
作家、書店経営者
「まちの本屋さんに未来はあるのか――」。直木賞作家の今村翔吾さんが2024年4月、東京・神保町に開業した「ほんまる」のルポをとっかかりにスタートした本連載「書店再興」。そこから足かけ2年、日本各地を回り、再興のための様々なチャレンジを追ってきた積み重ねが、ついに書籍になりました(26年3月末発売)。これを記念して、今村さんにお話を伺った第2回、連載第33回です。
書店再興の旗を掲げて、さまざまなアクションを続ける今村翔吾さんの原動力は、「評論家で終わりたくない」という強烈な意識だ。2024年の「ほんまる」オープンから足かけ2年。どんなことをやって、どんな気付きがあったのか。現在地を聞いていく。
本屋さんは「人々がたまる場所」として求められている
直木賞作家として旺盛な執筆を続ける一方で、今村さんはシェア型書店「ほんまる」の出店から、新刊書店「きのしたブックセンター」(大阪府箕面市)、「佐賀之書店」(佐賀市)の経営と、チャレンジを続けています。
今村翔吾さん(以下、今村):僕は評論家で終わりたくないので、自ら動く中から、できうる最大のことを探っています。
シェア型書店のほんまるを24年から実際に経営してみて分かったのは、本を売る以上に、「本を媒介に人々がたまる場所」が、今の時代には求められている、ということでした。そもそも、シェア型は棚主さえ集まれば、粗利率は100%になるという、通常の書店とはまったく違うビジネスモデルです。ですから、常に棚主とお客さんを2段階で集める工夫が大事になります。
また、ほんまるは直営、パートナー(一般的にはフランチャイズのようなものですが、ほんまるではこう呼びます)の両方で全国に広げていくことも当初から構想していて、だからこそ佐藤可士和さんという第一人者にブランディングをお願いしました。2号店以降は「人がここにたまる」ためにカフェ併設の仕かけも重要になるので、25年には焙煎(ばいせん)コーヒーの会社をM&A(合併・買収)で取得しました。大阪の高槻にある「アロマ珈琲 高槻1971」という屋号の会社で、1971年から営業していたお店です。
M&A。さすが、動きが速いですね。
今村:店主の方は、その前に大阪・中之島で20年、コーヒー店を経営されていて、この道ひと筋の女性です。今、まちのコーヒー店も書店と同じような状況で、特に個人の店では経営者が高齢になってきて、事業を続けるか、畳むかで迷ってはるケースが多いんです。
書店をはじめ、喫茶店、パン屋さん、ケーキ屋さんと、昭和の商店街を彩っていた業態はみな、同じ課題に直面しています。
今村:僕らはこちらの店を人づてに紹介してもらい、だったら屋号も含めてうちで引き継ぎます、ということになりました。
カフェのM&Aについては、僕が大阪で事業承継した、きのしたブックセンターのテコ入れにも関連しています。きのしたブックセンターは阪急箕面線の終点である「箕面」駅から徒歩5分という立地なんですが、24年に北大阪急行線の延伸で、東側に「箕面萱野」駅と、「箕面船場阪大前」駅の2つができたんです。
北大阪急行線は、大阪メトロ御堂筋線の梅田・なんば方面に直結ですから、かなり人の流れを取られます。これは売り上げに、もろに影響を与える変化です。そこで、きのしたブックセンターのコンセプトを、「駅近でちょこっと立ち寄る店舗」から、「カフェを併設した滞在型の店舗」に変える必要が出てきました。内装をやり直しつつ、コーヒーの焙煎技術を社内でも勉強して、店頭でオリジナルのコーヒー豆も買えるようにしていきます。
時代の変化とともに、環境の変化も次々と容赦なく訪れますね。
今村:それで、次は東京の小さいIT(情報技術)企業もM&Aしました。
え、ITの会社も買収したんですか?
今村:ほんまるでバックオフィスのシステムづくりに取り組む中で、店舗を運営するにはやっぱりITの専門家チームがいると痛感しました。そのIT会社の経営者は、実はほんまるの棚主だった方です。60歳になって、残りの人生は社会的に意味のあることをしたいと思っていた、とのことで、「だったら、うちのグループに入りませんか?」と、お声をかけたんです。
歴史上の武将ってM&Aの元祖じゃないですか
ほんまるが、まさに交流拠点として、情報交換や人材調達の場になっている。
今村:26年度からは書店経営の専門家も含めて、人材にもっと投資します。たとえば大手書店の元役員で、定年を迎えたけれど「もう一度、現場で熱くなりたい」という方にもお声をかけさせてもらっています。僕自身、書店を経営する上で経験値の限界を感じたので、これからはベテランの知識も、どんどん借りていきたいと思っています。
私の周囲にいる編集者も、「定年後は本屋さんなんて、やってみたいよねー」と語る人がけっこう多いです。第二の人生の居場所として、書店というのは夢を持てる場所なのだと思います。
今村:ほんまるの方は、足かけ2年の経営の中で、棚主さんの要望や不満点、改善点が肌で分かったので、それらに対応できるシステムをつくり込みました。
たとえば棚主さんが棚に並べたい本がある時は、そのISBNバーコードをアプリ(アプリケーション)で読み込めば、自動的に棚に登録できる機能など、大手も持っていないレベルのニッチで強力なシステムです。これによって、バックオフィスの事務作業が大幅に減りますが、単に人件費を減らすのではなく、作業効率をよくすることによって、お客さまや棚主との交流という、本当にやらなあかんことに、社内のリソースを使えるようになりました。
ほんまるの2号店に関しては、日本経済新聞に25年秋、「十六FG、岐阜の新本社ビルにシェア型書店 27年度開業へ」という記事が掲載されました。(日本経済新聞電子版 2025/10/9)
今村:まだ「見込み」の段階ですが、岐阜の場合はパートナー展開になります。M&Aによってシステム改善やカフェなどのプラス業態の基礎が整ってきたので、この先は小規模であっても、直営で何店舗か出したいと考えて、実際にいくつかの地方都市で動いてもいます。
今後もM&Aは進めていきますか?
今村:速度感を持って事業体をつくっていくには、M&Aの手法がいちばんです。どれも手法と目的はきのしたブックセンターと同じです。事業承継によって利益が上がることも大事ですが、その会社の歴史や思いとともに、出版・書店業界がリブートすれば、みんながハッピーになる。その利点もあるのです。
カフェチーム、ITチームとも、ほんまるというブランドや、新刊書店事業を一緒に育てていく仲間です。で、次があるとしたら雑貨の会社で、M&Aまでいかなくても、業務提携ができる企業があったら、ぜひ検討したいと思っています。
今村さんの代表作の一つ『イクサガミ』は25年11月にNetflix(ネットフリックス)で実写化され、世界レベルで大きな反響を呼びました。大ヒットを飛ばす小説の原作者像と、今、お話をうかがっている事業家像が、なかなか重ならないです(笑)。

今村:僕と同じ直木賞作家の小川哲さん、直木賞候補の加藤シゲアキさんと3人で、TV番組「ボクらの時代」でトークをした時に、小川さんが面白いことを言うておられました。
「僕ら作家は単純に、事業に関わるのが苦手や。事業ができたら小説は書かへん。事業ができんから、小説家という道を選んでいる。なのに、今村さんは違う」って。(笑)
でも、歴史上の武将ってM&Aの元祖じゃないですか。自分の力とお金を使って勢力を広げていくと同時に、地元の有力な寺社、豪族を取り込んで、さらに版図を拡大していくわけだから、ある意味、武田信玄と一緒です。歴史小説家の僕がやってもおかしくないでしょう。(笑)
今村さんは24年に「日本ドラフト文学賞」、25年に「本の甲子園」という、新たな文学賞も創設しました。日本ドラフト文学賞はその名の通りプロ野球のドラフト制のように、最終候補に残った作家を、出版社などコンテンツ企業が指名する仕組み。往年のテレビ番組「スター誕生!」も思い出させますね。
今村:文学賞をきっかけにデビューすることは、今も作家の王道ですが、既存の文学賞は作品の再応募や、一度デビューしている作家の応募は認めていません。作家と文学賞には相性もあって、それらのタブーが、実は新しい作家の誕生を阻んでいる側面もある。そういう疑問もあって、まったく違うルールの賞をつくりたかったんですね。
もう一つの「本の甲子園」は、全国47都道府県在住の作家の作品を、各都道府県の図書館員が1作選出して、その後はトーナメント方式で優勝を競うというもの。こちらは、まさしく甲子園方式ですが、そのルールには、『イクサガミ』のサムライバトルのような、複雑で面白い制約が設けられている。今村さんはゲーム的なルールを作ることがお得意なんですね。
今村:そこは作家の本能みたいなものです。(笑)
図書館と作家の共存共栄を「本の甲子園」で
「本の甲子園」では「図書館流通センター(TRC、東京・文京)」(*)と組んでおられますが、今村さんは「書店再興」のインタビューで、全国の図書館がベストセラーを複数購入する「複本」によって、作家が利益減殺を被っている、という問題提起をしておられました。(「本と書店の未来のために必要なのは議論より『行動』です」)
また図書館は、まちの書店にとって大口の納入が見込める取引先ですが、そのビジネスを大手のTRCが奪っていく構図に、書店サイドが神経をとがらせている現状もあります。図書館サイドとは和解されたということでしょうか?
*株式会社図書館流通センター:書籍の販売・物流、管理業務委託、専門スタッフ派遣など、図書館の運営全般を支援する専門企業。親会社は丸善CHIホールディングスで、大日本印刷の連結子会社でもある。
今村:図書館と作家だけでなく、TRCと書店との間にも、一言で言えない確執がある。そこも確かです。でも、「本の甲子園」を立ち上げたことで、ちょっとだけ関係者間の和解が進みました。(笑)
図書館をめぐる論議では、23年に文部科学省主導で出版社、書店、図書館ら関係者間の対話が始まって、そこで僕は作家の立場から、かなりラジカルな発言をしました。ただ、それは図書館を糾弾するというものでは決してなくて、どのように全体が共存共栄を図るかという、あくまでも前向きな問いかけだったんです。(編注:このあたりの詳細は、ぜひ単行本で)
実際に図書館業界の方々とお話をしてみると、向こうには向こうの悩みと課題がある。一方で、作家としても、書店経営者としても、僕は業界の気持ちが重々分かる。だからこそ、対立構図の中にある関係者を、何かでつなげる方法はないかと考えて、ひねり出した一つのアイデアが「本の甲子園」なんです。
「本の甲子園」が正解かどうか、今の段階でははっきり分かりません。でも、「問題だ、問題だ」と、口先だけで言っているのではなく、一歩踏み出してから、考える。坂本龍馬だって日本には海軍が必要や、と思ったら、自分の足で幕府に掛け合って、資金を引き出したでしょう。そうやって相手の懐に飛び込んでいく勇気を僕も持ちたいのです。
書店業界の停滞は、すなわちサプライチェーン(供給網)の停滞でもありますが、それらを是正する動きも大手から上がっています。紀伊国屋書店、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)、日本出版販売が設立した「ブックセラーズ&カンパニー(東京・新宿)」や、丸紅、小学館、講談社、集英社4社が出資する「PubteX(パブテックス、東京・港」は、それぞれのビジネスモデルは違いますが、いずれもサプライチェーンのネックとなっている「返本率の低減」を掲げています。それらの動きはどう考えますか。
今村:返本率は減らした方がいいと思います。その上で、返本率の低減を突き詰めていくと、既存の販売データに頼る動きが加速されて、書店への新規参入がしんどくなるんじゃないかという心配はありますね。
そうならないように、大手は大手なりに各所で頭をひねっています。たとえばトーハンの小規模書店開業サポート「HONYAL(ホンヤル)」のように、20年前なら出版取次会社自身が断っていたような、少額の書籍取次も行うようになりました。
今村:確かに取次のビジネスも変わらざるを得ない。とはいえ、本の販売部数が減少している今の環境でビッグデータが主流になると、それが中間層やニッチの切り捨てにもつながっていくのでは、という恐れはあります。新規ビジネスの領域開拓は絶対に必要なんですが、新しい人たちが、ちゃんと参入できる余地もほしい。そこに気を付けていきたいですね。
民間の動きの一方で、政府は26年度から書店の存続に関する補助金やサポートを具体的に進めていくことにしています。それらの有効性については、どうお考えでしょうか。
今村:僕らの会社もほんまるの新規出店などに、DX(デジタルトランスフォーメーション)化の補助金や新規事業への補助金などを積極的に活用するつもりです。ただ、調べてみると、書店業界は補助金を使っている事例が少ないんですよね。
なぜでしょうか。
補助金を申請できない「あるある」な理由
今村:これらを使わない理由は大きく2つあると思っていて、1つは申請に手間がかかること。政府の補助金では「あるある」なんですが、担当者を1カ月ぐらい張り付かせないと、申請にこぎつかないぐらいの煩雑さ、難しさがあるんですよ。それで、そこに目を付けたコンサルとかが知らんうちに間に入って、手数料を取られてしまう。書店への補助金のはずが、結局、コンサルタントとかへの税金流入になってしまうパターンに陥りやすい。
お役所の補助金あるあるです。それらをはね返すしたたかさが、書店にも求められるわけですが。
今村:まちの書店は、そういう経営上の方策に取り組む機会が少なかったから、いざ、補助金を申請しようとすると、煩雑さに耐えられない。そこは変えていかないとダメですね。
もう一つ、書店が前向きに申請しない理由は、国が補助金を認める際に、書店従業員の賃上げ要件が組み込まれていることじゃないかと思います。書店経営者は補助金をもらっても、賃上げができなかったら、そのお金を返還する義務がある。世の中的に見たら、さほどむちゃな賃上げではないのですが、この業界においては、利益を圧迫するぐらいの怖い決断にはなるので、申請に腰が引けてしまう。
現在、書店はカツカツの粗利率でやっていますから、そこを恐れる気持ちは分かります。
今村:さらに難しいのが、補助金って申請が通っても、基本的に全額補助ではなくて、申請額の半分から、よくて3分の2の金額だというところです。
たとえば書店事業の存続のために1000万円が必要で、その事業計画に基づいて申請した場合、審査に通っても補助額は半分の500万、または3分の2の660万円になります。そもそも資金となる1000万円すら用意できない書店が、めっちゃ多い。僕は書店のBS(貸借対照表)をよく見ているのですが、債務超過か、債務超過ギリギリのところが多くて、これだと銀行からの融資も引っ張れへんやろうな、と思ってしまいます。
反転攻勢は、まず財務の立て直しからですね。
今村:それは当然と言えば当然の話で、どの業界も財務をきちんと回すことで、生き延びてきた。ただ書店に関しては、幸か不幸か、とりあえず本を仕入れて店頭に置いておけば、売れていく時代がけっこう長く続いた。なんとなく、どんぶり勘定できて、その意識から脱却することが、令和7年、8年になっても、まだできてないところがあります。
そこはまた前回でうかがった、「本」という商材の持つ特殊性にも、議論が戻っていくと思うのですが。(「『イクサガミ』著者が語る『ネトフリのすごみ』と『書店再興の難しさ』」)
今村:委託販売制度によって、在庫に資産性が担保されていて、金融機関の代わりに取次が商流を担っていた。だから銀行と丁々発止する経験も経営者にはない。それ以前に「本は文化だ」という「信仰」があるから、何かがあっても、神さまが守ってくださる、みたいな意識でやってきたこともあるでしょう。その過程では、いろいろな矛盾に直面しますが、古い意識からの脱却と、ファイナンス力を付けること。その2つが、やっぱり必要やね。
ベストセラー作家の方とお話ししている感が、どんどん薄くなってきました。(笑)
(→ 第3回に続きます)
[日経ビジネス電子版 2026年4月3日付の記事を転載]
清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)
