その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤原雅俊さん、伊丹敬之さんの『 顧客ニーズを射抜く 学び上手な企業の戦略思考 』です。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

 企業はいかにして顧客ニーズを学ぶとよいのだろうか。これが本書を貫く問いである。

 この問いを深く考えたいと思うようになったきっかけは、企業の経営幹部およびその候補者との対話にある。顧客ニーズの重要性は誰もが認めるものの、現実には多くの新製品や新サービスがほとんど注目されずに世の中から消えていく。顧客ニーズを射抜くことは誠に難しく、多くの企業人が悩んでいる。

 では、顧客ニーズをうまく射抜いた企業は、そこに至るまでの過程でいかにしてそのニーズを学び取っているのだろうか。この問いを分析することによって、顧客ニーズを学ぼうとする際に持つとよさそうな論理やフレームワークを仮説的ながらも示すことはできないだろうか。こう思ったのが始まりである。

 プロジェクトは、2021年に始まった。大きな拠り所になったのは、藤原とその師である伊丹がそれぞれに調査してきた事例である。現場調査に基づいて発表してきた論考を読み直し、今現在における業績の如何にかかわらず顧客ニーズの学習という点で注目すべき事例を抽出して、本書の基本骨格をつくり上げた。

 これまでの調査事例を振り返って感じることは、事例は老いても知見は色褪せないということである。したがって、経営史に残した方がよいと思える事例については、たとえ古くても本書で紹介している。そして新たに調査や取材を実施するとともに、多くの雑誌や新聞記事、当事者による書籍も分析した。

 この流れから明らかなように、本書は具体的な事例に基づいて論理を組み立てている。経営現象を起点にして論理を考えるこの帰納的アプローチは、伊丹研究室が信条としてきた分析スタイルである。藤原もまた、この思考法を重んじている。

 この意味において本書は、顧客ニーズに関する先行研究や学説を類型化して紹介する類いの教科書ではない。したがって、理論的な学説紹介を期待する読者のニーズは満たせそうにない。だが、事例から論理を組み立てる思考プロセスを好む読者のニーズには応えようと懸命に努めた。その成否については読者の評価を待つほかないが、本書で紹介する事例に基づいて、ぜひ顧客ニーズの学習論理を共に考えていただければ幸いである。

 過去の調査事例を再解釈する過程は、これまでの研究道程をたどるようで実に愉しい取り組みであった。伊丹と藤原がそれぞれ独自に調べた事例もあれば、時に国境を越えて行った共同調査事例もあった。それらを解き明かすたびに、一つひとつの場面が鮮やかに甦り、現場で活躍されていた方々の顔が浮かぶ。調査にご協力くださった皆様に、心から感謝したい。

 本書がささやかな恩返しになれば、望外の喜びである。

  2025年12月

藤原雅俊

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示