その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は峯本展夫さんの『 プロジェクトマネジャーになる(日経文庫) 』です。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】

プロジェクトを生きる

 「プロジェクトマネジャーに未来はあるか」

 こんな疑問を持つ人もいるでしょう。プロジェクトマネジャーに限らず、AIの出現により社会の構造が変容していく真っ只中にいる私たちは、誰しもが、未来の職業に関しての漠然とした不安を少なからず抱えています。

 プロジェクトマネジャーという職務を皆さんはどう捉えていますか。「管理」や「調整」の仕事と見られがちであり、できれば避けて通りたいという方が多いかもしれません。この道を歩んできた私が今、感じるのは、それが人間そのものを深く見つめる営みだということです。冒頭に「プロジェクトを生きる」と書いた所以です。

 実は、私自身もプロジェクトに関わるようになったころ、いろいろなことを背負いこむリーダーのようなポジションはできることなら避けたいと考えていました。仕事には前向きに取り組んでおり、自分の担当する業務で成果(Performance)を出すことに意識を向けていました。

 けれども、あるとき、自分だけで仕事ができるわけではないと気づきました。あるプロジェクトで作業が思うように進まず行き詰まっていました。そんなとき、
「おまえが心配していたら、みんなが心配するぞ」
 と声をかけてくれた友人がいました。普段は寡黙な彼が、自ら声をかけてきたことに驚きました。その瞬間、その友人の眼からみた自分が見えました。私の周りには「一緒に仕事をしている仲間がいる」、そんな当たり前のことが私には見えていなかったのです。

 人の思いを推し量り、話を聞き、違いを受け入れ、見えない前提を問い、可能性を信じ、自らが決断する。その連続の中に、プロジェクトの本質があります。

 私たちはプロジェクトを「進める」だけでなく、プロジェクトを通じて自分自身が何者であるかを問われています。だからこそ、プロジェクトを表層的に「管理する」のではなく真摯に「生きる」ことが大切なのだと思います。

 本書は、今を生き、未来を描くための実践ガイドとして書きました。ここにある考え方やフレームは、完成された答えではありません。むしろ、読者一人ひとりが現場で、自分自身の意図と状況に照らし合わせながら、新たな問いを立てていくための「思考の装置」です。

 もしあなたが今、迷いや不安の中にいるとしても、どうかその状態を否定しないでください。不確実さに立ち向かうことは、恐れではなく「誠実さ」の証です。あなたの中にある「真摯さ」こそが、チームの信頼を生み、決断の質を高め、未来を動かす力になります。

 関係者の認識に想いを馳せ、意図をもって行動し、
 その健全な意思決定の連鎖が新しい価値を生み出す。
 ──その一貫したアプローチによって成功が導かれます。

 AIが進化しても、人が未来を描く力は失われません。むしろ、技術が進むほど、「人が何を信じ、どう決めるか」が問われます。迷いながらも、誠実に問いを立て続けること。それが、わたしたちの未来を導く最も人間的な力です。

「人は自分の深い願望のごとくになる。
願望は、意図のごとくになる。
意図は行いのようになる。
行いは、宿命のごとくになる。」

(ブリハッド・アーラーニャカ・ウパニシャッド 第4章第4節第5句)


 紀元前700年──今から二千年以上前に生まれたこの思想は、驚くほど現代に通じています。人の行動、そして未来は、表層の知識や手法の巧拙ではなく、私たちが内面にどのような願望と意図を据えているかによって導かれている。このシンプルで普遍的な真理は、「プロジェクト」という営みに勇気と方向性を与えてくれます。なぜなら、プロジェクトとは、まだこの世に存在しない価値を思い描き、そこへ向かって人と共に歩み、未来をつくり出す挑戦だからです。

 未来は、蓄積された過去の知識の延長ではなく、何かを実現しようとする1つの意図から始まる。そして、その意図を現実の行動と成果へとつなげていく者を、私たちは「プロジェクトマネジャー」と呼ぶのです。

 あなたが次に挑むプロジェクトで、自分の願望と意図を信じ、仲間とともに未来を描き、実現していくことを心から願っています。

著者 峯本 展夫

本書の主旨と構成

 プロジェクトマネジャーは、「与えられたタスクを管理する人」ではありません。不確実性の中で光を見いだし、ありたい姿を描き、その実現を信じ、人と協働しながら前へ進みます。

 「どんな未来を創りたいのか」「そのために、どんな意図で、どう行動するのか」──その内側から立ち上がる心の問いこそ、プロジェクトマネジャーのあり方を決め、成功を導く核心です。

■未来は「定め」ではなく「選択」である
 現代の研究では、「人の意識」は協働を通じて進化してきたと言われています。つまり「意図を言葉にし、人と力を合わせること」は、人類が未来を切り開いてきた原動力なのです。ウパニシャッドが示した「宿命」という言葉を、私たちは「変更できない運命」ではなく、「自ら選び取る未来の可能性」と捉えることができます。

 その未来を選び取る力──それが、現代のプロジェクトマネジャーに求められる資質です。

■プロジェクトの成功は意志と協働から始まる
 本書は、「プロジェクトの成功」を理論ではなく現実の実践として捉え、成功に向けた思考と行動のモデルを提示します。

 まず、プロジェクトを動かすための3つの実践力に焦点を当てます。

 交渉力:願望や意図を他者と折り合いをつけて協調に導く力
 企画力:未来のありたい姿を描き、価値へと構築する力
 先見力:未来の不確実性に向き合い、変化を見極めて対応する力

 これは単なるスキルの寄せ集めではありません。3つが結びつくことで、プロジェクトは動き出し、人と組織、社会に価値が生まれます。

■視座を上げる──立体的に考え、未来を導く
 プロジェクトを成功させるには、目の前の課題だけにとらわれるのではなく、高い視座から全体の構造を捉える思考が不可欠です。

 その思考によって、関係者が「そのゴールは自分にとっても価値がある」と身を乗り出すような未来を提示できたとき、協力と創造の力が最大化されます。

■すべては意思決定の質に収斂する
 そして、これらの3つの力を支えるものがあります。
 意思決定の質です。
 プロジェクトマネジャーは、日々さまざまな迷いに直面します。

「どこから手をつけるべきか」
「前例のない意見に耳を傾けるべきか」
「効率性だけで判断してよいのか」
「正しい決断とは何か」
「この選択は本当に未来につながるのか」

 いずれも教科書に載っていない問いです。現場で、人と向き合いながら、決断し、前へ進む中で生まれる本質的な問いです。

 この問いに皆さんが答えられるように本書は意思決定を磨くためのフレームを紹介します。これはプロジェクトの現場で出てくる迷いに対し、「その場その瞬間に」意味を持ち、変化とともに深まり続ける思考と行動の軸を提供します。

 現場のリアリティと、人の内なる動きを統合し、未来を構想し、仲間と進み、現実を動かす力が増殖していく、生きた思考のエンジンです。

 言い換えれば、人が未来を決め、他者と協働し、価値を創造するプロセスそのものを体系化したものです。一般的な手法の寄せ集めでも、手順通りにチェックすれば十分という種類のものではなく、静的なノウハウでもありません。

 この現実に応じて動的に働く意思決定の態度を身につけたとき、あなたはチェックリストに従う管理者ではなく、不確実な未来を設計し、選び取り、形にしていく価値創造者としてのプロジェクトマネジャーになります。成功への確信、姿勢の一貫性、本質を問い続ける粘り強さ。こうした内面的な態度(attitude)がプロジェクトを本当に成功へ導く決断力を育てるのです。

 本書は、そうしたプロジェクトマネジャーになるための道筋を示します。実践力と意思決定の質を高めるために、体系的な構成をとっています。読者が一歩ずつ理解を深め、実際のプロジェクトに応用できるよう、章ごとに段階を踏んで進んでいきます。

 まず「第1章 プロジェクトを成功させよう」では、プロジェクトマネジメントの本質を意思決定の観点から捉え直します。プロジェクトの成功をどのように定義するか、そしてそれを踏まえて成功への意思決定の「拠り所」となるプロジェクトチャーターについて紹介します。さらに、成功の表層と深層を整理した「成功の氷山モデル」を通じて、見えにくい思考や態度の重要性を示します。

 「第2章 意思決定の質を高める」では、本書の根幹となるテーマを扱います。ここでは、他のプロジェクトマネジメントの書籍には見られない、意思決定の質を引き上げる独自のフレームを提示します。

 多くのプロジェクトマネジャーは、「正しい選択をしたい」と願いながら、現場で揺らぎ、迷い、時に孤独を抱えます。経験や知識だけでは突破できない局面で力になるのは、プロセスや手法ではなく、考え方の土台そのものです。

 成功への確信、インテグリティ、そして知識と実践のあいだに横たわるギャップ──。プロジェクトマネジャーが抱きがちな不安や揺らぎに向き合いながら、意思決定の質を引き上げるためのフレームと、バイアスとの付き合い方を探ります。

 「第3章 立体的に思考しよう」では、「立体的な思考」によって現実を多面的に捉える方法を学びます。交渉力・企画力・先見力といった実践力を「立体思考」の視点から深めます。交渉の「すべり台アプローチ」や「共感」のポイントの見つけ方を具体的に取り上げ、自己診断やケーススタディを通じて実践力を高める方法を示します。

 「第4章 セルフトレーニングで思考を鍛える」では、読者自身が実践的に思考力を鍛えるための多様なトレーニングを用意しました。抽象化・メタ認知・情報整理などのトレーニングに加え、生成AIを「パーソナルトレーナー」として活用する方法を提案しています。自分の思考の癖を知り、AIを通じてパーソナル・メニューを作成することで、読者は自らの成長を加速させることができます。

 「第5章 プロジェクトマネジメントの基本を知ろう」では、「プロジェクトマネジメント」と「プロジェクト管理」の違いを明確にし、世界標準のプロジェクトマネジメント知識体系とPMBOK®ガイドがどのようなコンセプトで構成されているかを説明します。これらを理解することで、読者は世界標準の知見として普遍的かつ実践的な基盤を身につけることができます。

 そして「第6章 プロジェクトマネジメントで実践する」では、これまでの学びを実務に接続します。ステークホルダー分析やコミュニケーション戦略マップ、SWOT分析やプロジェクト戦略マップ、さらにアサンプション(前提条件)の妥当性を確認するシートの勘所を紹介し、実務に活用できるようにしています。

 また、本書に登場する重要な考え方については「キーコンセプト」として別項で解説しています。箸休めのコラムではないのでぜひ読んでください。

 本書を読むことは、読者が自身の思考を深め、視点を立体化し、実践を変えていく「学びのプロジェクト」です。目指すのは、実践の現場で交渉力・企画力・先見力を発揮し、質の高い意思決定を積み重ねることです。そのために必要不可欠な本質を体系的に整理し、さらに生成AIを活用して自分自身に最適化されたトレーニングを行えるように構成しました。

 あなたがプロジェクトマネジャーとして、そして価値創造の担い手として、より確かな意図と希望をもって未来を選び取れるよう、一緒に進んでいきましょう。

【目次】

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