「俺、全然勉強してないよ」「私も」…中間テスト、期末テストの当日になるとクラスのあちこちで交わされた会話。これはネガティブな評価を受けたときに傷つかないように自己防衛をする「セルフ・ハンディキャップ」の一環だといいます。心理学者・榎本博明氏の日経プレミアシリーズ『【新装版】薄っぺらいのに自信満々な人』から抜粋します。

「できないアピール」で自分を守る心の構え

 自己アピールというと、自分の有能さや実績を強調する「できるアピール」を連想する人が多いかもしれないが、相手の攻撃を緩めたり、自分の傷つきを和らげたりするために、もっと消極的なアピールをすることがある。

 それを心理学では防衛的自己呈示という。防衛的自己呈示とは、自分が不適切な行動を取ってしまった場合や期待通りの成果をあげられなかった場合に、あるいは万一そのような事態が生じた場合のための予防策として、相手から向けられる否定的印象をできるだけ和らげるために行うものである。

 その中のひとつにセルフ・ハンディキャッピングがある。これは、自分にはハンディがあると強調したり、実際にハンディをつくり出したりして、失敗したときの傷つきを和らげようとするものである。

 いわば「できないアピール」によって、万一思うような成果が出せない場合に、ネガティブな評価を受けるのを免れようというものである。

 学校時代によく見かけたのではないだろうか。あるいは、自分自身もやっていたという人もいるはずだ。

 試験当日の朝の教室で、
「昨日は前から興味があった映画をテレビでやってたから、つい最後まで見ちゃって、全然勉強ができなかったんだ。参ったなあ」
 などと言う者がいたり、
「昨日からちょっと熱っぽくて勉強に集中できないんだ」
 などという者がいたりしなかっただろうか。どちらも典型的なセルフ・ハンディキャッピングである。

 万一試験の成績が悪かった場合のために、テレビを見ていて準備勉強ができなかったとか、体調が悪くて十分に勉強ができなかったし今日も力が発揮できそうもないというように、自分のハンディをアピールしているわけだ。

「全然勉強してない」アピールは、成績が悪かったときにクラスメートから「ダメな奴」と思われないための予防策?(写真:TAGSTOCK2/stock.adobe.com)
「全然勉強してない」アピールは、成績が悪かったときにクラスメートから「ダメな奴」と思われないための予防策?(写真:TAGSTOCK2/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 友だちとテニスをやるときに、
「このところやってなくて久しぶりなんだ。もう2カ月やってないかな」
 などと久しぶりだということを強調するのも、万一ヘタだったときのために保険をかけているのだ。

 友だち同士でスキーに行くようなときも、
「まだ3回目だから、ほんとの初心者でなかなかうまく滑れないんだ」
 と、一方が初心者であることをアピールすると、もう一方も、
「僕は何回も行ってるけど、ここ数年やってないから、ブランクが長くて初心者みたいなもんだよ」
 と、ブランクが長いことをアピールする。これなども、双方が万一相手と比べて自分があまりにヘタだった場合のために、セルフ・ハンディキャッピングという保険をかけているのだ。

 このようにして、人からネガティブな評価を受けて傷つかないように、必死の自己防衛をしているのである。

仕事の進捗確認で余分な説明をする人

 このように評価不安が強いと、ポジティブな評価が得られる自信がないときやネガティブな評価を受けてしまう可能性があるときなど、できるだけ失点を防ごうという思いが働いて、無意識のうちに余分な言い訳や自己呈示をして、見苦しい姿をさらしてしまう。

 たとえば、上司の側には評価しようなどという意識はまったくなく、ただ単に現状を知りたい、進行状況を知りたいと思って尋ねただけなのに、評価不安の強い部下は、防衛的な姿勢を取り、余分な説明をしようとする。

 ただ事実を知っておきたいという上司に対して、
「まだ準備段階で、来週から取りかかる予定です」
 と言えばすむところを、まだ取りかかっていない理由についてしどろもどろになって説明する。

 同様に、上司は交渉の進捗状況を確認したいわけで、
「現在交渉中で、鋭意説得しているところです」
 と答えればよいだけなのに、まだ決着がついていないことを非難されるかもしれないという不安から、こちらの提案に対して向こうがこんな要求をしてきたため、それに対してこちらからこういう再提案をしたが、向こうはまだ納得していないようで、などと訊かれていない細かな経緯や臆測まで説明しようとする。

 上司が、頼んでおいた書類がいつできるかを確認したいだけなので、
「もう8割方できてますから、今日中には仕上げてお渡しできます」
 と答えればすむのに、仕上がりが遅いと思われるのではないかといった不安から、今日中には仕上げると言うまでに、もっと早く仕上がる予定だったのに、じつはこんな事情があってまだ仕上がっていないなどといった言い訳がましい説明が入る。

 このような余分な説明は、評価を落としたくないという無意識的自己防衛によるものと言える。だが、残念なことに、そうした不必要な自己アピールをすることで相手をイライラさせ、かえって評価を下げることになりがちだ。

日経プレミアシリーズ
【新装版】薄っぺらいのに自信満々な人
成果はぱっとしない割に「できる風」のオーラをまといたがる人、SNS経由の薄い人脈をやたらと自慢したがる人…必要以上に自分を大きく見せたがる「あの人」の正体とは? SNSの普及で肥大化する承認欲求と評価不安を軸に、現代人の心理構造をひもとく。

榎本博明著/日経プレミアシリーズ/990円(税込み)