曖昧すぎる指示、短すぎる期限、すぐにぶれる方針…仕事で「むちゃぶり」をされた経験はありませんか? そのような上司の下で結果を出すためには、ちょっとしたコツが必要です。孫正義氏の下で、東日本大震災の復興支援や新型コロナウイルスのスクリーニング形式のPCR検査センターの設立など様々な難題を爆速で実行に移してきた池田昌人氏の新刊『 仕事は1枚の表にまとめなさい。 』(日経BP)から、大きな仕事をなし遂げるための小さな習慣を紹介します。2回目は、2つ以上の案で迷ったときの判断軸となる「効果分析表」についてです。
(前回「孫正義氏『PCR検査をやろう』…むちゃぶりに応えた『青字の表』」から読む)
あなたの思考を抜け漏れなく客観的に深めるための「2種類の表」
『仕事は1枚の表にまとめなさい。』では、主に2種類の表を使った情報の整理の仕方や企画の立て方、交渉の仕方を紹介しています。
1種類目は「5W1H表」と呼んでいるもので、その名の通り、5W1Hに沿って目的や概要、関係者、場所、時期、詳細をまとめたり、思考を深めたりするために活用します。
そして2種類目が、「効果分析表」と呼んでいるものです。効果分析表の主な役割はよりよい案を選ぶための、対案との比較検討です。ここでは、この「効果分析表」の作り方と使い方についてお話ししていきます。
「よりよいもの」を選ぶために必要な客観性
通常、ビジネスで何かを考える場合には、たった1案だけ考えて、最初に思いついた1案をとにかく推し進めるということはありません。いくつか、場合によっては何十も案を考えて、その中からよりよいものを選んでいくはずです。
ここで問題となるのが、「よりよいもの」とは何か、どういう基準で選ぶべきなのか、ということです。
例えば、3つの不動産物件を考えてみてください。1軒は郊外にある3LDK・庭付き・車庫付きの一軒家。2軒目は都心駅チカマンションの1K。3軒目は某高級住宅街にある5LDKの豪邸だとします。あなたにとって「よりよい家」はどれですか?
この場合、人によって、状況によって、目的によって、選ぶ家は違うはずです。不動産価値でいえば3軒目が一番高いかもしれませんが、自分でお金を払って住むとなったら、払いきれないかもしれません。あるいは、広すぎて部屋を持て余すなんてことも考えられます。
世の中でいわれている価値の高さが、自分にとっての「よりよいもの」と一致するとは限らないのです。
また、ここで挙げた3軒は極端なので、どれもよくない場合、例えばこの3軒から選ぶくらいなら、今住んでいる家に住み続けたほうがいいようなケースもあるでしょう。
「誰にとっても、どんな状況においても、何をするためにも絶対的にいい」ものが存在しない以上、どういう基準で検討するのかは、とても大切な視点です。
しかし、私たちはつい、自分のフィーリングだけで「これがよりよい」と決めてしまいがちです。
それが自分1人が住む1Kマンションなら、「なんとなくこの部屋が好き」と決めてしまってもいいと思います。しかし、仕事で何か企画を立てる場合、あるいは発注先を検討する場合などに、「なんとなくこれが好き」で決めることはできませんよね。
「なぜ、別の企画ではなく、この企画なのか?」
「なぜ、別の場所ではなく、ここで行うのか?」
「なぜ、別の発注先ではなく、この会社なのか?」
を、客観的な視点で明確にしておくことは必須です。
どんなにビジネスライクに考えようとしても、私たちは感情と思考を切り離すことはできません。
特に、何か愛着があったり、反対に嫌悪感が無自覚にでもあったりすると、フェアな視点で「よりよいもの」を選ぶことができなくなってしまうのです。
こうした人間の性質がある以上、「効果分析表」は、客観的な視点で、「よりよいもの」を明確にするツールとして非常に有効です。
「効果分析表」の作り方・使い方
実際に、ある新商品の体験イベントを開催する時期を、この「効果分析表」を使って考えてみましょう。
今を4月15日として、その会社の商戦期が2月、3月、7月、12月だとします。では、いつから動き出し、どのタイミングでイベントを開催するのが望ましいのでしょうか。
まず、縦軸です。縦軸には選択肢、この場合には体験会の開催時期が入ります。今から最速で準備をしたとして、5月に開催するのがギリギリそうです。
その後はいつでも開催できますが、商戦期はいつも通常業務で手いっぱいで、追加で体験会までは手が回らないでしょう。
そこで、商戦期を外し、販売に直接影響を与えない時期で考えることにします。
これらの前提条件をまとめると、
・販売に直接影響を与えない時期に開催(=商戦期を外す)
・当社の商戦期 2月、3月、7月、12月
・現在 4月15日
となります。この前提を踏まえると、縦軸は、次のようになるでしょう。
横軸には何が入るでしょうか。横軸に入れるのは、判断する際に重要となるポイントです。
ここでは仮に、上司からの指示の中で「なるべく早く」かつ「特別感のあるイベントに」という指示があったとします。この場合、「速度」と「特別感」は必須でしょう。その他、鑑みなければいけないのが、そもそも開催できるのかという「実現可能性」です。つまり、
・なるべく早く=速度
・特別感・限定感
・そもそも開催できるのか=実現可能性
の3つが横軸としてふさわしいといえます。
これで、時期に関する効果分析表の枠組みができあがりました。
ここまでできあがったら、今度は表を「縦に」見て、「総合評価」以外の空き列に、5段階で評価を入れていきましょう。
まずは「速度」。速度の点では「5月」が最速展開ですね。なので速度の5月のマスに「5」と書き込みましょう。次に早いのは「6月」ですから速度の6月のマスには「4」、「8月」は夏の商戦期を逃してしまっているので、「1」という具合です。
次に「特別感」です。イベントを豪華で特別なものにするためには、ある程度の時間は必要です。このように考えると、とにかく時間のない「5月」は「1」、「6月」であれば必要最低限の時間は確保できそうなので「3」。一方、時間がたくさんあったからといって、その分特別感が増すというわけではありませんから、「8月」も「3」と入れておきましょう。
続いて、「実現可能性」です。ここは、会場をおさえることができるかで考えるといいですね。
最後に、これまでに書き込んだ点数を「横に」足し合わせて、「総合評価」を書き込みます。
この表から、適切なイベント開催時期は6月だと言えるというわけです。
なお、この表の横軸は基本的に自分で考えて入れていきます。そのため、本当は必要だった基準を入れ忘れて検討した結果、本来は望ましくない候補が勝ち抜いてしまう、ということもあるでしょう。
本来望ましくない日程を提案してしまった場合、聞き手からは、
「なんでその時期を選ぶのか?」
とフィードバックされることになるでしょう。その際には作成した表を見せて、
「こういう理由で、この時期を選びました」
と説明すれば、
「この視点が足りない! やり直し」
となるはずです。聞き手の知恵を借りることで、結果として、よりよい時期を選定することができるでしょう。
判断基準を明確にするということは、基準自体が間違っていた際に、それを見直すことでやり直しが利くということでもあるのです。
「判断の根拠」を可視化する
ここで挙げた「イベントの開催時期」のようなシンプルな検討事項であれば、わざわざ表を作らなくても客観的な比較検討ができる人も多いでしょう。
しかし、例えば採用枠に複数人が応募していて、どの人を採用するのが一番いいかを選ぶ場合はどうでしょうか。こうした場合は、「好感」などの印象論に流されてしまったり、評価する人の立場によって評価がぶれてしまったりしがちです。また、「なぜある人が落ちて、別の人が通ったのか」を説明するのは難しいものです。
複数の候補を比較検討する際には、効果分析表を使うことで、「なぜこの評価になったのか」「なぜこの人はよくて、この人はダメなのか」が可視化できます。
あるいは、自社に既成のシステムを導入する際にどれがよりよいのかを判断したり、仕事のアサイン先を検討したりと、複数の候補から選んで決める際には大変有効なツールです。ぜひ、積極的に活用して、比較の精度を高めてください。
(図制作:OKIKATA イラスト:坂木浩子=ぽるか)
(次回に続く)
池田昌人(著)、日経BP、1760円(税込み)






