目立った成果はあげていないのにほめられるのが当然と思っている部下、持ち上げられないとすねてしまう上司。職場にいると何とも面倒くさい彼らの心理的背景と対処法は? 心理学者・榎本博明氏の日経プレミアシリーズ『【新装版】かかわると面倒くさい人』から抜粋します。

ほめられたがりは甘えが強いから

 このところ目立つのが、ほめられないとやる気をなくすタイプだ。
 逆境にもかかわらず必死の頑張りを見せたときや素晴らしい成果を出したときにほめられる。それがふつうだ。やるべきことをきちんとこなしているだけでほめられるようなことはない。

 ところが、このタイプは、成育過程で親や教師にほめて育てられたせいで、たいしたことをしなくてもほめてもらえるものと思っている。何かにつけてほめ言葉を期待する。

 現実は厳しく、その期待はたいてい裏切られるわけだが、そうするとすねたような態度を示し、やる気をなくす。
 要するに甘えが強いのだ。

 ほめられたがりの心がつくられる典型的なパターンは2つある。

 ひとつは、子どもの頃、親から十分に関心を向けてもらえず、共感や受容がなかったため、自尊感情が健全に育っておらず、自信をもつために他者による称賛を過剰に求めるようになる、というパターンである。

 もうひとつは、子どもの頃、親が甘やかしてチヤホヤしすぎたため、自分は特別といった意識が異常に発達し、他者に対して過剰な称賛を求めるようになる、というパターンである。

自称「ほめられて伸びる」人

 近頃目立つのは、この後者に相当する若者である。なかには、
「ほめられて伸びるタイプなんです」
 などといったセリフを恥ずかしげもなく自ら口にする者さえいる。

 周囲の上司や先輩は、
「そんな甘ちゃん、いらねえよ」
 と言いたい気持ちをグッと耐え、にこやかな笑顔を向ける。

 このタイプはうっかり厳しいことを言うとパワハラだと大騒ぎする恐れもあるため、
(勘弁してくれよ。こんなヤツ、いったいどうやって育てたらいいんだよ)
 と、内心お手上げ状態になる。

 そして、「ほめ達(ほめる達人)」研修を受けたときのバカバカしさを思い出し、
(なんでこんなヤツのご機嫌を取らなきゃいけないんだよ、バカらしい、やってられねえよ)
 とうんざりする。

 社会に出れば、頑張っても成果につながらないことも多く、なかなかほめられるような成果を出せないものである。そんなときも腐らずに頑張り続け、成長していくしかない。ほめられない状況でも伸びないとやっていけない。

 ほめられて伸びるタイプということは、厳しい時代には使えない人材だと言っているに等しい。だが、そのような部下や後輩が目の前にいる限りは、何とかおだてながら動かすしかない。

“かまって上司”ほどえこひいきが強い

 このタイプが上司でもややこしい。何かにつけて持ち上げられないと機嫌が悪い。

 当たり前のことを言っても、腰巾着みたいな連中が、
「さすが課長、鋭いですね」
 と持ち上げ、
(何を言ってるんだ、全然理解してないんだな)とあきれざるを得ない発言に対しても、腰巾着が、
「それはとても重要なご指摘だと思います」
 などと持ち上げる。それでご満悦の表情になる。

 持ち上げられないとすねるわけだから、その裏返しとして持ち上げられるのに弱い。そのためえこひいきがひどいのだ。

 上司が忙しそうにしていたため、ちょっと相談したいこともあったが遠慮し、自力で何とか報告書を仕上げて提出したら、どうも上司の態度が冷たい。ちょっとした雑談の折に、先輩にそのことを話したら、
「それは途中で課長に相談に行かないからだよ」
 とアドバイスされ、目から鱗(うろこ)だったという人がいる。

「ほら、○○は課長のお気に入りだろ? なぜかわかるか? 課長がどんなに忙しくても、遠慮なく相談に行くからだよ」
「えっ? 遠慮しない方が気に入られるんですか?」
「だれだって人から頼られればうれしいだろ? とくにあの課長は、持ち上げられたがりだから、人から必要とされたいって気持ち、あなたがいないとダメなんですって思われたいっていうのが、人一倍強いんだよ」

 そう言われると、相談に行くといつもうれしそうな表情になるのを思い出し、先輩のアドバイスに納得したという。

本来、ほめ言葉は、成果を出した人や周囲よりも頑張っている人に対してかけるものなのだが…(写真:Stingray_Japan/stock.adobe.com)
本来、ほめ言葉は、成果を出した人や周囲よりも頑張っている人に対してかけるものなのだが…(写真:Stingray_Japan/stock.adobe.com)
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「上司の心のケア」としてのホウレンソウ

 このことが、私が「上司の心のケアとしてのホウレンソウ」というものを提唱し、推奨する理由である。

 一般にホウレンソウというと、上司は部下一人ひとりの仕事の状況を把握しておく必要があるからホウレンソウが必要なのだというように、その実務的な意味が強調される。

 だが、その心理学的な意味も無視できない。それが、上司の心のケアとしての意味である。

 上司の心の中には、自分は部下から尊敬されているだろうか、部下がついていきたいと思う上司になれているだろうか、部下から軽く見られていないだろうか、といった不安がある。

 そのため、部下から頼られると、必要とされていると実感でき、不安が和らぐ。ゆえに、上司にホウレンソウを欠かさないことは、上司の心のケアになるのだ。

 とくに持ち上げられたがりは、ほんとうは自信がなく、心の中に大きな不安を抱えているために、頼られることがとても大きな心理的報酬になるのである。

 ポイントを押さえれば扱いやすい面もあるものの、機嫌を損ねないように余計な配慮をしなければならないところがほんとうに面倒くさい。

日経プレミアシリーズ『 【新装版】かかわると面倒くさい人
シンプルな話を曲解してこじらせる、持ち上げられないとすねる、どうでもいいことにこだわり話が進まない…なぜあの人は他人を疲れさせるのか? 職場からご近所、親戚関係まで、社会にまん延する「面倒くさい人」のメカニズムを心理学的見地から解剖する。

榎本博明著/日経プレミアシリーズ/990円(税込み)