その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は頼藤太希さん、高山一恵さん共著の『 11歳から親子で考えるお金の教科書 』です。
【はじめに】
「うちの年収っていくらなの?」 ―― 子どもからそんな質問を受けて困ったという話をよく耳にします。どう答えたらいいものでしょうか。
「そんなこと、子どもは知らなくていいのっ!」などと叱りつけて、切り捨ててしまうのも気が引けます。これからの社会を生き抜いていくうえで、お金の話は大事。学習指導要領の改訂により、2022年4月から高校の家庭科で「資産形成」の授業がスタートしましたが、家庭での金融教育にも力を入れる必要があると思います。
私たちは、夫婦ともファイナンシャルプランナー(FP)で、これまでに2000人以上の個人マネー相談にのってきました。
若い人のご相談を受けて驚かされるのは、有名な大学を出て、大企業で働く20代、30代から、実は、数百万円の借金があると打ち明けられる機会が少なくないことです。理由としては、クレジットカードのリボ払いやFX投資が多いです。さわやかで利発そうな若者から、「もうすぐ結婚するので、それまでにこの借金をなんとかしたい」といった相談を受けることが、実際によくあるのです。一方で、堅実にお金を貯め、積立投資などで戦略的にお金を増やしている20代、30代も多くいます。
今の若い人たちの金銭感覚は二極化しているようです。そんな金銭感覚の格差は、学歴や職歴とはあまりリンクしていないようです。お金と上手につきあうスキルは、進学に必要な学力や、就職に必要な社会的スキルとは少し違って、別の教育が必要です。
個人マネー相談を重ねるなかで痛感するのは、金銭感覚は、なんといっても親の影響が大きいということ。お金を貯めたり、増やしたりするのが上手な人は「親が家計管理にうるさかった」「親が資産運用をしていて、教えてもらった」などとおっしゃいます。親子の会話のなかにある「お金の話」が、お金の教育ではとても大事です。
そんなことは、誰もが多かれ少なかれ、感じているのではないかと思います。お金は人生と切っても切り離せないとても大切なもの。だから、子どもにはしっかりとした金銭感覚を身につけてほしい。けれど、自分自身、お金のことを正しく理解できているかというと、ちょっと心もとない。あるいは、子どもとお金の話をするのがなんとなく気が引けたりして、お金について伝えるきっかけがつかめない。
そんなモヤモヤを感じる方も多いのではないかと思って書いたのが、本書です。
私たちも11歳の息子ヒロを育てています。夫婦ともFPですから、ヒロが幼いころから、お金についてどう教えるのがいいのだろうかと試行錯誤してきました。ひとつの結論として、11歳になる小学校5年生というのは、お金について体系的に教えはじめるのに、いいタイミングだと思います。小学校5年生というと、学校で「百分率(パーセント)」を習う学年。4年生で学びはじめる「割合」の扱いにも慣れてきて、なにかと比率が出てくるお金の話を理解する素地が整ってきます。それと同時に社会への関心が広がる時期です。だからこそ、親の年収をしつこく尋ねてきたりします。
せっかく子どもがお金に関心を持ったなら、お金の学びにつながる答えを返したいものです。子どもの「知りたい!」に答えるかたちで、親として、として伝えたいことを伝えるには、どうしたらいいかを考え、本書にまとめました。
執筆に先立ち、ヒロやその友だち、ママ友、パパ友に「お金について知りたいこと」や「お金について子どもに聞かれて困ったこと、うまく答えられなかったこと」などをヒアリングしました。「年収」に「電子マネー」「投資」「暗号資産」「NISA」など、さまざまなトピックが浮かび上がりました。これらを、お金を「上手に稼ぐ」「上手に使う」「上手に貯めて、上手に増やす」という3つの章に分けて、取り上げます。
生きていくには、お金を稼がなければなりません(上手に稼ぐ)。けれど、お金はただたくさん稼げばいいというものではなく、稼いだ収入の範囲内でメリハリをつけて、お金を上手に使えば、幸せに生きていくことはできます(上手に使う)。お金を上手に使い、将来のためにお金を貯めることが大事です。お金を貯める仕組みをつくり、貯蓄に加えて、堅実な投資を実践する(上手に貯めて、上手に増やす)。これができれば、人生100年時代も力強く生き抜いていけるでしょう。本書を通じて私たちがお伝えしたいメッセージです。
本書では、25個のトピックを、FPママとFPパパ、そしてヒロの3人家族の会話形式で、まとめています(説明の都合で、ホントのわが家の事情と違うところも少しあります)。楽しく学べるように、1コマ漫画やイラスト、図解を多く入れました。難しいところもあるお金の話を、子どもにどう説明するのがいいのか。原稿を少し書いては、ヒロに話して、ちゃんとわかってもらえるかどうか、飽きずに楽しく話を聞いてもらえるかどうかを確認しながら、書き進めました。
結果として、大人がお金の基本を学び直すのにもちょうどいい1冊になったと思います。中学受験や高校受験で問われるような「社会」の知識も含みます。FP家族の会話は「回答例」のひとつで、絶対の正解というわけではありません。図解したさまざまなデータや資料などを、会話や学びのきっかけにしていただければと思います。
日本では、家族のあいだでも、お金のことを話すのは気が引ける、はしたないという意識が強いように感じます。家族のあいだだからこそ、気が引けるときもあるでしょう。けれど、子どもは好奇心旺盛。日々の生活のなかで、さまざまなお金の話を見聞きしては、「うちの親の年収ってどれくらいなんだろう?」「どうしたらお金持ちになれるんだろう?」といった疑問をたくさん膨らませています。親が疑問に答えてくれないと、怪しいところから知識を引っ張ってきてしまいかねません。
さて、冒頭にお示しした「うちの年収っていくらなの?」に対する「正しい答え方」とは、どのようなものでしょうか。FP夫婦も思わずたじろいだこの質問への対応は、第1章で、お伝えします。本書が、親子で楽しくお金について学ぶきっかけとなるなら、うれしいかぎりです。読者の皆さんのお役に立てることを心から願っています。
2023年3月
頼藤 太希
高山 一恵
【目次】