「酒の飲み過ぎとED(勃起不全)の関係」について酒の席でよく聞かれるという、酒ジャーナリストの葉石かおりさん。日本人のEDについて調査した医師から、その驚くべき実態を聞く。シリーズ21万部突破の最新刊『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(葉石かおり著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。

EDは増えている
「酒の飲み過ぎとEDって関係あるの?」
酔いが回ってくると、結構な確率で聞かれるのが、酒とED(勃起障害)の関係だ。筆者と同年代のアラカン男性だけでなく、働き盛りの40代の男性や、30代に入ったばかりの若手も気になっている様子である。
昔から、「深酒すると、性行為の際に役に立たなくなる」という話は耳にしたことがあるが、日常的に大量に飲む多量飲酒とEDの関係性についてはよく分からない。正直、「年齢を重ねればEDになるのはごく普通のこと」と思っていたが、どうやらそんな単純な話ではないようだ。
真実を探求すべく、順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授で、日本性機能学会副理事長である辻村晃氏にお話を伺った。
筆者の周囲の酒好き男性の多くがEDを気にしているのだが、実際、EDは増えているのだろうか。
「非常に増えています。2023年、私が委員長を務める日本性機能学会の臨床研究促進委員会が主導して、日本の男性6228人を対象にしたEDに関する大規模な全国調査を行いました。すると、前回1998年に行った大規模調査のときよりも、EDの人は大幅に増えていました。ただ問題なのは、何を基準にEDを判定するかで、その数が変わってくるということです」(辻村氏)
はて、EDを判定するなら、国際的に使われている基準を利用すればいいと思うのだが……。
「実は、国際的によく使われているSHIM(Sexual Health Inventory for Men)という判定基準に当てはめてみると、なんと81%がEDという結果になってしまったのです」(辻村氏)
8割がED……。いったいどういうことだろうか。
「1998年の調査では、『勃起せず性交不可能』と答えた人を完全EDとし、それが260万人。『たまに勃起、性交中勃起は維持できる』と答えた人を中等度EDとし、それが870万人。合わせて1130万人をEDだと考えていました。そして、今回の結果に、SHIMによるED重症度の判定基準を当てはめてみたところ、軽症EDから重症EDまでの合計が全体の81%になり、3658万人がEDになってしまったのです」(辻村氏)
よく話を聞いてみると、謎が分かった。SHIMでは、6カ月の間に一度もセックスをしなかった場合、点数が自動的に低くなってしまうのだ。
「SHIMの判定基準を当てはめると大多数の人がEDになってしまう背景には、日本でセックスレスが進んでいるという事情があります。そこで、今回の調査ではSHIMではなくEHS(Erection Hardness Score)という基準を使うことにしました」(辻村氏)
EHSとは、勃起の硬さについての評価基準で、相手ありきの性行為だけでなく、朝の勃起やマスターベーション時の勃起も含まれる。
「調査結果で、EHSでグレード2以下の割合は、30.9%でした。これをEDの割合だと考えると、現在の日本でEDの人は1401万人と考えられます」(辻村氏)
1998年の1130万人から2023年の1401万人へ、25年間でかなり増えたというわけである。いやはや。
飲酒は間接的にEDを引き起こす
それにしても、日本でセックスレスが進んでいるというのは、どういうことなのだろうか。
「実は、日本は世界に冠たる『セックスレス大国』なのです。英国の避妊具メーカーが全世界で行っている調査によると、日本人のセックスの頻度はダントツの少なさになります」(辻村氏)
そして、2023年の大規模調査でも、性行為が「1カ月に1回未満」と答えた人の割合は、70.4%にも及ぶという。なぜ日本はこのようなセックスレス大国なのか。辻村氏は、「さまざまな要因が考えられますが、完全に説明できているわけではありません」と話す。
いやもう、このインパクトのある調査結果に驚きすぎて、本来の取材目的を忘れてしまいそうだ。これだけEDの人がいるということは、セックスレスをはじめさまざまな問題があるに違いない。ここでずばり、飲酒はEDを加速させてしまうのかを辻村氏に聞いてみた。
「実は、アルコールそのものはEDのリスクファクターに含まれていません。飲酒は少量であれば血流を促すので、EDが起こるメカニズムからいうと悪くない、というデータもあります」(辻村氏)
酒はEDのリスクファクターに含まれない! これは酒好きの男性にとって朗報ではないのだろうか。「ED診療ガイドライン[第3版]」によると、EDには12のリスクファクターが挙げられている。
「12のリスクファクターにアルコールは含まれていませんが、注意しなくてはならないのが、これらのリスクファクターは飲酒によって間接的に引き起こされるものが多いということです」(辻村氏)
- 加齢
- 糖尿病
- 肥満と運動不足
- 心血管疾患および高血圧
- 喫煙
- テストステロン(男性ホルモン)低下
- 慢性腎臓病と下部尿路症状
- 神経疾患
- 外傷および手術
- 心理的および精神疾患的要素
- 薬剤(降圧薬、抗うつ薬、前立腺肥大症治療薬ほか)
- 睡眠時無呼吸症候群
確かに、辻村氏の言うように、糖尿病や肥満、高血圧など、飲酒によって間接的にリスクが高くなるものがずらりと並んでいる。
ということは、やはりこれらを誘引する多量飲酒はEDにとって“悪”となり得るということか。
「さまざまな研究から、糖尿病や高血圧の患者でEDを合併している割合が高いことが分かっています。お酒自体はEDのリスクファクターにならずとも、飲み過ぎや食べ過ぎによって肥満になり、糖尿病や高血圧などのリスクが上がれば、EDのリスクにつながるのです。肥満は血流を悪くするのに加え、男性ホルモンのテストステロンを低下させる作用もあるので注意が必要です」(辻村氏)
何と肥満はテストステロンまでをも低下させてしまうのか……。それでなくとも、加齢とともに減少していくテストステロン。お年ごろの酒好き男性は、特に注意しなくてはならないようだ。
[日経Gooday(グッデイ) 2025年3月28日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]
葉石かおり著、肝臓専門医 浅部伸一監修/日経BP/1760円(税込み)
