その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はゾラン・ニコリッチ(著)、高崎拓哉(訳)の『 世界のものすごく小さな国 』です。
【はじめに】
世界の地形図を見ていると、地球がすばらしく多様な星であることがわかる。美しい山脈が延び、その中には緑に覆われた場所もあれば、白い雪をかぶった山の頂もある。その脇には、貴重な水をたたえ、豊かな生命を育む大河があるかと思えば、すぐそばにはまったく異なる光景が広がる。広大な砂漠の上で、砂丘が風に吹かれて日々生まれては消えゆくのだ。生命のゆりかごたる大洋は地表の3分の2以上を占め、驚くような姿形の動植物を育んでいる。
一方で政治地図、いわゆる世界地図を見ると、そこにはさまざまな色に塗り分けられた区画がある。無数の(暫定的なものを含めた)領土を表した区画だ。その中には、国内で時差のある巨大な国もあれば、1日か2日で歩きまわれる小さな国もある。何本もの線も描かれている。国境という、どこまでが「われら」のもので、どこからが「彼ら」のものかを示す線だ。
タイムマシンを使って衛星画像を撮れる装置を過去に送り込んだら、何が見えるだろうか。地形図であれば、現代人が100年前、500年前、1000年前のものを見ても、場所の見分けはつくだろう。森が今より多かったり、今ある街のいくつかはまだなかったりするかもしれないが、基本的に地形はどこもそう大きくは変わっていない。
一方で、送り込んだ衛星に国境を写したり、政治地図をつくったりする機能があったら、話は変わってくる。100年前の地図は今とはずいぶん違っているだろうし、500年前の地図はまったくの別もの、1000年前の地図に至っては、歴史に詳しい人間でないかぎりまったく理解不能なはずだ。今では無数の国に分かれた場所に、ひとつの大国が鎮座している地域もあるだろうし、逆に今ではひとつの国として統一されている土地に、無数の小国のジグソーパズルが広がっている地域もあるに違いない。国の「賞味期限」や「有効期限」を予測することは誰にもできない。小さくても長く生き残る国もあれば、その横ではあっという間にいくつもの小国に分かれたり、別の大国に呑み込まれたりしている国がある。
この本は、世界のとりわけ小さな国々を紹介するものだ。その中には一瞬で消え去った国もあれば、時の試練をくぐり抜けた国もある。本書では、そうしたものすごく小さな国が誕生し、消えていった経緯と理由を、簡単に解説していくつもりだ。各国の特徴や、社会や自然の変化への対応、そして今はなき国々が残したものも見ていく。
【マイクロステートとマイクロネーション】
「国家」とは何かを正確に定義するのは難しい。ある地域が国家とみなされるには、いくつかの条件を満たす必要があるが、条件を満たしても万人から国家だと認められるわけではない。国家の肩書きを得るための条件を以下にいくつか挙げよう。
- 正確に、はっきり描かれた境界の中に、明確に定義された領土を持つ(もっとも、自然や人間などのさまざまな要因で、正確に描くのは難しい場合も多い)。
- 明確に定義された権力機構があり、それが社会秩序を形成・維持・保護している。しかし領土と同じで、さまざまな要因から、当局が行動を起こすのが難しいケースがある。
- 広範な主権があり、それを用いて他国と望ましい関係を独自に結ぶことができる(連邦国家の構成国や保護国など、部分的な主権しか持たない国家もある)。
- 領土の中で暮らす住民、すなわち国民がいて、その国家の国籍を有している。
- 他国や国際的な組織から国家と認められている。これは国家を維持・運営するためにとても重要な条件だ。国家は独立を認められても、認められなくても存在すること自体はできるが、それだけで自分たちのものだと主張する領土に対して完全な主権を持てるわけではなく、物理的には存在しない国もある。たとえば亡命政府は、存在しない国家を公式に代表する機関だ。
この本で紹介している国家は、これらに加えて、極小国家(マイクロステート)と呼べるくらい領土が狭いというもうひとつの条件を備えている。
本書では、極小国家(ミニ国家)とは(少なくとも部分的な)主権を有する国家、つまり狭い領土に対して権力を行使できる国を指す。狭い領土とは、具体的には2500平方キロメートル以下とする。
注意点として、すでに存在しない国に関するデータは、基本的に不正確か、概算でしかない。古い時代の国家については特にそうで、当時は国境が正確に定まっていたわけではなく、国勢調査は行われていたとしてもたいていおおざっぱだった。
もうひとつの重要なポイントとして、極小国家(マイクロステート)と極小国(マイクロネーション)は同じではない。マイクロステートは正式な国家で、国家としての特徴を(ほぼ)すべて持っているが、マイクロネーションはもっと非公式なもので、ある土地や建物を独立した国だと宣言できるだけの法的根拠がない。そのためマイクロネーションは、ほかの正式な国家からは国家として認められていない。
【目次】


