その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大口克人さんの『 優待株・高配当株投資のきほん(日経文庫) 』。「第0章」をお届けします。

【第0章】

優待投資ってどんなもの?

日本の個人投資家だけの特権?

 株式投資の手法にはいくつかありますが、この本ではその中の「優待投資」と「高配当株投資」について解説していきます。この2つの投資法は分かりやすいので初心者にも取り組みやすいとされていますが、うまくいけば夢の「優待生活」や「配当生活」を送ることもできる大変楽しい投資法です。

 優待投資というのは「株主優待」の付いた株に投資して、そのお礼として企業から半年に1度など定期的に優待品を受け取る方法です。世界の他の国では、投資家が株を買ってもお礼に何か物がもらえることはほぼありません(企業は株価を上げることで株主に応えようとするのが投資の世界の常識だからです)。株主優待という制度は、お歳暮やお中元など「物」を贈り合う文化の根強い日本ならではのものだとされており、やや大げさですが「世界でも日本の個人投資家だけが得られる特権」だと言うこともできます。

投資でインフレ対策もできる

 またもらえる優待品は実に様々で、お米やお酒など食品・飲料から衣料品、洗剤、化粧品、生活雑貨に外食企業の食事券、自社サービスの割引券、QUOカードや図書カード、おこめ券などの金券類、dポイントやPayPayポイントなどのポイントまで、生活全体を幅広くカバーします。学習塾の月謝の割引サービスなども、子供がいる家庭にとってはうれしいでしょう。意外なところではジャンボ宝くじや胡蝶蘭がもらえたり、交通傷害保険に加入できたりもします。墓石や仏壇の割引サービスもあります。
 日本では30年以上もデフレが続き、その間は物価上昇がほとんど見られなかったのに、最近はインフレに転じているため、毎月何百品目もの値上げが発表されます。特に食品を中心とした生活必需品の値上げが著しく、家計は苦しくなる一方です。収入が上がりにくい中で生活費や税金が増えている現状は、誰にとってもうれしいものではないでしょう。
 しかし、株式投資を通じて食品や生活用品、食事券を定期的に受け取れるなら、その分だけ家計の助けになるのは間違いありません。いわば株式投資をしながらインフレ対策、生活防衛もできるわけです。もちろん投資なのですから、買った優待株がかなり値上がりしていたら売ってしまって、直接的に値上がり益を得てもいいのです。

優待品だけで生活する人も

 こういった投資手法を優待投資とか優待株投資と言い、主に優待銘柄に投資するスタイルを取る人を「優待投資家」と呼んでいます(ご本人たちは自らを「優待族」と言うこともあるようです)。
 優待投資家の中には元プロ棋士の桐谷広人さんのように、大量の優待銘柄を持ち、生活のほぼ全てを優待品で賄っている人もいます。実は優待投資は、会社の決まりで個別株が買えない私にとっても身近なものでした。私は投資情報誌の『日経マネー』で長年、桐谷さんの連載や対談をまとめる「桐谷番」の記者を務めていたためで、その縁で多くの優待投資家とも知り合うことができました。
 桐谷さんのご自宅に取材に伺うと、いつも優待品の箱が玄関から大量に積み上がっています。「優待財布」と名付けた専用の財布は外食の食事券や金券類で常にパンパンに膨らんでいて、各種の券を頻繁に出し入れするのですぐ壊れてしまうそうです。桐谷さんは時には「今週は現金を20円も使ってしまいました」などともおっしゃっていましたが、現金をあまり使わなくても生きていけるなんて、皆さんもこんな楽しい優待生活を送ってみたいものだと思いませんか。

 そして、優待投資をするメリットは単に「物がもらえる」だけではありません。優待品が届いても、肝心の株価が下がってしまっては元も子もないわけですが、後述するように優待銘柄には「何か悪い出来事があっても株価が下がりにくい」という特徴があるのです。このほかにも「生活実感をもとに銘柄を探せるので取り組みやすい」など複数のメリットがあり、初心者の株式投資の入り口としては非常に良いものだと思います。

高配当株投資ってどんなもの?

配当利回り3~4%の株を長期保有

 もう1つの高配当株投資の方はどうでしょうか。株を買って持っていると、その株数に応じた企業の利益配分である「配当」(配当金)を定期的に受け取れます。これは全世界共通のことですが、日本企業の場合、近年は「株主還元の強化」といって、配当を厚くするなどして株主に報いようという機運がかなり高まっています。中には「一度出した配当額は下げず、悪くても前年並みを維持する」という企業や、「毎年少しずつでも配当額を増やしていく」という企業もあります。これにより、日本株の高配当株投資の魅力も年々高まっているのです。

図0-1 予想配当利回りランキングの例/出所:日本経済新聞 電子版。2025年5月2日、全市場(東証PROマーケット除く)
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 株の中には「無配」といって配当が出ない株もありますが、配当のある株、中でも「配当利回り」(後述)の高い株を選んで投資するのが高配当株投資です。
 高配当株の目安は一般に配当利回りが3~4%以上とされていますが、皆さんがよく知る有名企業の中にも配当利回りが5%以上の企業はありますし、あまり知名度が高くなく配当で投資家に注目してもらおうという企業だと、配当利回りが2桁近くになることもあります。
 株を1銘柄しか持っていないと配当は年1~2回しか受け取れませんが、企業の決算時期は様々に異なりますので、複数の銘柄に分散投資していれば「毎月何がしかの配当を受け取る」ことも可能になります。これを生活費の足しや年金の補完にすれば、やはりインフレが進む中でも生活防衛ができるわけです。

乱高下相場でも活躍

 この高配当株投資も、配当という数字の手掛かりがあるので初心者にとって分かりやすく、取り組みやすい投資法です。例えば2025年3月末から4月にかけてはトランプ米大統領の関税政策をきっかけに、世界的な規模での株価下落が起こりました。このような株式相場が不安定で株価の乱高下が続く時期には、株式投資の基本である「安く買って高く売る(=値上がり益を取る)」ことが、初心者にとっては大変困難です。
 その点、高配当株投資なら配当利回りの高い銘柄を選んで買い、何年も売らずに持ち続けるだけです。4月7日には日経平均株価が1日で2644円(下げ幅は歴代3位)も下がりましたが、こういう金融ショックの谷底で「パニック売り」「狼狽売り」をしてしまうのが投資家として最も手痛い失敗だとされています。しかし高配当株投資では待っていれば配当が出るために、ショック時にも売らずに持ち続けやすいのです。中には配当が結構多い上に株主優待も付いているという「ダブルでおいしい株」もありますから、長期で持ち続けるモチベーションがさらに上がりますね。

 高配当株はリターンが計算しやすいのも魅力です。仮に毎年10%の配当が受け取れるとしたら、その株を10年持っていれば配当だけで100%になります。つまり、元を取ったといいますか、株を買った時に自分が支払った額が配当によって全部返ってきたことになります。そこから先は持ち出し0円で毎年配当だけを受け取り続けられるので、これまた非常においしい配当生活が期待できるのです。
 ベテラン投資家はこういう状態をよく「A社が恩株になった」と言います。本来の恩株投資法とは、買った株が倍に値上がりしたら半分売って投資額を回収し、持ち出しがゼロになったのに配当が得られる(なんなら株価が下がっても痛くもかゆくもない)状態を作ることですが、長い間に配当が積み上がって恩株になることもあるのです。

配当収入が年2400万円の配当長者も

 高配当株投資家の中には、配当だけで年間に2400万円も受け取っている「配当長者」もいます。消防士を早期退職して専業投資家に転身されたかんちさん(ハンドルネーム)がその方です(第4章でインタビュー)。また私が以前取材したペリカンさん(同)も、株の配当とFX(外国為替証拠金)取引のスワップポイントを合わせ、25年には860万円受け取る見込みだそうです。お二人とも高配当株投資に加え、優待投資も実践されています。初心者に限らず、投資で1億円以上の資産を築いた「億万投資家」も、やはり高配当株投資や優待投資を高く評価しているということですね。

 もちろん、これだけの配当を受け取るには多くの投資も必要で、かんちさんの場合は約8億円もの株を持っています。一般の投資家はここまではとても無理でしょうが、仮に100万円を配当利回り5%の株に投資したとすれば、年に5万円の配当を受け取れる計算になります(税金は考慮せず)。そういった額でも、定期的に入ってくる副収入があれば、毎日の生活にも少し余裕が持てるのではないでしょうか。また年に5万円なら10年では50万円。最初の100万円の半分は配当で取り返したことになりますし、仮に株価が半分まで下がっても配当がカバーしてくれて損は出ていないことになります。

新NISAとの相性もバツグン

 さて24年には新NISA(少額投資非課税制度、後述)がスタートしており、これをうまく使えば、個人投資家が全く税金を払わずに株式投資を行うことができます。NISAでは株や投資信託(以下、投信)の値上がり益が非課税になるだけでなく、配当 (や投信の分配金)も同じく非課税になるので、「株を長く持って配当を得続ける」高配当株投資と非常に相性が良いのです。
 逆に言うと、せっかく多額の配当を受け取っても通常の口座(課税口座)だと20%以上も税金を取られてしまいますので、高配当株投資を始めるなら「まずはNISA口座の成長投資枠を活用するのが定石だ」ということになります。優待品には基本的に税金はかかりませんが、優待投資でもやはり値上がり益や配当を非課税にするために、NISAを使うのが定石と言えます。

 さてこの魅力あふれる優待投資、高配当株投資ですが、株式投資の一手法ですので、「株とはそもそも何なのか」という基本のキを知らなければ成功はできません。どちらにも特有の落とし穴があるので、「とにかく優待の付いた株とか、配当利回りの高い株を買えばいいんでしょ」という考えで安易に始めてしまうと、優待品や配当は受け取れても結果的に大損で終わる場合もあるのです。また非課税制度を活用するためには、NISAについて知っておく必要もあるでしょう。そこでまず簡単に、株式の仕組みや株式投資の基本を学ぶことにしましょう。

【目次】

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