「マラソンを走ったら、痛風になってしまった」。知人からこのような話を聞き、酒ジャーナリストの葉石かおりさんは驚く。だが、痛風や高尿酸血症に詳しい医師は、十分にあり得る話だという。シリーズ21万部突破の最新刊『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(葉石かおり著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。

痛風は9割以上が足に起きる
中年以降の酒好きに多いのが、「痛風」だ。
筆者の周囲の酒好きにも、結構な確率で痛風を抱えている人がいる。それでも皆、懲りずに尿酸値を下げる薬を飲みながら、酒を飲んでいる。
昔から「ビールは痛風に良くない」と言われてきた。痛風を予防するために、ビールは控えめにしているという人も多いだろう。そして、痛風と言えば、失礼ながら、お腹の出たメタボ気味な男性がなるイメージがある。
ところが、ここにきて耳を疑うようなことを聞いた。それは「マラソンを走ったら痛風デビューしてしまった」ということだ。彼はメタボとは程遠いスリムな体形。ランニングは、東京マラソンに出場するくらいハードに行っているという。そんな彼が痛風の発作に襲われたと聞いて、かなり驚いた。
酒好きにはおなじみの痛風にも、まだ知らない一面があるのかもしれない。多くの痛風持ちの酒飲みのためにも、ここで痛風の知識をアップデートしておかねばならない。痛風・高尿酸血症に詳しい、東京女子医科大学の学長である山中寿氏に教えてもらおう。
まず、痛風とはどのような症状を指すのだろうか。
「急性関節炎の代表格、それが痛風です。正式には痛風関節炎といい、患者は98%が男性だと言われています。ある日突然、多くは足の親指あたりの関節に急に痛みが起こり、赤く腫れ上がります。それは、とても激しい痛みで、数日から1週間で症状は治まります。その後はしばらくの間、無症状ですが、そのままにしておくと、年に一度くらい症状が出るようになってしまいます」(山中氏)
最初の発作は、足の親指の付け根が最も多く、くるぶしやかかと、足の甲などを含め、9割以上が足に起こる。これは、足が冷えやすいこと、そして物理的な刺激を受けやすいことと関係しているという。
治療せず放置しておくと、痛風の発作が慢性的なものへと移行することもある。「発作が出るスパンが、年に一度から半年に一度になり、それから3カ月、1カ月という具合に、だんだんと短くなり、頻度が増えていくのも特徴の1つです」(山中氏)

遺伝要因の影響が大きいことが分かってきた
激しい痛みが、予告もなく起こるなんて恐怖でしかない……。ではいったい、どのようなメカニズムによって、痛風は起こるのだろうか?
「関節の中に尿酸が過剰にたまるのが痛風のメカニズムです。尿酸の血中濃度である尿酸値が長い間7.0mg/dLより高い高尿酸血症の方に、痛風の症状は表れやすい傾向があります。尿酸は、新陳代謝の過程で生じるプリン体から生成される老廃物で、いわば“エネルギーの燃えカス”。尿酸は誰でも持っていて、ある程度の量は体に必要なものです」(山中氏)
女性は、血中の尿酸の濃度が男性に比べて低く、痛風になりにくい。これは、女性ホルモンのエストロゲンに、尿酸の排泄を高める働きがあるためだ。
それではなぜ、尿酸値は上がってしまうのだろう?
「遺伝要因と環境要因の2つがありますが、痛風の場合は遺伝要因の影響が非常に強いことが分かってきました。家族や親戚に痛風歴があると、痛風を起こしやすいといわれています。すでにいくつかの病因遺伝子が分かっており、中でも尿酸トランスポーター遺伝子『ABCG2』が主要な病因遺伝子であることが判明しています」(山中氏)
痛風の患者の8割は、ABCG2に変異があると考えられているそうだ。そして、遺伝要因と並んで関わってくるのが、環境要因である。
「もともと、痛風は生活習慣病の側面が強いと言われています。環境要因には大きく5つありますが、まずメタボ。内臓脂肪の増加に伴って尿酸値は上昇し、減量して内臓脂肪が減れば尿酸値は下がる傾向にあります。そして、2つ目は、プリン体の多い食物をたくさん摂取することです」(山中氏)
プリン体といえば、レバーや白子などに多いイメージがあるが、ほかにも魚の干物などにも多い。
脱水と激しい運動も痛風の原因に
また、プリン体というとビールのイメージがあるが、やはり酒も痛風の原因になるのか、ここで確認をしておきたい。
「はい、環境要因の3つ目は、アルコールです。お酒で痛風というと、ビールを思い浮かべる方が多いと思いますが、尿酸値を上げるのはお酒に含まれるプリン体だけではありません。アルコールそのものにも尿酸値を上げる作用があるのです。居酒屋で『飲むんだったら、ビールよりプリン体ゼロの焼酎がいいんだよ』と言っている方を見かけますが、医師にしてみれば『アルコールだったら、どれも注意しなきゃ』と言いたくなります。また、環境要因の4つ目は脱水なのですが、アルコールにも脱水作用があります」(山中氏)
尿酸値の高い酒好きにとっては、耳が痛い指摘である。「アルコールそのものが尿酸値に関係している」となると、逃げようがない。そして脱水になると、体内で尿酸の濃度が高まり、痛風のリスクが高くなる。
「そして、環境要因の5つ目は、激しい運動です。意外と知られていませんが、激しい運動をすると、一時的に尿酸値が上がります。これは運動の際にATP(アデノシン三リン酸)が使われ、その分解によって尿酸が生成されるからです。つまり運動量が多いほど、尿酸値が上がりやすいということになります。特に筋トレなどの無酸素運動は短時間でATPが使われるので、度を越えた運動は禁物です」(山中氏)
運動というと健康的で、メタボを予防する代表格のように思っていたが、度が過ぎると尿酸値を上げることになってしまうとは。そういえば冒頭で述べた彼の場合も、フルマラソン後に痛風の発作が起きたという。何事においてもさじ加減が大事なようだ。
[日経Gooday(グッデイ) 2025年3月24日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]
葉石かおり著、肝臓専門医 浅部伸一監修/日経BP/1760円(税込み)
