その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は 『ゲームチェンジの世界史』 です。

【まえがき】

ジェンガ」というゲームがあります。

 初めに木片(パーツ)を塔のように積み上げておき、参加者が順番に一本づつ木片(パーツ)を抜き取っていくゲームですが、ゲームが進むごとに塔は不安定になっていき、ある臨界点に達すると塔全体が一気に崩れ落ちます。

 じつは、これと同じことが歴史・社会・国家でも起こっています。

 ある時代に生まれた政治・経済・文化などといった社会を構成する要素が、お互いに密接かつ複雑に絡み合いながらひとつの安定した社会を紡ぎ出すことがあります。

 このときが所謂(いわゆる)「泰平の世」です。

 ジェンガでいえば、ゲームが始まる前のもっとも安定した〝初期状態〟に当たります。

 しかし、社会機構(システム)というものはひとたび安定すれば〝固定化〟してしまいますが、世はつねに移ろいゆくため、徐々に〝社会機構(システム)と現実が乖離(かいり)〟していき、それにより社会は次第に不安定になっていきます。

 この状態をジェンガで喩(たと)えれば、〝ゲーム進行中〟に当たります。

 ゲーム進行中、塔は一見微動だにしていないように見えます(社会機構(システム)の固定化)が、じつは一手進むごとに不安定になっていき(社会機構(システム)と現実の乖離)、そして〝最後の一本〟が引き抜かれたとき、高々と積み上がった塔が一気に倒壊します。

 同じように社会も、現実との乖離が〝臨界点〟に達したとき、一気に社会の崩壊が始まり、そうした時代が一般的に「乱世」「激動の時代」と呼ばれます。

 時とともに「乱世」は収まり、ふたたび社会は安定期(泰平の世)を迎えることになりますが、そこでは乱世前の安定期とはまったく異なる制度・体制・機構(システム)・社会理念となっているため、歴史家は乱世前を「旧時代」、乱世後を「新時代」としてそれぞれに固有名詞を与えることになります。

 このように「従来の枠組・常識・ルールがまったく通用しなくなること(ジェンガの塔が倒れるとき)」を今風の言い方で「ゲームチェンジ」と言います。

「歴史」というものはゆっくり〝なだらかに変化〟するのではなく、「泰平の世(安定期)」と「激動の時代(変革期)」を繰り返すものですが、ジェンガで塔が倒れるのは〝最後の一本(ワンピース)〟を引き抜いた瞬間であるように、時代が「激動の時代」に入るときには、何かしら〝引き金となるような契機(きっかけ)〟があるものです。

 本書は、それを世界史的観点から俯瞰(ふかん)することで、現在の我々が「ゲームチェンジ」の只中に置かれている歴史的立場を理解していくことをコンセプトとして書き上げられたものです。

「泰平の世(戦後70年の日本)」に生きる者は、他人(ひと)と同じやり方で他人(ひと)並みの努力をしていれば、他人(ひと)並みの生活が保証されますが、「ゲームチェンジ(現代)」の中に生きる者が同じことをすれば、他人(ひと)と同じように没落していくことになります。

 では、どうすればよいか。

 そのためのヒントはやはり歴史の中に隠されています。

 人類は過去、数々の「ゲームチェンジ」を経験してきました。

 では、それら「ゲームチェンジ」はどのようにして生まれ、展開したのか。

 そしてその渦中にあった当時の人々は、その〝疾風怒濤(シュトルムウントドランク)〟の荒波にどのようにして耐えたのか、亡びていったのか、はたまたむしろこの荒波を〝ビッグウェーブ〟と変えて波に乗り、我が世の春を謳歌したのか。

 それを歴史の中から拾い上げ、自身の人生で実践できた者だけに「ゲームチェンジ」後の新時代を生きる〝資格〟が与えられるのです。

 それでは、具体的に見ていくことにしましょう。

ジェンガ イギリス発祥のテーブルゲーム。初めに直方体の木片を積み上げておき、木片を引き抜いては最上段に積み上げていく動作を繰り返します。そして最後に塔を崩した人が負けというパーティーゲーム。
ゲームチェンジ 元はビジネス用語に端を発するもので、日本の歴史で喩えるなら「幕末の封建体制から明治の中央集権体制への動き」がまさにゲームチェンジといえる。


【目次】

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