その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は総指揮 安保雅博さん、編集・著者 高尾洋之さんの『 闘病した医師からの提言 iPadがあなたの生活をより良くする 』です。
【はじめに】
高尾洋之と申します。2001年から、東京慈恵会医科大学の脳神経外科で医師として仕事をしてきました。現在は、先端医療情報技術研究部の准教授としてデジタル医療の仕事をしています。
私は3年前に突然倒れました。4カ月間意識がなく、目覚めた時には四肢麻痺(まひ)で目しか動かせず、呼吸器をはじめ体中に管がついている状態でした。重症のギラン・バレー症候群でした。
3年が経過した今は、体から管は外れ、口から食事ができるようになりました。まだ以前と同じとはいかないものの、再び自分の声で話せるようになりました。ただ四肢麻痺の程度は少し改善したという程度で、肘は曲げられるものの、指はまだ自由には動かせません。
この病気になった直後、一番辛いと感じたのはコミュニケーションが取りづらくなったことです。体を動かせず話もできない私が、コミュニケーションが取れるのか? そもそも、私は理解ができているのだろうか? 周りの人はそう思っていたに違いありません。
「アクセシビリティ」とは、その頃に出会いました。障害がある人が使うと便利な機能を「アクセシビリティ」と呼びます。声や視線やスイッチなどで、コンピューター、スマートフォン、タブレット、AIスピーカーなどを操作できるようにし、本人の生活環境や仕事環境を良くすることを目的とするものです。
まず、目だけでパソコンを操作してみました。顔を少し横に動かして頬にあたるセンサーを使って機器操作に挑戦しました。声だけで動作するAIスピーカーを使ってテレビや電気の操作ができるようになり、視線と舌を出すことでコントロールしたり、スイッチボタンを押しiPadを操作したりしました。
恐縮ながら、元気だった頃には知らないことばかりでした。これ以外にも、知っていればデバイスを使えるのに、知らないがゆえに使えない、ということが多々ありました。私の場合は、たまたま周りにアクセシビリティに詳しい方に恵まれており、そのおかげで導入できました。大変感謝していますが、もしもそういう状況でなかったらどうなっていたことでしょう。
そこで私は、アクセシビリティのことを必要とする方にもっと知っていただくために、この本を通じて詳しくお伝えしようと思いました。意識が戻ってから、私が様々なツールを使って実感したことや、さまざまな障害を持つ方がアクセシビリティ機能のある機器をどのように活用しているか、ご協力を得まして詳細に記しています。私のことも含めすべて実体験ですので、分かりやすく理解しやすいものになっているかと思います。
また、この本ではこれまでにない実用的な試みもしています。この機能はこんな人たち向けだ、とガイダンスになるような「アクセシビリティタグ」を各節につけて、一度通読したあとでも、索引のように使っていただくことで繰り返し辞書のように使えるようにしました。第1章で詳しく説明しますが、きっと皆様のお役に立つと思いますので、ぜひ活用してみてください。
みなさん 、アクセシビリティを知って、誰一人取り残さない世界を作りましょう。みんながハッピーになるためのアクセスを提供する、創り出す、それがアクセシビリティです。一緒にこの新しい世界を楽しんでいきましょう。
総監督
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション講座 安保 雅博
編集・著者
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部・脳神経外科学講座 高尾 洋之
著者
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション科 鈴木 慎
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 竹下 康平
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 信朝 裕行
東京リハビリテーションセンター世田谷 作業療法士 土井 一馬
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部
一般社団法人結ライフコミュニケーション研究所 研究員 高橋 宜盟
CSI(Communication for Smile and Innovation) 代表 島津 あすか
【目次】