とプレッシャーを感じる方もいるかもしれません。そんな古臭い性別役割分担意識や社会規範に対しては、鈍感力を発揮してください。聞く耳を持たずに、かわしてほしいと思います。
増田 私たち子どもにできることは、親にできる限り自立した生活を維持してもらうための助けだけ。そうは言っても、これまでは離れて暮らしていると様子を見るのも難しかったものですが、今はインターネットやスマホがあります。便利な技術をちゃんと使って、自分を犠牲にしない道を選びたいですね。
焦らず、多くを求め過ぎない
増田 親にスマホの使い方を教えるとき、私は自分に「多くを望まないように」と言い聞かせています。ついつい、教え過ぎちゃうんですよね。だから、「これが1つできたら上々だ」と思うようにしています。
スー 加齢によって、できることが減っていくのは自然現象ですからね。多くを求め過ぎず、仕方のないこととして、あきらめたほうが身のためというものです。
増田 おっしゃる通りで、一度に「あれもこれも」とてんこ盛りにされても、覚えられないんですよね。だからまず、基本的なことから1つずつ。電話をかける、写真を撮る、写真を送る、LINEを送る、など。これだけは聞かなくても自分1人でできる、という状態になるまで待つ。それで、1つのことがちゃんと定着したら、次の新しいことを教える、というペースが妥当でしょう。……と、頭では分かっていても、実際は何度も同じことを聞かれると、「何で分からないの!」と言いそうになりますが。
スー その気持ち、よく分かります。親にしてみたら、「何で」と言われても困るんですよね。分からないから「分からない」と言っているだけですから(笑)。
増田 覚えてほしいことがなかなかできなくても、「ここで怒ったら損だ」と思うようにしています。親がスマホを使って、自立した生活を持続することは、私にとっても大きな得につながるんだから、と。
スー うちは週に3回、ホームヘルパーの方に父のことをお願いしているんですが、毎回父の様子を報告してくれるんですね。「ご飯を残さず食べました」とか、「こんなことを話していました」とか。私としては、いちいち父に「今日はどうだった?」と聞かずに済むから楽なんですが、父は報告されることを嫌がったんです。
きっと、私に監視されている気がしたのでしょう。「娘にいちいちチクるな」と言ったそうなんです。それで、父と話し合いました。「ヘルパーさんからの報告は、私が一緒にいられない間の様子を知るために必要なことだから理解してくれないか」と。そうしたら、「なるほど、そういうことなら構わない」と納得してくれました。
増田 ちゃんとお父様に説明して、納得してもらえたというのは素晴らしいですね。親子でも、良好な人間関係を保つには、双方の歩み寄りが必要です。一方的に、「あなたのためにやってあげてることなんだから」と押し付けるとうまくいきません。
スー それで私も、ヘルパーさんから聞いたことは、父との会話にあまり出さないようにしました。納得はしてくれても、嫌なものは嫌でしょうからね。
「IT×支援・介護」の可能性
増田 今は、国の介護保険制度も、自治体ごとの支援と介護のサービスもある時代です。それらをうまく利用しながら、親も子も、それぞれの生活を続けていく、という選択がしやすくなっていると思います。親も「子どもが自分の人生を犠牲にして世話してほしい」とは願っていないでしょう。加えて、スマホをはじめとするIT技術も進化しました。ITがもっと介護の分野に進出して、介護に関する課題解決をして楽にしてくれることを切に祈っています。
スー スマホやEcho Showも便利ですが、もっと楽になってほしいですね。
増田 すでに、その可能性の芽は出てきていると思うんです。最近ですと、移動の問題をITで解決したタクシー配車アプリの「GO」。私のスマホ教室に来られる高齢の生徒さんも、こぞって「GOを使えるようになりたい」と言います。車の手配は、病院通いに欠かせないようです。
スー GOね! あれは本当にいいです。私も、もちろん愛用しています。GOが素晴らしいのは、アップデートで複数台を同時に呼べるようになったこと。父が病院に行く日と私の仕事が重なっていても、同時に呼べるので重宝しています。
増田 90代の生徒さんも、GOなら頑張って覚えるんですよ。「クレジットカードを使うアプリは怖いから使いたくない」とかたくなだった人も、進んで「やりたい、やりたい」となる。それほど「足」の重要性が高いことを痛感します。
スー つまり、GOは高齢者が自分の生活圏を維持するためのインフラになり得ているわけですね。
増田 家族と同居している人も、「出かけたいけれど、子どもや孫に付き添いを頼むことを考えると、悪いから出かけなくていいか……」となりがちです。極論を言うと、実際には出かけないとしても、「足がない」という不安が解消されることが重要で、「行きたいところに自力で行ける手段を持っている」ということに価値があります。最近ではAIの進化も目覚ましいですし、子どもにかかる負担がもっと軽減してほしいですね。
スー 「IT×支援・介護」の可能性に期待せずにはいられませんね。
取材・文/茅島奈緒深 構成/西 倫英(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか
第2回 ジェーン・スー×増田由紀 親を一度「他人化」する 介護のちょうどいい距離
第3回 高齢の父に「監獄みたいだ」と言われて気づいたこと ジェーン・スー×増田由紀
第4回 介護未満の親の異変に気づけるスマホでのやり取り ジェーン・スー×増田由紀
第5回 親の介護は女性の仕事ではない ITで負担を減らす ジェーン・スー×増田由紀 ← 今はここ
帰省のお供に! スマホに苦手意識があるシニア世代を、家族の立場から支えるプロのサポート術を紹介。実際に教室であった「あるある」なエピソードをもとに、スマホを使うのが楽になるポイントを解説します。
増田由紀著/日経BP/1870円(税込み)





