その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は安井政樹さんの『 「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす AI×学び入門 』です。

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【はじめに】
AI時代に「親として大切にしたいこと」

 新しい技術が登場するとき、私たちはいつも、期待と不安のあいだに立たされます。
 車や電車は、いまや社会に欠かせない存在です。
 遠くまで行ける。時間を節約できる。重い荷物も運べる。
 しかしその一方で、便利さに頼りすぎれば、運動不足になり、体力が落ちることもあります。だからこそ、私たちはときどきこう考えます。
 「今日は少し歩こうかな」

 もし、「自分の足腰なんてどうでもいい」「ラクができればそれでいい」というマインドであれば、この思考自体、生まれません。これは技術の問題ではなく、向き合う私たちの姿勢の問題です。AIもまた、同じです。

 もちろん、AIには他の道具とは決定的に異なる点があります。それは、包丁や車のような「目に見える道具」とは違い、AIは私たちの「思考プロセス」そのものを水面下で代替し、無意識のうちに深い依存を招きやすいという性質です。
 AIがどのように答えを導き出したのか、その過程が見えにくい(不可視である)からこそ、私たちは単に便利に使うだけでなく、自分の主体性を保つための使い方を意識することが不可欠なのです。

「自ら学べる子・学びを楽しめる子」とAI

 人間は、本能的にラクなほうへ流れます。苦しみを避けるのは自然なことです。「自分で考えなくても答えが出るなら、そのほうがいい」と思うのも無理はありません。
 しかし、そのとき私たちは何を手放しているのでしょうか。

 雪を見たことのない子どもが雪をイメージできるのは、絵本や映像で見た経験があるからです。けれど、実際に雪に触れたことのある子どもの実感には敵(かな)いません。冷たさ。重さ。手のひらで解けていく感覚。それは、言葉だけでは届かない世界です。

 AIがどれほど豊かな言葉を紡(つむ)いでも、それを子どもが「実感」として受け取れるかどうかは、まったく別の問題です。
 「わかる」とは何か。「考える」とは何か。AIは、子どもの思考を助けるのか、それとも奪うのか。こうした問いは、世界中で議論され、研究が進められています。AIの使い方によっては、子どもが考えなくなるのではないかという不安もあります。
 けれど本書がスポットを当てるのは、もっと身近な問いです。
 家庭で、親として、AIと子どもをどうつなげばよいのか。

 AIの技術的な仕組みや最新動向を知ることも大切です。しかし多くの方が本当に気になっているのは、「うちの子に、どう向き合えばいいのか」ではないでしょうか。本書では1冊をかけて、この疑問について一緒に考えていきたいと思います。

「AIとの付き合い方」にはまだ、「正しい答え」はない

 私はこれまで、道徳教育を専門として子どもたちと向き合ってきました。
 また、文部科学省の学校DX戦略アドバイザーとして、全国の学校でAIリテラシーの授業づくりに関わり、出前授業や講演を行っています。
 そうした取り組みを通して子どもたちや先生方とともに考え続けていることこそ、「AIとどう向き合うか」です。

 AIは“敵”でもなければ、“救世主”でもありません。
 子どもを映し出す鏡のような存在です。
 問いを持つ子には、思考を広げる相棒になります。問いを持たないまま使えば、思考を止める道具にもなります。

 大切なのは、AIを使うかどうかではなく、どんな心で、どんな問いを持って使うのか。そして、子どもの心を支えるのは、家庭での何気ない会話だということです。
 言うまでもなく、AIを使いこなすための教育は、家庭だけで完結するものではありません。子どもたちが何の知識も備えもなくデジタルの荒野に放り出されるリスクを避けるためには、家庭、学校や地域、そして社会全体の取り組みが不可欠です。そこで求められるのは、大人が先回りして禁止するのとは違う、「安全でクリエイティブな使い方」をともに考え、伝えていく土壌です。
 そうした土壌は残念ながら、すぐにできるものではないでしょう。だからこそ、家庭での取り組みが重要なのです。

 本書では、AIを禁止する方法でも、無条件に推奨する方法でもなく、子どもの「考える力」と「感じる力」を育てるための、AIとの向き合い方を提案します。
 AI時代の子育ては、技術の問題ではなく、人間観の問題です。本書が、ご家庭での対話のきっかけとなり、親子で「考える」時間を増やす一助となれば幸いです。


【目次】

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